2001年、あの熱狂的なITバブルがほぼ収束し、次の動きが注目されていた頃、当時の森内閣が打ち出したのが「e-Japan戦略」であった。この計画は、Windows95発売によるパソコンブームを活かしきれず、世界的に見ても遅れを取っていた1990年代後半の我が国のインターネットの普及状況に対して、具体的な数値目標と政策パッケージを設定し、「2005年までに世界最先端のIT国家」を実現しようとする、極めて野心的なものであった。
そもそもこのような数値目標を含んだ包括的な推進計画は古くは米国のNII(いわゆる情報スーパーハイウェイ構想)や1994年ITU総会での世界情報基盤構想(GII)、現在進行中のものとしても、EUのeEUROPEや、イギリスのUKonline等に代表されるように情報化政策としては珍しいものではないが、我が国の情報通信政策、とりわけインターネット関連分野としては、過去類を見ない規模と力の入り方で発表されたため、情報通信業界のみならず、一般社会にも「IT革命」という言葉を強く印象づけることとなった(2000年11月の臨時国会冒頭の森喜朗首相の所信表明演説に「IPバージョン6」という言葉が入っていたことを記憶している方も多いだろう。)。
e-Japanの評価は
当時、この計画を聞いた多くの人たちは「どうせ政府のぶち挙げた花火だろう」という反応を示した。さらに5年以内に1000万世帯が超高速インターネットに、3000万世帯が高速インターネットに常時アクセス可能な環境を整備する、と定められた数値目標に至っては、「本当に実現できるのか?」という疑念の声すらあがった。
しかし、e-Japanの策定から3年が経過した現在、すべてがe-Japan戦略の施策の成果というわけではないにせよ、殊に常時接続(高速)インターネットの普及状況は、料金面では世界でも指折りのレベルの低廉さを実現し、DSLとケーブルテレビ、FTTHを合わせて1500万契約を突破し、FTTHも130万契約に達する(2004年5月末現在:総務省調べ)など、驚くべき普及ぶりを示している。このように、e-Japanはインフラ面の整備については一定の成果を上げたという政府の説明には、それなりに説得力があることは確かであろう。
ただし、e-Japanはインフラ整備だけを目的としたものではなく、教育から生活、行政や技術開発支援に至るまで、幅広いITと政府の政策についての包括的な政策パッケージとしてデザインされている。単純にインターネットの接続環境が改善された事だけをもってe-Japanを評価することはできない。
IT産業への影響は?
また、e-Japanが進行していくことで、国内のIT関連産業にどのような影響が生じてくるのかも注目点である。広義に捉えれば規制改革の一つともいえるe-Japanがもたらす新しいIT関連市場の開拓可能性という点も、CNETの読者は注目していることであろう。
そのような観点に立つと、e-Japanという政策パッケージの全体像はまだしも、個別具体的な施策について、私たちが知っている情報は驚くほど少ない。実際に、現在進められている「e-Japan重点計画2004」には各省庁から合計で370もの施策が「(省庁がコミットメントと して)実行する政策」として記載されている。
その一覧表は内閣官房のIT戦略本部のウェブサイトに掲示されているものの、それらがどのような意図を持って盛り込まれたのか、政策間の関連はどうなっているのか、それぞれの政策が実行されることによりどのようなメリットが国民にもたらされるのかについて、十分に説明されているとは言い難い状況である。
そこで、この連載では、e-Japanに関係する各施策を実際に企画立案している各省庁の担当者にインタビューを行い、e-Japanがこれまで達成した成果とその評価、及び今後の目標について明らかにしていくこととしたい。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」