ターニングポイント迎える、中堅中小企業向けIT市場

長いトンネルを抜けるも、リーマンショック以前への回復は困難か?

 IDCは、2011年1月、国内中堅中小企業(従業員999人以下)向けのIT市場についての予測を発表している。これによれば、2011年は3兆6380億円で前年比0.1%増と4年ぶりのプラス成長への回復を予測している。ようやく明るい傾向が見えてきたとはいえ、内実はまだまだともいえる。対前年比の伸長率の推移をみると、2007年までは、この市場、つまり、中堅中小企業のIT投資は、毎年3-4%程度で拡大してきた。ほぼ横ばいの伸びでは、リーマンショック以前の水準に戻ったとまではいえないからだ。

 IDC Japan ITスペンデイング マーケットアナリストの市村仁氏は「これらの規模の企業を取り巻く社会環境が依然厳しいだけではなく、IT投資に対する考え方、事業活動をITで支援する、ソリューション、ツールなどが大きく変化しており、経済全体が改善したとしても、かつての年率3-4%成長との状態には戻らないだろう」とみる。

ITに求められるニーズ見極めたソリューション提案がカギに

IDC Japan ITスペンデイング マーケットアナリスト
市村仁氏

 その理由は大別して2つある。1つはクラウドの存在だ。2011年度は、中堅中小企業でもクラウドの利用が本格化するとみられる。IDCの調査では、これらの企業の20.2%が、2010年度以降、SaaSやクラウドに投資する予定であるとの意向を示している。
 「2009年にはSaaSやクラウドへの投資志向は10%未満だったが、2010年に大きく伸びている。クラウドの活用は増加する一方、逆にERP、インフラ関連など、部分的なIT投資は抑制されるだろう」と市村氏は指摘する。

 もう一つはフリーアプリケーションだ。「Google Appsなどのようなフリーアプリケーションは本来、一般消費者向けであり、中堅中小といえども、企業が積極的に使用することはないと見られていた。たが実際はそうでもなく、フリー製品は企業向けアプリケーションとしても一定の地位を占めることになるため、これもIT投資を抑える要素となる」(市村氏)

 さらに「クラウドのほか、BPO(Business Process Outsourcing)の普及拡大により、会計・人事などの業務システム関連のIT投資は縮小する。たとえば、電子商取引の事業では、個別にシステムを構築しなくても、楽天などのポータルには決済サービスが備わっているほか、物流サービスまで用意されている」というような事情もある。

 IDCの調査によると、中堅中小企業が経営課題として最も重視しているのは売上げ拡大であり、新規顧客の開拓や営業力増強も求められている。しかしこれらの項目に対し、IT活用により効果を期待できるとの考えはあまり多くない。
 それでは、ITベンダーはどこに着目すべきか。市村氏は「業務プロセスの改善、生産性向上は、経営課題としては、喫緊の課題である売上げ拡大などに比べれば、比重は大きくないものの、ITによる改善への期待度は大きい。ITベンダー側は、これらの項目について、課題にうまく応じられるソリューションを工夫し提案していくことが今後のキイとなるだろう」と話す。

参考資料:中堅中小企業における経営課題と、IT活用によって効果を期待できるものの比較(2010年4月 IDC Japan)

新成長戦略を活かせ、スマートグリッド/シティがもたらす大きな需要

IDC Japan ITスペンディング リサーチマネージャー
笹原英司氏

 いまのところ既存の市場では、それほどの成長が期待できない。とすれば、新たな市場や機会はないのか。「政府の新成長戦略で、重要な構成要素となるスマートグリッドと、それを押し広げたスマートシティに大きな可能性がある」と提言するのは、IDC Japan ITスペンディング リサーチマネージャーの笹原英司氏だ。

 スマートグリッドでは、分散型発電システム、再生可能エネルギー、電気自動車による交通、事業所・家庭の高効率な電気使用などが要素となる。これらの技術を用いて、一つの都市全体のエネルギー構造を高度に効率化した街づくりを図るスマートシティ構想も俄然、注目されるようになっている。

 市村氏によれば「スマートシティを実現させるには、センサーやMachine to Machineの技術が一つの機軸になるが、これまで、日本が、ものつくりの力を注いできた過程で培ってきた電子制御、Machine to Machine関連の技術を融合させようとの動きが出てきた。環境やエネルギーの分野でも、国内のベンチャー企業は強い。その企業にしかできない技術を保有しているようなところもあるほど」だという。

また「インターネットを利用した遠隔制御についての技術、Machine to Machineに伴うログに付随したデータを蓄積し、リアルタイム分析などが必要になってきており、データは膨大になるが、それらを手掛ける中堅中小企業は、このような領域で、実はあまりITを利用していないため、今後IT化しようということになる」とする。

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