関東および関西エリアであれば、インターネットでいつものラジオをリアルタイムに聴取できる――こんなサービスが実験的に始まった。
在京、在阪ラジオ局計13社と電通が組織する「IPサイマルラジオ協議会」が3月15日に開始した「radiko.jp」は、地上波アナログ(地アナ)ラジオをインターネットでサイマル配信(2つ以上の媒体で同時に配信すること)するサービスだ。このサービスはどういった背景で登場したのだろうか。
電通が2月22日に発表した2009年の広告費に関する調査によれば、インターネット広告が前年比1.2%増の7069億円、新聞広告が18.6%減の6739億円となり、ネット広告が新聞広告を初めて上回った。その一方でラジオは11.6%減の1370億円、雑誌は25.6%減の3034億円、グロスでは1位の座は確保するものの、テレビも10.2%減の1兆7139億円となっている。2001年との比較では新聞が44.0%減とひどいが、ラジオもそれに次いで同31.4%の落ち込みである。在京局はともかく地方局などはもはや“ひん死”の状態であることは間違いない。
そこに飛び出したのがインターネットで地アナラジオをサイマル配信するこの企画。業界関係者によれば、今回のradiko.jpが実現に漕ぎつくまで、何年もの間ラジオ局各社が協議・調整を重ねてきたという。何よりもまず、サイマル配信によって地上波を聞くリスナーが減る可能性がある。それはつまり、地上波放送の死につながる。
知的財産に関する運用にも時間を要した。地上波では国家的な免許事業ということもあって音楽利用に関しては許諾が免除されている。つまり勝手に使っても決められた使用料だけ払えば問題ないのだ。インターネット配信についても、音楽利用に関してはこの10数年で制度改正が度々行われ、数年前に、地上波(デジタル・アナログの両方)のサイマル同時放送であれば許諾なしに利用が可能となった。
問題は出演者の出演料や時事通信、共同通信といった通信社から得たニュース情報の二次利用であった。「サイマルなので二次利用には当たらない」と思いがちだが、あくまでニュース情報の利用許諾はラジオに関してのみとなっており、インターネットという新しいプラットフォームでの配信には、別途許諾や使用料が必要になるとされていた。
そうなると、使用料が放送事業を圧迫するため、サイマル配信を断念せざるを得ない。では、許諾されない部分だけ抜いてネットに配信するかと言えば、それはそれで経費がかかる。こうして一時は実現が暗礁に乗り上げることもあったという。
そんな議論を繰り返している中、「IPサイマル配信の試験放送」であるという大義名分によって、なんとか通信社からも許諾を得て、サービス開始に至ったのだという。実際radiko.jpに掲載されているプレスリリース(PDF)では、8月31日までの試験運用となっている。
今回実現に至ったラジオ局13社によるインターネット配信だが、これまでにもラジオ各局はインターネット配信についてさまざまな試みを続けてきた。
インターネットが普及し始めた1990年代後半から先陣を切ってネット配信を始めたのは、ニッポン放送の「オールナイトニッポン」だった。その際は、許諾上の問題で音楽やCMを放送できなかったため、これをカットしての配信となっていたが、そんな不完全な配信でも、電波の受信が難しい地域や場所で数万人が聴いていた。
そしてiPodの普及で始まったポッドキャスティングや携帯電話の着うたを利用した番組配信なども広がってきた。現在、地上波デジタル(地デジ)ラジオについてはほぼすべてがネットでサイマル配信されているほか、一部では有料でのダウンロード配信も始まっている。しかしおおむね収益にはつながっていないのが現状だ。地アナラジオの収益を上げるためには何としても地アナラジオ番組の聴取率を上げるほかはない。
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