メタデータによる“右脳の補完”で進む「ネットとリアルの融合」

取材・構成:松島 拡2007年06月21日 18時02分

 ウェブブラウザが登場した1994年。その頃と同じ、あるいはそれ以上の興奮が、世界を席巻しようとしている。「右脳的インターネットの世界」が、すぐそこにまで近づいてきているためだ。

 これまで、そのほとんどが論理的思考を軸とした左脳的役割に終始していたパソコンの世界。さまざまな企業が家電製品とパソコンの融合を試みてきたが、結果として成功している事例はほとんどない。米Appleの最高経営責任者(CEO)であるSteve Jobs氏の言葉を借りると、「パソコンはテレビの代用にはならない。テレビを見る時は頭をOFFにしているからだ」ということであろう。

 インターネットも例外ではなく、ネットとリアルという対極同士が、今ひとつ融合という意味合いにおいてしっくりこなかったのは、左脳的役割に偏ったネットの特性が、その大きな理由のひとつだったことは間違いない。

 ではなぜ、ネットは右脳的役割を果たすことができなかったのか。何が問題となっており、どうすればその実現を見ることができるのか──。

 前回はメタデータの重要性について論じた。今回はメタデータを利用するプラットフォームとインターフェースの近未来が実現するであろう、右脳的インターネットの世界について述べようと思う。

GUIからDUIへ、コアデバイスの登場とインタフェースの変革

 現在、多くの企業が、さまざまなメタデータの収集、管理に力を注いでいる。例えば、あるテレビ番組の中で、どういうことが話されたか、どんな商品が登場したかを、逐一書き起こしてメタデータ化する、というようなことも行われている。そうしたメタデータとその意味を解析する技術を使って、事柄や商品に対するブロガーたちの好感度を追跡することが可能なのは、以前述べた通りだ。

 メタデータを集積し、つなぎ合わせることでさまざまな可能性が拡がる。前回、その一例としてMicrosoft Live研究所の「Photosynth」を採り上げたが、日本でも新たな試みが生まれている。そしてそれは、以前予言した「ウェブページがすべてだったインターネットという世界観から脱却し、現実のモノとつながっていく世界観」の具体的な事例でもある。自動車旅行推進機構の推進する、「カーたび」プロジェクトがそのひとつだ。

画像の説明

 日本は自動車普及率が非常に高い割に、自動車旅行をサポートする環境はいまだ整備されているとは言いがたい。自動車会社や部品メーカーなども参加するこのプロジェクトの目的は、各地方自治体の持っている観光情報などのデータを組織化し、自動車旅行をより便利にすることにある。

 次世代カーナビを利用し、旅行の事前準備の段階においては、観光スポットの歴史や、実際に行った人の評判、周辺地域の店舗情報などを知ることができる。旅行中も、現在位置や周辺の注目スポット、道路の混雑状況といった情報を得ることができ、旅の思い出として写真データ等を管理することも可能だ。

 自動車旅行をテーマとする「カーたび」プロジェクトでは、当然のことながらカーナビの果たす役割が大きい。移動中にパソコンを使って情報検索することは現実的ではなく、カーナビが移動空間における情報交換のハブとなる。

 そして自動車旅行以外でも、今後すべての生活シーンにおいて、PCの前に座って情報に接する時代は次第に終焉を迎え、大画面テレビや携帯電話、あるいはiPodのようなポータブルプレーヤーが情報交換のハブとなっていくであろう。そういった中で、これらのデバイス(=メタデータ時代のコアデバイス)においてキーとなる技術が必要とされている。それが“デバイスとの対話”である。

 カーナビを例にとってみよう。運転中にキーボードやマウスを操作することはできないため、情報を得る手段として、ドライバーがカーナビと直接対話する方法はきわめて有効だ。ここで必要となるのが、現行の音声認識技術のさらに一段上を行く、対話する技術である。

 これは単に、これまでのキー操作を、音声によって代行する、という意味ではない。よりインテリジェントなカーナビは、例えば、「どこか美味しい店に行きたい」という問いに対し、「美味しいものとは何?イタリアン?中華?それとも和食?」と聞き返してくる。これが対話である。このように対話を進めることによって、情報を絞り込んでいくわけだ。

 携帯電話のようなデバイスの場合はどうだろう。画面が小さく、まともなポインティングデバイスも存在しないこれらの機器においても、対話は有効な手段だ。チャットロボット、あるいは会話エージェントのような存在に対し、質問を投げかけると、いろいろな情報を取り寄せてくれる、というイメージだ。音声認識を使ったものでもよいし、通常のタイピングを使ったチャットでもよいだろう。PCの時代のGUI(Graphical User Interface)、つまり大画面とマウスの世界から、生活シーンに密着したユビキタスなコアデバイスのためのDUI(Dialogue User Interface)への変化が起こっていくだろう。

 GUIとマウスをPCの世界に取り入れたアップルは、iPhoneでも彼らのSafariブラウザと、Multi-Touchという指を使ったポインティングデバイスで、PC的なGUIを携帯の世界に持ち込み始め、同じくPCの時代の覇者であるGoogleとGoogle Mapを通じて連携を始めている。つまり、彼らが得意なPCの世界に競争の場を移そうとしているのだ。

 しかし、果たして携帯の利用シーンはPCと同じなのか、右脳的視点を持って再考する必要があるのではないかと思う。

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