平林 昨年の夏に開発を始め、この際の設計目標を「薄さ30mm台、重さは32型で10kg前後」に定めました。今までの薄型テレビの設計は積み上げ方式で、必要なパーツを入れると結果としてこの厚みと重さになる、という手法をとってきました。
ところが、今回のWooo UTシリーズでは、最初に30mm台という薄さが決まっていましたから、これには苦心しました。かなりシビアな目標でしたが、日立には多くの研究所やグループ企業があり、これらのシナジー効果を結集して目標を達成したのです。
まずIPSアルファテクノロジ社と共同開発した「超薄型液晶パネルモジュール」が大きなブレイクスルーといえます。これによってパネル自体の薄さを従来の約半分にすることができました。薄型にすると輝度にムラができやすいのですが、バックライトとパネルの間に新開発の光拡散板を挿入することで輝度の均一な超薄型液晶パネルを実現しています。
また、従来のCCFL方式(冷陰極管)よりシンプルで効率の良いEEFL方式(外部電極蛍光管)バックライトの採用で、駆動回路基板の小型化を実現しました。
平林 日立グループの日立メディアエレクトロニクス社が新開発した超薄型電源も大きなブレイクスルーです。今までの薄型テレビの電源部は、トランスや大型コンデンサ、ヒートシンクなど意外に大きな部品を使っていました。こうした部分をすべて見直すことで従来の約1/3の薄さの超薄型電源を実現しました。
企業秘密の部分も多いのですが、基本的な考え方は、縦方向の厚みに制限があるなら、余裕のある横方向に広げてしまおう、という発想です。例えば電源に背の高いコンデンサが必要な場合は、まず横に寝かして付けてみる。それでも入らない場合は、背の低い数個のパーツに分けて実装する。あるいは横に広がった専用パーツを新規に開発する、というような手法で開発を行いました。
賀来 ファンを入れるスペースがないので放熱にも苦心しました。このため、背面の下端に吸気スリットを、上端に排気スリットを設け、下からの空気が上に流れる構造になっています。一般の薄型テレビと違って真後ろに放熱孔がなく、壁に接近させても熱がこもることはありません。この点が壁掛けの際に大きなアドバンテージになります。
内部の基板の高さは約10mmで、このわずかな隙間を熱の通り道にして空気を下から上に流すしくみです。この際、パーツが邪魔をしないように、コンピューターで熱の流れを解析し、放熱に最適な部品の配置を検討しました。この放熱設計には弊社の大型サーバーの放熱技術などのノウハウを駆使しています。
賀来 構造的にも今までの薄型テレビとは大きく異なります。薄型テレビは、ねじれや歪みなどに耐えられるよう一定以上の強度を確保する必要があります。従来の薄型テレビの構造では、パーツそのものの剛性は問題にならず、強度が弱い部品を使っても最終的に剛性の高い外装ボディに入れてしまえば問題はありませんでした。いわば鎧を着せて守るような感覚です。
ところが今回のWooo UTシリーズでは、外装まで薄くするために、強い鎧を着せられません。このため、液晶パネルや基板といったパーツそのものの剛性を高めることが必須になりました。鎧ではなく骨格や筋肉そのものを強くする、という感じですね。
平林 超薄型化には大きなブレイクスルーも必要でしたが、実際の設計は個々のパーツや構造を1つずつ見直して行くという地道な作業になりました。まず30mm台の薄さにどのような部品が入るのか、あるいは入らないのか? を吟味することから始めました。
例えば映像や音声の端子についてですが、各種の端子サイズには国際規格があって高さなどを変えることはできません。ですので、30mmの中に並べられる端子を選んで、最も低く最適な位置にレイアウトする必要がありました。モニタ部の映像入力はHDMIとPC用のRGB端子に割り切って、アナログAV入力端子などはWoooステーションに逃がしてあります。
平林 薄くしても映像と音にトレードオフはありません。液晶パネルは、高輝度で上下左右178度の広視野角というIPSαパネルの素性の良さを更に向上させ、コントラスト比は10000:1となっています。
また、ハイビジョン映像をフルデジタルで処理する「Picture Master Full HD」回路の見直しによって、さらに精細感のある映像を実現しています。サウンドは各3Wの3.5cm4スピーカーを採用し、映画のセリフなど中音域を聞きやすくする「クリアボイス」機能や音質イコライザーも装備しています。
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