1973年に、人が仕事を見つけたり取引したりする方法を研究していた社会学者Mark Granovetterは、いくつかの驚くべき結論に到達した。
それまでは、役に立つコネといえば、ほとんどの場合、友人、親戚、長いつきあいのある同僚など、強い個人的なつながりを通じてもたららされるものと考えられていたのだが、実はそれが間違いであることが同氏の研究で判明したのだ。
Granovetterによると、実はちょっとした知り合い、友人の友人、同窓生などの紹介を通じて仕事を見つける人のほうが多いという。なぜそうなるのか。1つには、ほとんどの人たちにとっては、親しい友人のような強いつながりよりも、ちょっとした知り合い程度の弱いつながりのほうがはるかに多いからである。それに、親しい友人が知っている人間なら自分でも知っていることが多い。むしろ、ちょっとした知り合いくらいのほうが、まったく知らない人との間を取り持ってくれたり、自分の知らない情報を提供してくれることが多いとGranovetterは述べている。
Granovetterの発表から32年経ったいま、弱いつながりのネットワークを拡大する手助けをする企業が次々と現れている。ほとんどの人が、少なくとも1度くらいは、他の誰かのソーシャルネットワークからお誘いのメールをもらったことがあるだろう。そうしたメールの中には、ほとんど知らない人からのものも混じっているかもしれない。私も、そうした誘いに応じてあるネットワークに参加してみたのだが、驚いたことに1ヶ月後には、なんと143万8500人を超える人たちとつながってしまった。そのうち個人的な知り合いはたったの21人で、残りの143万8479人は、友人の友人--本当に知っている21人の知り合いの知り合いのそのまた知り合いという具合であった。
新しく芽生えたこの種の即席ソーシャルネットワークは、このように膨大な数の極めて弱いつながりを形成するわけだが、これは本当に価値があるのだろうか。人々はこうしたソーシャルネットワークサービスで紹介される、就職の推薦状や新しい取引先を積極的に活用しているのだろうか。こうしたサービスに肯定的な人は「イエス」と答えるだろうが、一部の否定的な人たちからは、こうしたネットワークでは、弱いつながりがいとも簡単にできてしまうので、弱いつながりの価値を低めてしまう可能性があると懸念する声も聞かれる。
私は、こうした基盤となるツールの重要性が、支持者や悲観論者が主張しているよりもはるかに薄れていくのではないかと予測している。
これらの新しいツールを悪用して、アドレス帳に登録されているすべての人に「知人スパム」を送信する輩は確かにいるが、そうした状況は時間の経過とともに自然消滅するだろう。すべてのテクノロジーには、その利用に関するエチケット学習曲線ともいうべきものがある。たとえば、映画館では携帯電話を使用しないとか、「ウイルス警告」メールを転送しないとかいったことだ。今ではこうしたエチケットは当然のように守られている。同じように、われわれは、人と人とのつながりにおける信用レベルが極めて重要であることを学習する必要がある。数年前に1度あるコンファレンスで名刺をもらっただけで、それほど深い信用関係を築くことなどできるはずがない。
自分のソーシャルネットワークに誰かを誘う前に、次のように自問してみてほしい。「この人は、私との関係の信用レベルをどのくらいだと思っているのだろうか。私は、名前以外に、この相手について何か知っているだろうか」と。もし、どちらも当てはまらなければ、あなたの誘いは単なる迷惑として片付けられてしまうだろう。
一方、個性的な文章を練り上げ、関係を築くための状況作りをすれば、好ましい返事が返ってくる可能性も高くなるだろう。
おそらくもっと重要なのは、まず既存の人間関係を強化するのにテクノロジーを使うことを考えてみることだろう。ここ10年ほどの間に登場したテクノロジーは、大半が情報へのアクセスやビジネスの取引を簡素化してくれるものだったが、個人と有意義な関係を維持することは却って難しくなっってしまった。われわれの多くは少なくとも8つの連絡方法(電話、メール、会社と自宅の住所、IM、VoIPなど)を持っており、しかもそれらは頻繁に変化している。友人や同僚も置かれている状況は同じだ。
幸いなことに、こうした問題を解決してくれる新しいテクノロジーが登場している。これを使えば、「誰かに連絡がとりたい」と思ったとき、相手を捕まえるための方法と場所と時間がわかる。相手が自分と連絡をとりたい時も同じように使える。連絡をとる方法が分かっていれば、とりあえず連絡してみるだろう。こうしたテクノロジーのおかげで、前の同僚が新しい仕事を見つけたときにお祝いを贈ったり、大学のルームメイトの誕生日にeカードを送ったりすることが簡単にできるようになった。
ソーシャルネットワーキングというテクノロジーは確かにすばらしいツールである。しかし、多くの強力なツールがそうであるように、これには悪用される可能性もある。自分と人とのつながりの価値を計るときは、次の点を忘れないことだ。すなわち、人と人とのつながりの真の強さは、そのつながりの中身と、そして両者が信頼関係を深めるために行った努力によって決まるのだということを。最初のきっかけがどのようなツールによってもたらさたのかは重要ではない。
筆者略歴
Ben Golub
コンタクト情報管理のためのオンラインサービスを提供するPlaxoの社長
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
地味ながら負荷の高い議事録作成作業に衝撃
使って納得「自動議事録作成マシン」の実力
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス