太田昌孝
2007/08/23 08:00
国会審議の著作権法上の扱いが問題となるのは、40条2項に権利制限として「国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人において行われた公開の演説又は陳述は、前項の規定によるものを除き、報道の目的上正当と認められる場合には、新聞紙若しくは雑誌に掲載し、又は放送し、若しくは有線放送することができる」とあるからだ。
この条項によれば、国会審議は「国」の「機関」「において行われた」「公開の演説又は陳述」なので権利関係者に無許諾で「(有線)放送」まではできるが、限定列挙だとすると40条2項に記載されていない「自動公衆送信」はできない。ビデオライブラリ配信は、いわゆるVoD、つまり、過去の国会審議の記録を「公衆からの求めに応じ自動的に」配信するもので、「公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的」としておらず受信者によって受信のタイミングはばらばらなので、どう著作権法を解釈しても自動公衆送信であり、限定列挙解釈では違法となる。
なお、ここで権利関係者とは例えば個々の発言者である。また著作権法に詳しい人にあらかじめ断っておくと、議員規則に「国会審議はインターネット配信される」等の記述がある場合、それを知っているはずの議員等は「黙示の許諾」を与えていると考えることもできるが、部外者である参考人には適用できない。そもそもそのような規則はないとのことである。また、著作権法40条1項の「政治上の演説又は陳述」は「いずれの方法によるかを問わず、利用することができる」という権利制限が働く場合は自動公衆送信も可能だが、少なくとも参考人の政治的意図のない発言は、著作物ではあっても「政治上の演説又は陳述」ではないというのが筆者と文化庁の共通の認識である。
この問題について筆者が2006年6月に衆議院テレビに問い合わせたところ、得られた回答は、
衆議院ではインターネット中継を行う行為を「自動公衆送信」と考えており、著作権法第40条第2項には「自動公衆送信」の行為は挙げられていませんが、インターネットでの中継放送は画像・音声を公衆に伝達する点で、その実態は実質的に同項の「放送」または「有線放送」と同視できるので、インターネット中継を行う行為は発言者に対して著作権の侵害にならないと判断しています(原文のまま)
というものであった。「自動公衆送信」を「放送」または「有線放送」と同視するというのは、限定列挙を正面から否定した、フェアユースそのものだ。
2006年7月に入り衆議院庶務部の栗田広報課長と文化庁甲野著作権課課長と面談したが、衆議院事務局の見解は変わっておらず、発言者にインターネット配信の許諾はとっていないが配信自体は合法であるとの主張と、国会審議のインターネット配信は事務局の独断ではなく議員運営委員会の議決を踏まえた国会の意思に基づくものであることが確認できた。
一方、文化庁著作権課はやはり限定列挙にこだわり、国会審議のインターネット配信は違法であるとの見解であったが、現状がフェアユースならフェアユースを認めるのに著作権法改正は不要との見解も示した。
2006年12月の国会の著作権法改正の審議で、厳罰化に懸念を示していた社民党の保坂展人衆議院議員にこの件を伝えたところ文教委員会での審議の場とりあげていただき、文化庁加茂川幸夫次官の答弁では、
委員御指摘のいかぬという意味が、私、取り違っておるかもしれませんが、権利制限が働いていない、著作権法の本則が適用になるということであれば、そのとおりだと思います。
となっている。国会審議のインターネット配信であっても著作権法の範囲内であり、配信が違法であると文化庁が認識していることが明らかになった。
ただ、法改正の審議事態は解釈の差による矛盾を放置したまま進み、厳罰化等が可決されている。
では、日本の著作権法でフェアユースは認められるのだろうか?日本では法解釈は司法の責任なので、著作権法の解釈でフェアユースが認められるかは一応司法判断が確定しないと決まらないが、今回の事例に限ればフェアユースが認められることは明らかである。
というのは、国会審議を国会が公衆に見せ、また公衆が見るのは「参政権」そのものだからだ。発言者は著作権を持つという立場での権利者だが、発言を使用する側も参政権を持つという立場での権利者である。そして、権利と権利が対立する場合には互いに譲歩しフェアな落としどころを探るのが当然であり、これがフェアユースとなる。
「著作権法に定める権利は神聖にして犯さざるもので、著作権法の明文規定以外の場合は絶対的に参政権に優越する」なんて理屈は通る余地はなく、国会審議程度は非営利はもちろん、営利でも、自由にネット配信できるべきだろう。
日本の著作権法は限定列挙であるという一部の知財法専門家の常識は、知財法に定められた以外の多種多様な権利の存在を失念した思い込みに過ぎない。
日本の著作権法はフェアユースを認めていると解釈するべきだ。これは、法理論上も、今後の新たなインターネットビジネスモデルの発展や知財成果物使用の振興のためにも必要だ。何より、国会が長年公然と続けてきた選挙民へのサービスは、サーチエンジンのキャッシュと同様、非合法なはずがない。
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立法者は「法の精神」に照らして条文を見直す義務がある。テクノロジーが進歩しようが新しいメディアができようが、著作権法や参政権の根拠となる考え方が変わるわけではないので、「法律で実現しようとしたこと」が条文で満たされなくなっているなら、条文の方を修正しなければならない。正しく修正されればもっと解りやすいものになるはず。メディアの側からも(金がらみの話ばかりでなく)建設的な提案が出てくることを期待したい。