ハリウッドではリメイクものの台本がオリジナルとして通用することも多いようだが、次のようなストーリーをどう思われるだろうか。
消費者向けに製品やサービスを提供する有名な企業が、業績の低迷するなかで、大型買収を行った。その結果、Steve Jobsがその会社のインサイダーとなった。その会社のCEOは、実りのある関係を構築できるものと期待していると、Jobsを歓迎するコメントを発表した。しかし、社内での権謀術数の結果、1年も経たないうちにCEOは職を退くことになった。さて、次のCEOは誰になるのか。
1996年12月に、AppleはNextを買収した。Nextは、Jobsが1988年にAppleを追われた後に設立した会社だが、長らく低迷が続いていた。この買収は、当時AppleのCEOだったGil Amelioにとって、その職業人生の中でも最大の失敗だった。彼は、CEOとして無能と評されていたため、何とか悪い評判を覆そうと必死になっていた。
iPodが登場する前から、Jobsはすでにマスコミではスター扱いだった。Amelio以外の誰もが、Jobsは最終的にはAppleのトップに返り咲くだろうと予想していた。そして、Nextの買収からわずか半年で、JobsはAppleのCEOに就任した。放蕩息子がようやく我が家に戻ったという感じだった。
DisneyのCEO、Bob IgerはJobsとはまったく異なるタイプの企業人である。またAppleはSculley-Spindler-Amelioの下で長く続いた凋落期に失敗を繰り返したが、Disneyにはそんな経験はない。
Jobsは、「DisneyによるPixarの買収は、狐を鶏小屋に入れるようなものだ」という見方を公式に否定した。彼はカメラに向かって、Igerが抱いているDisneyの今後のビジョンと、彼のアニメーションに対する理解を、Pixarが受け入れただけの話だと言った。
だが、本当にそれだけだろうか。もしそうなら、配役担当部門は台本の書き直しを要求しなければならない。
たしかに、JobsはAppleの経営で手一杯の状態だ。そして、IgerはDisneyの社内改革を本格的に進めたいと思っている。Disneyは昨年、AppleのiPod用にコンテンツを配信する最初の大手メディア企業となった。さらに、Igerは今後Disney-Pixarのコンテンツを、iPodや今後Appleから登場するデジタル機器 を使って流通させるための方法を見つけ出そうとするだろう。
しかし、私はJobsの言うことを鵜呑みにしたりはしない。Jobsは、めったにない偉業を成し遂げたビジネスマンだ。また、彼はたいへんな野心家で、企業内の権謀術数にも長けている。
Disneyの業績が上がり続けている限り、JobsがDisneyの経営に立ち入る理由は何もない。しかし、話題の主は伝説的な起業家であり、しかもコンピュータ業界とエンタテイメント業界の両方について独特な理解力があるJobsだ。何かあっても不思議はない。
Disneyの経営が悪化しても、JobsはDisneyの経営に手を出さずに我慢できるだろうか。Igerが結果を出せなかったら、Disneyの取締役会は、後ろに控えるスーパースターCEOの存在を無視できるだろうか(おまけに今回の買収でJobsはDisneyの大株主にもなる)。
Disneyはここ数年業績がパッとせず、そのことに業を煮やした株主がCEOを追放したという過去もある。2004年には、創業者Walt Disneyの甥でにあたるRoy DisneyとStanley Goldという社外取締役が、当時のCEO、Michael Eisnerに反旗を翻し、それがEisnerの追放につながった。今回の買収を受けて、投資家の期待も高まっているだけに、業績不振にでもなれば、それだけ厳しい批判が経営陣に向けられることになる。
著者紹介
Charles Cooper
CNET News.com解説記事担当編集責任者
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