米国政府の中国に対する怒りがますます大きくなっているが、これはテクノロジー企業にとって決して良い兆候とはいえない。
最近まで、ブッシュ政権はアジアの超大国として台頭してきた中国と直接衝突するのを避け、テロリスト対策や北朝鮮対策で協力を要請し、徐々に貿易自由化の方向に進んできた。
しかし、もうじきそれも変わるかもしれない。現在、人民元の為替レートは米ドルに連動しているため、中国製品は比較的安い価格を保っているのだが、このことに米国政府高官たちは強い反感を持っている。さらに、中国の台湾併合問題やイランへの武器供与の疑いなどをめぐって、両国の緊張状態はますます高まっており、ブッシュ政権で新たに任命された中国担当高官たちも友好関係を築けないようだ。
こうした状況のせいで、険悪な通商摩擦へと事態を悪化させるお膳立てが整ってしまった。今月、米国上院では、中国製品に対して一律27.5%の関税を課す法案が67対33で事実上承認された。
「IT業界は、関税障壁の危機感を最初に感じることになるだろう」とInformation Technology Industry Council(ITIC)の議長Rhett Dawsonは述べている。「われわれは関税の正当性を信じていない。われわれは自由貿易主義者だ。米国は、根本的に自由貿易支持国でしかあり得ないと思っている。われわれは議会が自由貿易を支持することを強く望んでいる。業界全体で戦っていくつもりだ。」(Dawson)
ITICは、海外の売り上げが米国のIT企業の収益の60%を占めていると見ている。ITICのメンバーには、Apple、Cisco、Dell、eBay、IBM、Intel、Microsoft、Oracleといった大企業が名を連ねている。「この問題が自然に解決することをわれわれが望んでいるのはそのためだ」とDawson は言う。ただし、「米ドルに対する人民元の為替レートが固定されていることや中国政府のソフトウェア違法コピーに対する取り組みに関しては、楽観視しているわけではない」と同氏は付け加えた。
米国は膨大な貿易赤字を抱えており、中国からの輸入額も急増している(1993年から2004年にかけて、輸入額は6.5倍に増えている)。しかし、案外見過ごされがちなのは、こうした対中貿易赤字の62%が米国、欧州、アジア各国の企業が中国支社から輸出した、いわば逆輸入品によるものであるという事実だ。つまり、事は米国対中国という簡単な図式で考えられるほど単純ではないのである。
事実、国際的なIT企業は中国での工場建設を急ピッチで進めている。Dellは3月、厦門に新しい工場を建設すると発表した。LG.Philipsは南京に薄型CRTの製造工場を建設中だ。Ciscoは、中国に研究開発部門を新設した。AMDは中国に製造子会社を設立している。これらの企業が中国製品(つまりは自社製品)に関税をかけられて喜ぶはずはない。
残念ながら、事は楽観論では片づけられそうもない。中国は先週、ワシントンDCで開催されたIMFと世界銀行の会合を欠席することで、米国の要求を突っぱねた。理由は簡単。ブッシュ政権は談笑の中で中国政府に人民元の切り上げを要求するつもりだったからだ。
人民元は、1995年以来、米ドルに対して8.3対1の交換率で固定されている。ここ数年のドルの下落に伴い、米国製品は欧州や日本では安くなった。しかし人民元が米ドルに固定されているため、中国製品はWal-Martで比較的安く手に入る。その結果アメリカ製品の売れ行きが落ちている。
4月6日に上院に提出された法案が予想に反して承認された背景には、こうした事情があった。「これはいわば警告である」とニューヨーク州選出の上院議員Chuck Schumerは言う。同氏はこの法案の提唱者の一人である。「『中国よ、考え直せ。さもないと、米中両国だけでなく世界中で大変な事態が起こることになる』と警告したのだ」(Schumer)
Schumer にはおそらく悪意はないのだろうが、彼の書いた処方箋は病気そのものよりも厄介なものになるかもしれない。そもそも米国の貿易赤字がふくらんだ最大の原因は、アメリカ人が貯蓄よりも消費に走ったからである。中国やその他の諸外国は、米ドルを蓄えて、アメリカ人の消費欲を支えているのである。中国だけでも約2000億ドルの米ドルを保有している。
Schumerの関税法案が可決されても、米国の貿易赤字は解消されないだろう。そうなれば、中国以外の国から借金することになるが、ドル安のため借金の額はもっと大きくなる。結果として、米国の税率が大幅に上がるだろう。
Schumerと彼を支持する議員たちが、もし米中貿易不均衡の是正を真剣に考えているのなら、国の借金をこれ以上増やさないことで連邦支出を抑え、連邦準備銀行に利子の引き上げを促して、消費よりも預金を奨励するだろう。しかし、彼らはそうしていない。
心配性の議員たちには、もう少し長期的な視野で眺めてみることを勧めたい。日本がその評判の経済力で「帝国主義の脅威」として恐れられたのは、それほど昔のことではない。1989年末に、日経平均株価は3万8915円という驚くべき水準に達した。しかし、その後平均株価は1万1370円まで急降下し、日本経済は停滞し、米国の保護主義者たちは今度はそのことで不満を口にしている。そのことをちょっと思い出していただきたい。
筆者略歴
Declan McCullagh
CNET News.comのワシントンDC駐在記者。以前は数年間にわたって、Wired Newsでワシントン支局の責任者を務めていた。またThe Netly News.やTimes誌、HotWiredでも記者として働いた経験もある。
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