未来の無線通信を想像してみる

 技術の進歩というものは、短い期間で考えると、水の流れのごとくほとんど自然に起こるように思える。しかし、10年単位の長いタームで考えてみると、それがわれわれの生活やコミュニケーション、娯楽のあり方に、非常に大きな変化をもたらしていることが分かる。

 たとえば、われわれの通信方法はこの10年間で大きく様変わりした。いつでもどこでも通信できるようになったために、公衆マナーから安全性に至るまであらゆるものが脅かされている。

 Qualcommは先ごろ、創立20周年の記念として、1985年から今日までの無線通信の変遷を振り返る試みをおこなった。1985年当時の携帯電話機は、車のトランクに入れて運ぶ14キロ近くもある最悪の代物だった。一番軽いものでも、重たいブリーフケースくらいの重さがあった。ところが今では、極めて小型の受話器を使って会話が行われている。

 こうした一昔前の移動通信機器から現在の携帯電話に至る進歩を念頭において、20年後の無線通信がどうなるかを以下に予測してみた。

ワイヤレス&ハンズフリー

 今の若い世代は、年輩の人たちがかつて壁のモジュラージャックに接続された電話を使っていたということを、すでに信じられなくなっている。それを考えると、次世代の人たちは「昔の電話は、話すときにいちいち受話器を耳に当てていた」と聞いて、きっと信じられないという顔をするのだろう。

 未来の携帯電話の予測としてよく言われるのが、通信機能の人体への埋め込みだ。多くの夢想家たちが埋め込み型インテリジェンスという概念を提唱しているが、これは単に頭のなかで何かを思い浮かべるだけで、その「考え」を世界中のどこにいる相手にでも飛ばすことができるというものだ。

 私は埋め込み型通信機能に伴うリスクや懸念を考えなくともよいと思っている。というのは、こうした極めて小さなデバイスは、衣服やジュエリー、あるいは耳の後ろにでも、簡単に装着できるからだ。現在の携帯電話に付いている小さなディスプレイは拡張されて、通常の視野に変化することになるが、このためには、メガネに組み込まれた透過型の液晶ディスプレイや、コンタクトレンズのような画面が使われることになる。こうした拡張現実は劇的な変化をもたらし、社会はそれに適応しなければならなくなる。こうしたメディアがハッキングやウイルスの被害を受けた場合、情報の改ざん程度では済まされない。そうした映像を見た側は、偽の現実を本当のものとして受け入れてしまうことになるだろう。

無線の性質を活かした技術

 個人による無線通信は、ブロードキャストではなくポイントツーポイント技術で実装される必要があるが、私はそのことが理解される日がいつかやってくると思っている。われわれは、最初の信号が無線で送信されたその日からブロードキャストの世界に生きてきた。

 無線信号の性質に目を向けると、それが本来的にブロードキャスト向きであることが分かる。つまり、無線通信では周りにいる誰かが信号を検出し受信してくれることを期待して、全方向に電磁エネルギーを放射するわけだ。このことからめ、ブロードキャスト信号を2者間の安全でプライベートな通信に利用するという考え自体が、電磁気の放射性というコントロールできない性質と矛盾していると考えられる。

 モバイル機器が移動するのに合わせて、信号をそれにフォーカスさせるスマートアンテナは、確かにわれわれが進むべき正しい方向ではある。しかし、こうした高度な機能はまだ標準にはなっていない。私は、現在飛躍的に進歩している空間処理のおかげで、個人間の無線通信の容量、安全性、性質が大幅に向上すると見ている。

自由なアクセスと即時認証

 音声や映像、娯楽情報に無線でアクセスできるようになるまでには、まだ時間がかかる。しかし、未来の無線通信技術では、サービス料を支払うか、個人識別情報を送信し次第、すべての情報に即座にアクセスできるようになるだろう。

 そうなれば、職場やVIP向けの駐車場、個人識別情報に基づいてアクセスが制限されるその他のエリアへの移動がスムーズになるだろう。あまり期待はしていないが、もしかすると、政府機関や空港の長い列も緩和されるかもしれない。

 今後20年で、無線技術がわれわれの生活に深く組み込まれることになるのは間違いない。その結果、いつでもどこでもネットワークに接続できるようになるだろう。しかし、こうした遍在的な無線通信が実現されると、思いもよらぬジレンマに遭遇することになる。われわれは欲しい情報を即座に手に入れられるようになる一方で、社会規範やプライバシーの保護に関して新たな課題を突きつけることになるだろう。

 このことについては、またいつか書くことにしよう。

筆者略歴
Dave Mock
Instream Partnersバイスプレジデント。「Tapping into Wireless」「The Qualcomm Equation」の著者でもある。

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