最終更新時刻:2008年8月29日(金) 15時51分

国会審議のネット中継が浮き彫りにした、フェアユースをめぐる矛盾

太田昌孝

2007/08/23 08:00  

 国会審議の著作権法上の扱いが問題となるのは、40条2項に権利制限として「国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人において行われた公開の演説又は陳述は、前項の規定によるものを除き、報道の目的上正当と認められる場合には、新聞紙若しくは雑誌に掲載し、又は放送し、若しくは有線放送することができる」とあるからだ。

 この条項によれば、国会審議は「国」の「機関」「において行われた」「公開の演説又は陳述」なので権利関係者に無許諾で「(有線)放送」まではできるが、限定列挙だとすると40条2項に記載されていない「自動公衆送信」はできない。ビデオライブラリ配信は、いわゆるVoD、つまり、過去の国会審議の記録を「公衆からの求めに応じ自動的に」配信するもので、「公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的」としておらず受信者によって受信のタイミングはばらばらなので、どう著作権法を解釈しても自動公衆送信であり、限定列挙解釈では違法となる。

 なお、ここで権利関係者とは例えば個々の発言者である。また著作権法に詳しい人にあらかじめ断っておくと、議員規則に「国会審議はインターネット配信される」等の記述がある場合、それを知っているはずの議員等は「黙示の許諾」を与えていると考えることもできるが、部外者である参考人には適用できない。そもそもそのような規則はないとのことである。また、著作権法40条1項の「政治上の演説又は陳述」は「いずれの方法によるかを問わず、利用することができる」という権利制限が働く場合は自動公衆送信も可能だが、少なくとも参考人の政治的意図のない発言は、著作物ではあっても「政治上の演説又は陳述」ではないというのが筆者と文化庁の共通の認識である。

食い違う国会と文化庁の見解

 この問題について筆者が2006年6月に衆議院テレビに問い合わせたところ、得られた回答は、

衆議院ではインターネット中継を行う行為を「自動公衆送信」と考えており、著作権法第40条第2項には「自動公衆送信」の行為は挙げられていませんが、インターネットでの中継放送は画像・音声を公衆に伝達する点で、その実態は実質的に同項の「放送」または「有線放送」と同視できるので、インターネット中継を行う行為は発言者に対して著作権の侵害にならないと判断しています(原文のまま)

 というものであった。「自動公衆送信」を「放送」または「有線放送」と同視するというのは、限定列挙を正面から否定した、フェアユースそのものだ。

 2006年7月に入り衆議院庶務部の栗田広報課長と文化庁甲野著作権課課長と面談したが、衆議院事務局の見解は変わっておらず、発言者にインターネット配信の許諾はとっていないが配信自体は合法であるとの主張と、国会審議のインターネット配信は事務局の独断ではなく議員運営委員会の議決を踏まえた国会の意思に基づくものであることが確認できた。

 一方、文化庁著作権課はやはり限定列挙にこだわり、国会審議のインターネット配信は違法であるとの見解であったが、現状がフェアユースならフェアユースを認めるのに著作権法改正は不要との見解も示した。

国会での審議で明らかになった違法認識

 2006年12月の国会の著作権法改正の審議で、厳罰化に懸念を示していた社民党の保坂展人衆議院議員にこの件を伝えたところ文教委員会での審議の場とりあげていただき、文化庁加茂川幸夫次官の答弁では、

委員御指摘のいかぬという意味が、私、取り違っておるかもしれませんが、権利制限が働いていない、著作権法の本則が適用になるということであれば、そのとおりだと思います。

となっている。国会審議のインターネット配信であっても著作権法の範囲内であり、配信が違法であると文化庁が認識していることが明らかになった。

 ただ、法改正の審議事態は解釈の差による矛盾を放置したまま進み、厳罰化等が可決されている。

フェアユースは日本で認められている

 では、日本の著作権法でフェアユースは認められるのだろうか?日本では法解釈は司法の責任なので、著作権法の解釈でフェアユースが認められるかは一応司法判断が確定しないと決まらないが、今回の事例に限ればフェアユースが認められることは明らかである。

 というのは、国会審議を国会が公衆に見せ、また公衆が見るのは「参政権」そのものだからだ。発言者は著作権を持つという立場での権利者だが、発言を使用する側も参政権を持つという立場での権利者である。そして、権利と権利が対立する場合には互いに譲歩しフェアな落としどころを探るのが当然であり、これがフェアユースとなる。

 「著作権法に定める権利は神聖にして犯さざるもので、著作権法の明文規定以外の場合は絶対的に参政権に優越する」なんて理屈は通る余地はなく、国会審議程度は非営利はもちろん、営利でも、自由にネット配信できるべきだろう。

 日本の著作権法は限定列挙であるという一部の知財法専門家の常識は、知財法に定められた以外の多種多様な権利の存在を失念した思い込みに過ぎない。

 日本の著作権法はフェアユースを認めていると解釈するべきだ。これは、法理論上も、今後の新たなインターネットビジネスモデルの発展や知財成果物使用の振興のためにも必要だ。何より、国会が長年公然と続けてきた選挙民へのサービスは、サーチエンジンのキャッシュと同様、非合法なはずがない。

特集

オンラインストレージをめぐる競争--デルが狙う利用意識の高まり
開始当初にさまざまな問題が発生したものの、「MobileMe」のクラウドベースのストレージのコンセプトはすばらしく、今後、ほかのベンダーも続々と参入するとうわさされている。
ネコ画像サイト「I Can Has Cheezburger」の歴史--誕生から人気サイトになるまで
米国時間8月22日にシアトルで開催されたGnomedexカンファレンスで、2人の創設者が始めた「I Can Has Cheezburger」がインターネットで最も人気のあるサイトに成長するまでの歴史を現在の最高経営責任者(CEO)が語った。

オピニオン

■インタビュー

「mixi エコー? 快くは思ってないよ」--Twitter創業者「mixi エコー? 快くは思ってないよ」--Twitter創業者
Twitterの共同創業者、Evan Williams氏が来日した。日本向けサービスを開始して半年。国内最大のSNS「mixi」が同種のサービス「エコー」を開始するなど、ライバルの動きも活発だ。Evan氏とデジタルガレージ取締役の伊藤穰一氏はどう考えているのか。
ウィル・ライト氏、「SPORE」「The Sims」、科学を語るウィル・ライト氏、「SPORE」「The Sims」、科学を語る
待望の新作「SPORE」の発売が間近に迫っている。同作品を手がける米国の人気ゲームデザイナーであるウィル・ライト氏に、新作についてはもちろん、「The Sims」の開発秘話やゲームが社会において果たすべき役割など、幅広い話題について語ってもらった。

■コラム

モバイルSEOに有用なデータの収集方法モバイルSEOに有用なデータの収集方法
PCのSEOでは「site:」や「link:」といった特別構文を用いて施策を進めるが、モバイルではうまくいかないのが実情だ。そこで、1つの指標として用いることができるのが、Google「ウェブマスターツール」と、「Yahoo!サイトエクスプローラー」だ。
中国ケータイは理屈ぬきにオモシロイ!中国ケータイは理屈ぬきにオモシロイ!
「3度のメシより携帯電話」。24時間365日、海外ケータイのことばっかり考えている、香港在住の携帯電話研究家、山根康宏が、500台を超えるコレクションからとっておきの“トンデモケータイ”を紹介する。
サイト上のユーザー行動情報をデータマイニングに活用するサイト上のユーザー行動情報をデータマイニングに活用する
インターネットが普及することで、企業に蓄積されるデータに、サイト上でのユーザの行動情報(「▲▲を見ていた」「■■を買おうとした」)が加わった。こうしたデータの扱い方や可能性について、掘り下げてみる。

企画特集

仮想化環境で求められるストレージの要件仮想化環境で求められるストレージの要件
それに応えるNetAppの実力とは?
DELLが掲げる「新・仮想化アセスメントサービス」DELLが掲げる「新・仮想化アセスメントサービス」
〜企業システムの仮想化環境の構築を支援〜

ブログネットワーク

アルファブロガー

佐々木俊尚 ジャーナリストの視点グーグルはストビューで「よそ者」化する
佐々木俊尚 ジャーナリストの視点
クロサカタツヤの情報通信インサイト北京オリンピック
クロサカタツヤの情報通信インサイト
江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance新サービスをローンチしました
江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance
村上敬亮 情報産業の未来図コンテンツ市場14兆円の中身と行方
村上敬亮 情報産業の未来図
末吉隆彦 ロケーションウェアの「空」と「実」場所・空間を増幅!?「ロケーション・アンプ」
末吉隆彦 ロケーションウェアの「空」と「実」
鈴木健の天命反転生活日記パラレルワールドとしての電脳コイル
鈴木健の天命反転生活日記

読者ブロガー

ネットのニュース.logMacBook touchは、登場するのか?
ネットのニュース.log
特別支援教育におけるICT作業所(地域の施設)等でのSNS
特別支援教育におけるICT
個人・少人数制作アニメーション現代記 - 真狩祐志アフタヌーン四季賞の大賞受賞者の作品
個人・少人数制作アニメーション現代記 - 真狩祐志

リサーチ

■リサーチコラム

ジェネレータコンテンツに関する調査--キャンペーン成功のカギはクチコミと・・・
ジェネレータコンテンツに関する調査を実施したところ、利用経験率は31.6%でSoftBankユーザーにおける利用率が最も高く、auユーザーが最も低いことが分かった。認知経路は、「友人・知人からの紹介」ということも明らかになった。
クロスメディアに関する調査--30代が最も「指定検索キーワード広告」に接触
クロスメディアに関する調査を実施したところ、30代が最も「指定検索キーワード広告」に接触していることが分かった。また、世帯年収が高いユーザーほど、テレビCMの「指定検索キーワード広告」を閲覧していることも明らかになった。
情報メディアの接触に関する調査--20代は新聞よりケータイでニュースを閲覧
メディア接触に関する調査を実施したところ、20〜40代は新聞よりネットでのニュース閲覧が中心になっていることが分かった。さらに20代の約30%は携帯電話からのニュースを閲覧しているという。

■調査レポートダウンロード

日本携帯電話市場の予測 〜2007年度の分析・2008〜2011年度の市場予測〜
米企業の約8割、社内にXBRLの専門家なし

■調査発表

調査結果「携帯電話との距離は?仕事中『30cm以内』が4割」〜寝る時も3割が30cm以内に
アパレル向けRFID(2008〜2018年)
エム・データ、北京五輪での日本選手TV露出量ランキングを発表

CNET Japan セレクション

フォトレポート:飛行機の祭典--米国最大、オシュコッシュ航空ショー
米国最大の航空ショーであるオシュコッシュ航空ショーが米国時間7月28日から8月3日まで開催された。このフォトレポートではその模様をお届けする。
L・トーバルズ氏:「主要Linuxプログラマーになるのは楽じゃない」
Linuxの生みの親であるL・トーバルズ氏が、Linuxカーネルの開発について、新規の開発者がまず心得ておくべきことをインタビューで語った。
ブログの未来はどうなる--新しいコミュニケーション手段「ライフストリーミング」
最近、ブログ世界の変化が話題になっているが、ブログに続くコミュニケーション形態としてライフストリーミングが注目を集めている。
「iPhone 3G」のネットワーク問題は全米規模--読者情報から明らかに
CNET Newsの呼びかけに応じて、「iPhone 3G」の電波受信感度の問題についてこの1週間に読者から寄せられた情報から、問題は全米各地に及んでいることが明らかになった。
PRADA Phone開封の儀--iPhoneと比べてみました
NTTドコモから発売されている「PRADA Phone by LG」を編集部が入手した。同じタッチパネルケータイであるiPhoneとはどう違うのか、比べながら箱を開けてみた。
iPhoneとPRADA Phone、入力インターフェースはどう違うか
この夏に発売された、注目のタッチパネルケータイ「iPhone 3G」と「PRADA Phone by LG」。いずれもタッチパネルの入力方法にさまざまな工夫を凝らしている。

今日の見どころ

ついに登場! 待望のライフストリーミングツール「Sweetcron」

コスプレーヤー、コミックの祭典に集合--Comic-Con 2008

絵で見る「Internet Explorer 8」ベータ2

レビュー

[レビュー]高い信頼性を普通に使う地球に優しい電源ユニット--Antec EarthWattsシリーズ EA-650
“自作ユーザーは、電源ユニットに何を求めるのか?”出力なのか、安定性なのか、それとも機能性なのか?難し
今週の新製品総チェック:ノート、デスクトップ、UMPCまでPC秋モデルが続々
富士通、NEC、東芝などのPCメーカーから続々と新製品が登場した。ノートPC、デスクトップPCに加え、注目の
今週の新製品総チェック:薄さ13.9mmのサイバーショット登場!NEC「LaVie」はデザインモデルが
最薄部13.9mmのソニー「サイバーショット」、ニコンのGPS内蔵デジカメ「COOLPIX」など、機能性、デザイン性

CNET_ID

メンバー限定サービスをご利用いただく場合、このページの上部からログイン、またはCNET_ID登録(無料)をしてください。