アドビシステムズが提供するクリエイティブツール「Adobe Creative Cloud」では、定期的に大規模なアップデートを実施している。2016年もアップデートが発表され、「Photoshop」や「Illustrator」といったメジャーツールをはじめ、映像製品、ウェブ制作製品、写真製品、モバイルアプリなどで新機能の追加などが発表された。
動画編集ソフト「Premiere Pro CC」と、コンポジットソフト「After Effects CC」も大規模なアップデートとして、8K映像に加えVR映像の編集に対応した。また、近年ではSNSをはじめとしたコミュニケーション手段としても動画が使われ始めており、“映像作品のためのツール”から裾野が広がっている。
一方で、ハリウッドをはじめとした映画産業での活用例も増えてきている。映画「デッドプール」では、全編にわたってPremiere Pro CCを使用したデジタルワークフローが採用された。5800万ドルという、ハリウッド映画としては予算のきつい映画だったものの、クオリティの高い作品に仕上がったという。
こうした新機能と動向について、アドビシステムズプロフェッショナル向けビデオ&オーディオ製品マネジメント担当シニアディレクターのビル・ロバーツ氏、同社プロフェッショナル向けビデオ&オーディオグループ製品マネージャーのスティーブ・フォード氏、同社フィールドマーケティングマネージャーの古田正剛氏に話を聞いた。
ロバーツ氏 映像関連では、技術変化がいろいろ起きています。まずは、ウルトラハイディフィニション(UHD=4K/8K)の登場です。日本はこの分野ではかなり先を行っており、ブラジルオリンピックには日本の放送局も8Kを導入すると言われております。また、ハイダイナミックレンジ(HDR)も高解像度環境と相性が良いです。コンシューマに向けて、最も光や色彩を取り込んで届けられる時代になりました。
もう一つのイノベーションは、VR、つまり360度型の動画になります。従来型のテレビや映画のエクスペリエンスを拡張するために、多くの企業がVRを導入するようになっています。また、マルチデバイスへの移行も大きなシフトと言えるでしょう。
動画の収益化手法も変わってきています。昔は、消費者がケーブルテレビ会社に対価を支払うシステム(米国ではケーブルテレビが一般的)でしたが、最近はクラウドプラットフォーム上で動画が配信されるようになりました。グローバルなオーディエンスに向けて収益化を図ることができるのです。
また、コンテンツの制作とコンテンツの配信の融合が起きています。アドビは、「Creative Cloud」「Marketing Cloud」を持っていますので、どちらも網羅することができる唯一のソリューションプロバイダだと認識しています。
ロバーツ氏 我々が新機能で注力したのが、ワークフローをつなぐことにありました。そのために、8Kの動画編集にも対応できるよう「プロキシワークフロー」を採用しました。これは、編集時に解像度の小さな軽量ファイルを用意し、最終的なアウトプットを8Kの解像度でエンコードするというものです。これにより、超高解像度に対応しつつ、スムーズな編集が可能となったのです。
古田氏 また、VRにおいては、VRゴーグルでの見え方をシミュレーションできるモニタリング機能を搭載しました。これまでは、地球儀を平面に伸ばしたような歪んだ映像の編集しかできませんでしたが、ゴーグルを装着した場合の映像が確認でき、スライダーでぐるっと見渡すこともできます。
ロバーツ氏 VRというのは、すべてのカメラの映像を繋ぎ合わせると5K相当の映像になり、かなりの演算能力を必要とします。例えば、Googleの「Jump」というカメラシステムがありますが、16台のカメラを使用するため、3Dのメタデータだけで1秒あたり1TBに膨れ上がるのです。そのため、Google JumpではAPIが用意されていません。
古田氏 Premiere Pro CCでは、Apple Metal※にも対応しました。VRのワークフローにおいて、ディスクリートGPU(CPUに内蔵されたGPUではなく、NVIDIAやAMD製の外部GPUを指す)が一番適しています。Premiere Pro CCでは、「マーキュリープレイバックエンジン」が使われていますが、CUDA、OpenCL、MetalなどPCが持つ演算能力を1ビットたりとも漏らさず使い切るのが、Premiere Pro CCの特徴です。
(※編集注:Apple Metalとは、Appleが開発したオーバーヘッドの少ないグラフィックス用API。これまでAppleでは、OSX/iOSにOpenGL/OpenGL ESを採用していたが、汎用性が高くオーバーヘッドを起こしやすいという欠点があった)
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