新しいメディアの技術革新がめまぐるしい速さで進んでいる。どの技術が生き残り、どの技術が消えてゆくのだろうか。
「新しいメディア」について語るときに大事なのは、具体的にこの言葉が何を指すかを明確にすることだ。テキストと静止画中心のオンラインメディアが登場して以来、さまざまな形式の電子メディアが出現してきたが、そのたびに「新しいメディア」という言葉が使われてきた。
これからの新しいメディアの基盤となるのは、IPベースのビデオオンデマンド技術だろう。これが普及すれば、視聴者にとって選択の幅が広がるだけでなく、マイナーな番組を好む少数派の視聴者にも好みの番組を配信できるようになる。大手テレビ局やケーブルネットワークが提供するお仕着せの番組編成に飽きあきしていた視聴者には、そうしたサービスが共感を呼ぶに違いない。
テレビ業界は徐々にオンデマンド技術の導入を始めている。CBSはこの秋、24時間放映のニュースチャンネルに対抗して、ウェブ上で新しいコンテンツの提供を開始すると発表した。また、Starzはオンラインの映画ダウンロードサービスを開始しており、Comcastも視聴者が見たいコンテンツを見たいときに提供するための独自のオンデマンド機能を構築している。
オンラインの音楽配信サービスでは、聴かない曲まで入っているCDをまるごと購入するのではなく、聴きたい曲だけを個別に買うという傾向が強まっている。ウェブコンテンツの世界で起こりつつある改革の中心に据えられているのも、こうしたきめ細かな選択肢を消費者に提供することだ。テレビの場合、既成の番組表から脱却することが目標だ。
確かに、TiVOなどのデジタルビデオレコーダーによって、視聴者は番組の放映時間に縛られなくなったが、これはほんの始まりに過ぎない。さらなる改革は始まっており、ゆくゆくはデスクトップやノートPCなど、視聴者が見たい場所に番組が配信されるようになるだろう。帯域幅の増加に伴い、新世代のIPベースのシステムは、地上波、衛星放送、Hybrid Fiber Coaxial(HFC。IPの転送が可能)といった既存のメディアを越えて、より広範なコンテンツの配信を提供するようになるだろう。
IP関連の技術革新の多くは、オープンソースコミュニティによってもたらされるだろう。急成長するIPビデオオンデマンド市場の発展は、より広範なソリューションを探ることに労を惜しまない多くの開発者たちによって加速されることになる。
IP自体もオープンなインフラである。そのため、IPを利用すれば、ウェブまたは今後登場するウェブベースのコンテンツスキームを経由して、どのコンテンツプロバイダへもアクセスを提供できる。オープンソースは反体制的なプログラマのつくる小規模なコミュニティだけに受け入れられているわけではない。大企業も、オープンソースの持つサービス的な側面を採り入れ、そうしたアプリケーションを開発するコミュニティを活用している。
オープンソースコミュニティによって開発される多くのメディア配信アプリケーション(各種のツール、支払い処理、ユーザーインターフェース、コミュニティプラットフォーム)が、テクノロジー企業やメディア企業によってサポートされ、視聴者に利用されるようになるだろう。
IPビデオオンデマンド技術の普及を促すトレンドがいくつかある。
まず、従来のHFCや衛星放送と違って、IPベースのシステムは、ほぼ無制限に規模を拡張できる。極めてニッチなコンテンツにアクセスする視聴者もいるため、こうしたスケーラビリティは欠かせない。膨大なコンテンツがさまざまな形式で存在することを考えると、IPに移行するのが必然である。どう見てもごく一部の人しか興味を持たないようなコンテンツを提供するには、ほぼ無制限の能力が必要になる。それができないとなると、ごく限られた人しか見ないようなコンテンツを配信するために、専用線や専用チャネルを用意することになるが、勿論それでは採算が合わない。
視聴者は、テレビ局の番組編成者やメディア企業から一方的に送られてくるコンテンツにへきえきしている。投資家は、そんな飢えた視聴者からの爆発的な需要に対応するための準備を進めている。それでも、大半の視聴者が求める高品質のコンテンツは、その8割が従来のメディア企業によって制作されるだろう。視聴者は、単にコンテンツを選べるというだけでなく、コンテンツの視聴時間と視聴方法も選択できるようになることを望んでいる。これからは、従来の押しつけ型の番組提供ではなく、ユーザーが主導権を握る必要があることを認める必要があるだろう。さもないと、メディア企業は視聴者を失うことになりかねない。
テレビには、かつてないほどさまざまな入力機器が繋がるようになっている。ホームエンターテイメントハブとしてのテレビに、さまざまなデジタル/アナログ機器が接続されるようになったからだ。こうした仕組みは、MoCA(Multimedia over Coax Alliance)といった団体の取り組みによって標準化が進められている。MoCAの目標は、各種機器をより迅速に市場に流通させることだ。視聴者が好みのコンテンツをダウンロードして、携帯端末や携帯電話、ノートPC、デスクトップ、さらには次世代の家庭および個人向け家電製品などで観ることを可能にする新しい技術が、年末に向けて次々と登場することだろう。
クリエイティブなコンテンツ制作者は自分の映画を高品位で提供したがる。テレビ局のHBOやWarner Brothersも自社の番組が一定以上の品質で配信されることを要求する。コンテンツプロバイダは、従来のクローズドな環境からIPベースのオープンな環境へと移行していくなかで、テクノロジー企業と提携しながら、高品質な番組を視聴者に届ける必要がある。高品位コンテンツをPCに配信することに特化する企業は、視聴機器に関係なく、コンテンツが一定の品質で提供されることを保証しなければならない。
まだ、解決しなければならない問題は多いが、業界が取り組み方を間違えなければ、視聴者とコンテンツプロバイダは、エキサイティングかつ革新的な新しい方法でメディアを利用するようになるだろう。
著者紹介
Randal C. Picker
シカゴ大学ロースクール教授(商法専攻)
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