例えば、同社では、小田島氏主導の下、データ分析に基づく「来客予測式」を独自に作り上げている。これは、過去の売上データや気象(天気予報)、曜日、近隣の宿泊客数といったさまざまなデータから翌日の来客数を予測する試みだ。
「この予測式の開発に当たっては、400項目近いデータの相関関係を詳細に分析し、来客数に最も影響を与えそうな項目を徹底的に洗い出しました。結果的に、日本で最も精度の高い予測式が出来上がったと自負しています」と、小田島氏は胸を張る。
この来客予測式の開発に当たり、小田島氏は多岐にわたるデータの収集に力を注いだが、その中で、ある考えに至ったという。それは、人が実際にモノを購入する経路やきっかけを知るうえでカギになるデータがまだ足りていないとの考えだ。
「例えば、POSデータでは、基本的に購入者の性別・年齢は分かりません。また、リアル店舗の場合、店舗の前を行き交う女性・男性が何人いて、そのうちの何人が入店したかの入店率や、入店者の何割が実際に商品を購入したかの購買率をつかむのも大変です。加えて、販促用の店頭ディスプイを変えたときに、男女の顧客がどんなふうに反応して入店し、それが実際の売上にどれだけ貢献したのかも、なかなか見えないのが現実です。来客予測式の精度をさらに高めていくには、その辺りの欠けているデータのピースを埋める必要があると考えました」
もちろん、相応の労力をかければ、日々の通行量や入店者数を目視でカウントし、入店率・購買率を割り出すことは可能だ。だが、そのようなことを連日行うのは、コスト的にも、人的リソースの面でも、とても現実的ではない。
ならばどうすれば、通行者数や入店者数、入店者の性別・年齢、さらには感情を継続的に、かつ精緻に計測できるのか──。この問いに対して小田島氏が出した結論は、カメラによる観測と、AIによる画像解析であったという。
こうした考えの下、小田島氏は、自社のニーズに適合した画像解析ソリューションを探すために、東京のIT系イベントに足を運んだ。そのとき、偶然巡り合い、小田島氏が「自社のニーズにピタリとはまった」とするのが、「Microsoft Azure」のAIサービス「Cognitive Services」を活用したアロバの映像解析サービス「アロバビューコーロ」だ。
Cognitive Servicesは、学習済みのAIをサービス化したもので、画像、言語、音声、検索、知識の5分類29種類ものAPIを提供している。アロバビューコーロは、この中の『Face API』と『Emotion API』を組み合わせた画像解析のサービスである。
「このサービスでは、カメラの前に立った人の顔から、その性別・年齢が高い精度で即座に判定でき、データが蓄積されれば、その客が初来店の顧客かリピーターかも判別できます。もちろん、カメラで撮影した人の数も重複を省いてカウントできますし、人の表情から感情を分析することもできます。そうした顧客の正確な数を把握できる機能が、リアル店舗の販促に有効であるとの考えは持っていましたが、小田島さんから実際のニーズを聞かされたとき、我々もアロバビューコーロの活かしどころを改めて確認できました」と、アロバ代表取締役社長の内藤秀治郎氏は言う。
アロバビューコーロには、解析性能とコストパフォーマンスに優れるという特徴もある。
アロバビューコーロは、「エッジ」と「クラウド」のハイブリッド構造を成しており、エッジ側で、カメラの撮像(動画像)から解析に必要な人の顔の静止画像データだけを切り出すという前処理を行いクラウド側に送出する。しかも、エッジ側で切り出される静止画像は、Cognitive Servicesでの解析用に最適化されている。
「もともとCognitive Servicesの画像認識精度は非常に高いのですが、当社の画像最適化技術によって、クラウド側での解析の精度/スピードを一層高めています」(内藤氏)。
また、Azure側に送出されるのが動画像ではなく静止画像であることから、エッジ側やクラウド側に大規模なストレージを用意する必要はなく、専用の広帯域回線の敷設も不要だ。前処理を行うエッジにしても高性能マシンである必要はない。そのため、ソリューションの導入・保守費用も低く抑えられている。
「AIを使った画像解析の仕組みを導入したということで、周囲からは数百万円規模の投資を行ったと思われがちですが、決して、そんなことはなく、私たちの手の届く価格で自分たちの欲する画像解析の仕組みが導入できました。これは、アロバビューコーロの優れた設計のおかげですし、技術進歩の恩恵だと感じています」(小田島氏)。
アロバビューコーロの導入を決めたゑびやでは、商店内の入口付近と、和食レストラン店外の2カ所に定点カメラを設置、2017年7月から、カメラ画像の解析データを活用し始めている。その効果について、小田島氏は、「入店・来店客の性別・年齢・感情がとらえられるようになっただけでも大きなメリットです」と語り、そのメリットを示す好例として、店舗ディスプレイの事例を挙げる。