AOLは2月に、Goodmailという会社が提供するサービスを使って、料金を支払った企業のメールを利用者に確実に届けることになったと発表した。
同時に、AOLは「Enhanced Whitelist」サービスを段階的に廃止することも明らかにした。Enhanced Whitelistは、商用メールの送信元企業に対して、送信メッセージがAOLユーザーに確実に配信されることを保証するサービスだ。
その後、AOLはEnhanced Whitelistの廃止を撤回したものの、このニュースに業界と主要メディア企業から激しい抗議の声が上がった。というのは、今回の発表は、商用メール送信企業に対して次のように宣告したも同然だったからだ。「AOLのユーザーに確実にメールを届けたければ、Goodmailに税金を支払うこと」。しかも、問題はそれだけにとどまらない。この問題は、「電子メールの受信箱は誰のものか」という極めて重大な疑問を投げかけている。
電子メールの送信者に重税を課すことは、インターネットの文化に真っ向から反しているし、通信の自由を尊重する米国の価値観にも逆行する。ユーザーらは、企業に対して商用メールの受信を承諾すると、メール サービス プロバイダを経由することなく、ただちにその企業からメールが送られてくることを、当然のこととして期待している。今回のGoodmailサービスの開始によって、われわれが当然だと思っていることがそうではなくなるということなのだろうか。簡単に言ってしまえば、そのとおりである。
ユーザーが、Goodmailに対して料金を支払っていない(あるいは支払えない)企業からのメールの受信を承諾しても、そうしたメールは送られてこないか、判読不能にされてから送られてくる。ユーザーは自分が欲しいメールを要求しただけであり、メールサービスに対してもきちんと料金を支払っているにもかかわらず、突如として、自分の受信箱のコントロールを特定の私企業に奪われてしまうことになる。
自分の受信箱に受け入れる(あるいは受け入れない)メールを、なぜGoodmailという一企業にコントロールされなければならないのか。E-Loan社から利率の変更に関する通知を受け取りたいけれど、同社がGoodmailに料金を支払っていない場合、欲しいメールをこれまで通りに受信できるのか。受信できるとしても、画像が一切変更されていない状態で読むことができるのか。Goodmailに料金を支払っている一部の企業から送信されたメールには、AOLのユーザーインターフェースに、それが信用できるメールであることを知らせる小さなアイコンが付くことになるというが、そのアイコンが付いていない他のメールは信用できないということなのか。AmazonがGoodmail に登録したために、多額の料金を支払う羽目になったら、Amazonで購入するDVDの価格が上がるという形でユーザーに跳ね返ってくることにならないのか。商用メールも最近ではさまざまな障害を抱えているものの、スパム規制法、最善の慣行、業界の認証標準などにより、正当な商用メール送信企業は、顧客と電子メールを介して効果的にやり取りする方法を学習するという点に関して格段の進歩を遂げている。メール利用者が、次第に減りつつある受信箱の中のジャンクメールの管理方法を学習するのに合わせて、スパムの影響は小さくなってきている。
業界は、良い企業と悪い企業を識別する作業を続けている。良い企業のメールは配信されるべきである。悪い企業のメールは配信されるべきではない。良い企業とは、メールの配信に登録し、継続的にメールを受信することを希望している人にだけメールを送信する評判の良い企業のことである。
Goodmail は、電子メール税に伴う限界費用によって、商用メールの送信者がより良い慣行を採用するようになる、と主張するのだろう。しかし、それは、未成年犯罪者を更正させるのに「San Quentin刑務所(死刑囚が収容されている)に送れ」と言うのと同じことである。
商用メールを送信する企業に対して、本当に求められているのは、メーリングリストの品質、アクセス許可の方法、送信インフラ、コンテンツチェック、登録解除、配信管理、登録ユーザーの評価の監視、認証の採用といった、メールプログラム全体の改善である。送信企業にペナルティを科したところで、そうした企業の行いが改善されることはない。かえって、メールプログラム全体の品質改善に費やすべき資金や人員が圧迫され、事態の悪化を招くだけである。
今回のAOLの選択は果たして利益になるのだろうか。われわれは、メールという通信手段を好んでおり、健全で快適なメール環境が継続することを強く望んでいる。しかし、今回のGoodmailのサービスについては、業界も利用者も明らかに反対している。
電子メールはビジネスに欠かせない通信手段であり、送信者が顧客に確実にメールを配信できる自由を奪われることがあってはならない。顧客のほうにも、メールプロバイダが合法的な送信者からのメールを自分の受信箱に送り届けるべく最大限の努力を払っていることを、当然のこととして期待する権利がある。送信者が特定のベンダーが提供するサービスに加入しているかどうかによって、そうした当然の権利が侵されることがあってはならない。
著者紹介
Des Cahill
Habeas最高経営責任者。同社は企業向けに、正当な電子メール送信者であることを証明するための技術を販売している。
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