日本ではサーチエンジンのキャッシュは違法であると言われている。内閣府知的財産戦略本部の人と話をしたところ、「サーチエンジンのキャッシュは諸外国ではフェアユースとして認められているが、日本では違法となりキャッシュは外国に置く必要がある」との認識を示していた。
しかし、ネットの掲示板やブログでは、グーグルやヤフーの日本法人が運営するサーチエンジンのキャッシュを海外に置いても日本の著作権法が適用されることが指摘されている。刑法施行法27条に「著作権法 ニ掲ケタル罪」は「刑法第三条ノ例ニ従フ」とあり、刑法3条には「この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国民に適用する」とあるからだ。なお、グーグルやヤフーの日本法人も「日本国民」であり、それぞれgoogle.co.jp、yahoo.co.jpの管理責任者であるため、「日本国外において」であれグーグルやヤフーのキャッシュ行為には、日本の著作権法の罪が適用される。
では、日本法でサーチエンジンキャッシュは合法なのか?これほど当たり前のように使われているキャッシュがもし違法ならば、事業者だけでなくユーザーにとっても困る自体に陥る。
キャッシュの合法性を「親告」で説明しようとする説もある。日本では著作権法違反は、親告(被害者による告訴)がなければ罪には問われない。だが、親告がなくても違法は違法である。誰かがきまぐれに告訴したら罪に問われうるようでは、サーチエンジンビジネスが成立するはずもない。
単純かつ合理的な説明は、日本でもフェアユースが認められているというものだ。これに関して、先日国会が行っている審議のインターネット配信がフェアユースでしか説明できないことが明らかになったので、ここに紹介する。
フェアユースとは米国等の著作権法に明記された、著作物をフェアに使用する場合には著作権は無視してよいという規定だ。フェアかどうかを判断する基準として、条文では営利性、市場価値への影響等が列挙されている。が、米国では市場への影響が大きいと思われるVTRによる録画(いわゆるタイムシフト)を、フェアと認めた連邦最高裁判例があり、営利目的で運営されているサーチエンジンのキャッシュも一般にフェアと認識されているなど、かなり広範な使用形態がフェアと考えられている。その結果、著作権にとらわれずまったく新たなネットビジネスが登場する助けとなっている。
一方、日本の著作権法には明文化されたフェアユース規定はなく、著作権等の制限規定(「権利制限」という)が個別に定められている。文化庁や知財本部は、これらの権利制限には拡大解釈は認めず、規定に厳密に適合しない場合は常に著作権が有効であるという「限定列挙」解釈をとっている。その理由は「『権利』制限」という言葉に潜んでおり、権利制限自体は著作権法上の権利ではないため他の権利に対立できず、対立されない著作権という権利は自由に行使できるかららしい。その結果、既存の権利制限が及ばない新たなネットビジネスの出現は阻害される。
しかし、国会のインターネット配信の例では著作権に参政権が対立するという権利の対立が現に起きており、その意味でも興味深い。
国会はここ数年、衆議院テレビや参議院テレビとして、審議の模様をリアルタイムでインターネットに送信し、また、過去の審議をビデオライブラリとしてインターネットからアクセス可能にしている。
著作権法上は、このようなインターネットへの送信は「公衆送信」となるが、公衆送信は「(有線)放送」と「自動公衆送信」に分類され、著作権法上の扱いが異なる。「(有線)放送」のほうが「自動公衆送信」より権利制限が適用される場合が多く、より自由に行える。限定列挙にこだわる以上、実質はどうあれ両者の区別は極めて重要である。
著作権法では「(有線)放送」とは「公衆送信のうち、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線(有線)電気通信の送信」であり「自動公衆送信」とは「公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く)」と定義されている。例えば、「IPマルチキャスト」は「公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的」としており、たとえ「公衆からの求めに応じ自動的に行」っても「(有線)放送」になる。しかし、ネットに適用できる権利制限を極力減らすためか、文化庁や知財本部やJASRACは「IPマルチキャスト」は「公衆からの求めに応じ自動的に行」っているので「公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的」としていても「自動公衆送信」だと主張している。
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