2300円の地図アプリを無償化してわかったこと--インクリメントP社長に聞く

 インクリメントPは東日本大震災の際、「帰宅支援や避難経路の確認などに役立ててほしい」として3月18日から4月7日までアップルのApp StoreにてiPhone向け地図・ナビゲーションアプリ「MapFan for iPhone」を無償提供した。MapFan for iPhoneは2300円とiPhoneアプリとしては高額なもので、「英断」との声も多く聞かれた。無償化を決めた背景はどのようなものだったか。また、今回の対応で見えてきたものはなにか、代表取締役社長の神宮司巧氏とMapFan for iPhoneの企画を担当する宮沢貴之氏に話を聞いた。

--無償化するまでの経緯を教えてください。

  • インクリメントP代表取締役社長の神宮司巧氏

神宮司 震災が起きた日は出張で大阪にいました。川崎の本社のほか、地図をつくっている開発部門が岩手県の盛岡にあります。盛岡が震源地に近いと知り、しばらく安否確認などに忙殺されていました。テレビを見ながら、これはかなりの地震だと。後々わかったことですが、沿岸部の出身者もいました。そんな中で、MapFan for iPhoneのダウンロード数が増えているという報告が上がってきたのです。

--MapFan for iPhoneの需要が高まってきた理由は何だったのでしょう。

神宮司 MapFan for iPhoneは他社と違って、地図データを(ローカルに)持っているのが強みです。ケータイアプリと違って課題にしていたのは、圏外でどうやってサービスするかです。圏外でも使えるというコンセプトで作った商品がMapFan for iPhoneです。

 今回の震災時は、多くの人がケータイがつながらず苦労していたわけですが、そういうところで認識され、帰宅難民が出る中で使いやすかったという声があったと聞きました。

--需要の高まりがきっかけで、無償化を検討し始めたということですが、最初から無償と決めていたのでしょうか。

神宮司 まず、社会貢献をできないかという提案はボトムアップ的にあがってきてたので、どうやったらできるか検討しろと指示しました。地図データはアプリ自体にありますが、コンビニの検索など検索はサーバで行っています。彼らが心配したのは、いきなりダウンロード数が増えるとサーバが止まってかえって迷惑をかけてしまうのではないか。またそれ以前に2300円を出して買っていたユーザーに説明がつくかどうか、という点でした。最初に持って来た提案は、半額の1200円とさらに半額の600円でした。

 個人的に、社会貢献として中途半端はやりたくないと思っていて、もう1回無償でできないかということを検討してみろと言ったんです。実は彼らも無償でやりたかった。サーバの心配だけだったのです。たとえば600円でやってサーバが落ちない保証はあるかなどを皆が集まって議論していました。

 そこで議論に入っていくと、サーバ関連や技術の人間もいました。私も技術出身なもので、細かいところを説明させて、無償のリスクは高いが、どうやったらリスクヘッジができるか確認していきました。すると、いわゆるサーバの監視をし、危ないと思ったら(アクセスを)絞るなどすれば、ある程度落ちないところまでできると。ただ、アクセスが遅くなる。次に2300円で買った人に対してどうするか。これは、大震災ということで、買った人も理解してくれるだろう。そう信じましょうと。監視をしっかりしてくれれば無償でできるのではないかという見通しがついた。

 社員には盛岡のこともあって、なんとか社会貢献したいという思いがあった。ならば無償でやろうと。やるからには早くやれ、アナウンスも早くやれ。そういうところからスタートしたのです。そうして無償化に踏み切りました。

--3月18日に無償化に踏み切られたわけですが、震災から1週間の間の議論ということでしょうか。

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