高瀬徹朗
2007/01/22 08:00
動画共有サービス「YouTube」の爆発的な人気を経て、放送業界に内在する需要無視の経営姿勢が、徐々に明らかになってきた(需要無視の“内情”を露呈した「YouTube対テレビ局」)。
否、もっと正確に言うと「受動的な視聴を好みがちだった視聴者が、ネットの普及に伴って能動的な視聴スタイルにも目覚め、これまで望まれるままに一方的な放送サービスを提供し続けてきた放送業界は、根底からその姿勢を見直さなければならない時期に差しかかってきた」という表現の方が正しい。
ライブドアや楽天といった国内ネット企業の攻撃を辛くもかわした放送業界だが、黒船「YouTube」からの攻撃は今なお、続いている。放送と通信の融合における魅力を消費者に伝えられなかったライブドアと楽天とは違い、YouTubeはその魅力を十二分に身を持って体感させることに成功した。果実を一度でも口にした消費者がその甘さを忘れることはない。消費者の放送通信融合に対する需要は今後、加速的に高まる。
その一方で、放送業界はこの環境激変に対応できないでいる。パソコンや据え置き型テレビでの放送通信融合に大きな進展が見られない中、2007年はワンセグ(携帯端末向け地上デジタル放送)を起爆剤としたモバイルにおける限定的な進展程度しか期待できないのが現状だ(モバイルで2007年に加速する放送と通信の融合)。
こうした流れの中で出てくる疑問は、放送業界あるいは放送における既得権益者たちはなぜ、放送と通信の融合を推し進めることができないのか。何を懸念しているのか──ということだ。これについて以下で論じたい。
広帯域インターネットなどの通信回線経由で地上デジタル放送が視聴できるようになると、テレビ放送のサービスモデル・ビジネスモデルが根底から覆される可能性がある。
まず、「放送エリア」という概念が消失する。インターネットをはじめとする通信サービスには元より、エリアの概念がない。つまり、放送通信融合が実現すると、電波が届くか否かという議論は無意味となる。そうなれば、例えばフジテレビ系とテレビ東京系のネットワーク局がない青森県において、普通に考えればネットを通じて両系列の人気番組をリアルタイムで視聴できるようになる。
そして企業として深刻なのが、テレビ式広告収入モデルの価値下落。容易な双方向アクセスが可能な通信インフラに放送が加われば、スポンサー側が一斉同報のプッシュ型テレビCMのみに頼る必要がなくなる。ネットの世界ではすでに、「興味を持ったらクリックして」のプル型広告モデルが定着しており、シェアの一部をそちらに奪われることは必至だ。
正直、読者の方々はどちらのケースも「自分(視聴者)は困らない」という印象を受けるだろう。無論、一般視聴者にとっても無関係ではないとする意見もある。サービス・ビジネスモデルが崩れることで放送局のコンテンツ制作力が低下すれば、「おもしろい番組がなくなった」「ニュースの精度が落ちた」などの“被害”を被る可能性があるからだ。
とはいえ、それもこじつけに聞こえる意見。やはり困るのは放送における既得権益を享受している一部の企業だけ、と見る方が正しい。具体的に挙げれば、大きく2種類の既得権益者が放送通信融合で“被害”をこうむると見られる。ローカル放送局とケーブルテレビ事業者、それに大手広告会社だ。
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