10年前、Jon von TetzchnerとGeir Ivarsoyは研究者としてノルウェー最大手の通信会社に勤務していたが、その企業の経営陣は2人が手掛けていたプロジェクトを中止してしまった。
しかし、von Tetzchnerらは会社との交渉の末、彼らが社内で開発したブラウザの権利を取得して、独立を果たした。それがOpera Softwareの歴史の始まりだった。
Netscapeのような一時的に景気の良かった企業とは異なり、Operaが大きな話題になることはなかった。しかし1995年に会社を設立した多くの経営者と違って、von TetzchnerとIvarsoyは経営者として自社の創立10周年を祝える立場にいる。しかも、同社はこの間に、インターネット企業の相次ぐ倒産、世界的IT不況、そしてMicrosoftという3つの困難を切り抜けてきたのである。
さまざまな困難を考えれば、これはたいした手柄だといえる。次代の画期的目玉商品だと言って自社製品を大々的に宣伝し、実際に何か特別な製品を発売したハイテク企業経営者が一体どれだけいただろうか。「すごい、これ見てみな!」と言いたくなるようなインターネット関連の発明など、半ページ内に全て書き出せてしまう。その中でも、ブラウザは目立った存在ではなかった。私がOpera Softwareに興味を持った理由の1つは(私がFirefoxファンになった時と非常に似ているのだが)、MicrosoftがInternet Explorer(IE)で何か面白いことをしてくれるのを待っている間にフラストレーションが貯まっていたことと関係していた。
Microsoftはデスクトップ市場における同社の独占状態を利用して付随するブラウザ市場も独占した後、すぐさま注意を他の分野に向け、そちらにエネルギーを注ぎ込んでしまった。それにより、Operaが生き残る隙間が生まれた。同社は、業界に君臨するMicrosoftが満たしていなかったユーザーのニーズに応えることで、自社製品の利用者を増やしていった。さらに驚くべきことに、同社は数百万ドルもの広告費をかけずに、独自の市場を開拓したのだ。
これまでOperaは軽量で柔軟なブラウザを作り続けてきた。このことは、同社がモバイル端末やセットトップ端末にアプリケーションを移植する際に役立った。私は、今後最大の成長はPC以外の機器の市場からもたらされると考えているが、そうだとすれば、これは賢明な戦略といえる。
「時には退屈な方がいい場合もある」ということに世界中のマーケティング専門家が注意を払うべきだ。とくに業界最大手の企業がユーザーを無視している場合はなおさらだ。
von Tetzchnerは数週間前にNews.comのオフィスに立ち寄った際、「万事すこぶる順調だ」と語った。地味で目立たないこのノルウェー人によると、Operaブラウザは1日におよそ10万回もダウンロードされているという。Operaは、MicrosoftのCEO、Steve Ballmerが気になって眠れなくなるほど強力な存在ではない。だとしても、この10万回という数字はたいしたものだ。
「Operaは、多くの国々の国内総生産(GDP)を凌ぐ巨額を研究開発に投じているMicrosoftに対抗していると、いずれ貧乏くじを引くことになる」との指摘について、von Tetzchnerは「金をかければいいというものではない」ととしてこの考えを一蹴した。
von Tetzchnerは「これは、何に焦点を当て、それをどのように行ない、何を解決しようとしているかと、いう問題だ」と述べ、さらに「われわれは常に1つのことを重視している。それはエンドユーザーの存在だ」と付け加えた。
自社重視だが、完全に賢明な戦略。
Netscapeが自滅した理由の1つは、社内の統制や慣行を確立できなかった点にある。もしそれらが確立できていれば、Microsoftが(同社を滅ぼそうと)行く手に埋めておいた地雷を避けて進むのに役立っただろう。しかし、仮にMicrosoftがあえてOperaを標的にしていたら、Operaは違う運命を辿っていただろうか。
これは飲み屋で議論するには持ってこいの話題だ。しかし、von Tetzchner自身は、Microsoftと直接衝突する可能性があるからといって特にいきり立つわけではない。
「Microsoftは過去5年間、自社のブラウザの改良をほとんどしてこなかった」とvon Tetzchnerは述べ、さらに次のように続けた。「(5年間という期間は)製品のアップデートを行なわない期間としては長すぎる。それが世界で最もよく利用されている製品であればなおさらだ。つまり、実際にMicrosoftのブラウザについて調べてみれば、それは世界で最も良く利用されている製品であり、しかもそれにはセキュリティ面で問題があることが分かる」
私はふだんなら、その種の発言を信じない。しかし、確かに今の状況では、Microsoftがセキュリティ問題を克服したとはとても言い難い。同社の大型アップデート版ブラウザとして計画されているInternet Explorer 7は、依然としてベータテストの段階にある。その一方、同社のブラウザに関連するセキュリティ問題が発生し続けている。
さらにOperaは、常に主流製品に代わる製品を探している多くの人々の支持も見込める。世の中には、種類を問わずどんなMicrosoft製品でもあからさまに嫌う人々がいるからだ。
いづれIE 7が登場すれば、勝負の流れが変わってしまうのだろうか。Operaが新しい様々な困難に直面するのは明らかだ。しかしvon Tetzchnerは過去10年の経験から、Operaが技術革新を継続しなくてはならず、それを止めれば倒産に追い込まれることを知っている。Microsoftを相手に戦うOperaには、失敗が許される余地はあまりない。
筆者略歴
Charles Cooper
CNET News.com解説記事担当編集責任者
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
地味ながら負荷の高い議事録作成作業に衝撃
使って納得「自動議事録作成マシン」の実力