Macintosh誕生20周年を祝うSteve Jobsの講演は、あくびが出るほど退屈なものだった。こんな講演を2時間近くも聞かされた日には、「リライトしてくれ!」と叫びたくなる。
もちろん、Macworldに参加しようとサンフランシスコへやって来た熱心なMac信者にとって、演説の中身や長さなどたいした問題ではない。彼らはMacをほめたたえ、Microsoft帝国にどっぷりとつかっている頭のとろいWindowsユーザーを嘲笑するためにやって来たのだから。その目的はしっかりと果たされた。Jobsがまくしたてる空虚な復興論も、Mac信者の耳には心地よいものに響いたようだ。
しかし、私にとっては過去最悪のMacworldとなった。この苦々しさは当分消えそうもない。
今年のMacworldの目玉は、人気製品iPodの小型版iPod Miniである。Appleによれば、iPodの販売実績は約200万台を突破し、スマートなデザインの音楽ダウンロードサイトiTunesも勢いに乗っているという。しかし、めぼしい新製品の発表はこの小型プレーヤーくらいで、ほかにはXserve、Mac版Microsoft Office、そしてメディアクリエイション製品iLifeのアップグレードが発表されたにすぎない。
要するに、AppleはMacの20周年に冷めた茶を出し、カストロばりの仰々しい演説をえんえんとぶったのだ。いつの間に、Macworldはこれほど退屈な場所になってしまったのか。
あっと言わせるような新製品の発表も、ハードウェアのアップデートもない。代わりに聴衆を待っていたのは、毎度おなじみの広報戦略だ。Steve Jobsほど、これをうまくやる男はいない。マーケティング協会はJobsを名誉殿堂入りさせるべきだ。Macの登場から20年がすぎても、Jobsほど巧みに聴衆の感情を操作することのできる人間はいない。しかしどんな雄弁家をもってしても、コンピュータ市場におけるAppleのシェアが未だ5%にも満たないという事実を隠すことはできないだろう。Appleの経営陣がこの状況を一変させるような発表を行う気配もない。
G5 PowerBookの発表もない。プロセッサの高速化もない。iBookのアップデートもない。何にもない。あったのは4GBのHDDを搭載したiPod Miniだけ。これにしても、Dellが15GBのHDDを搭載したデジタル・ジュークボックスを224ドルで販売していることを考えると割高な印象は否めない。
興味深いニュースはMacworldではなく、ラスベガスのConsumer Electronics Showから届いた。AppleがHewlett-Packard(HP)ブランドのデジタル音楽プレーヤーを生産すると発表したのだ。
Appleはこれと同じようなことを過去にもやっている。Macintoshの設計をクローン機のメーカーにライセンスしたときだ。しかし時すでに遅く、パソコン業界の勢力図を書き換えることはできなかった。ライセンスの提供を渋った当時のCEO、John Sculleyは、後にこのときの決断の遅れを最大の後悔の一つに挙げている。やがてJobsがAppleに復帰し、ライセンスの提供を中止すると、クローン機のメーカーは姿を消していった。
しかし、今回は違う。今回はApple自身がHPブランドの音楽プレーヤーを生産する。同じような契約はHP以外の企業とも結ばれるだろう。このやり方なら、Appleの市場シェアが脅かされる心配はない。デメリットは、デジタル音楽プレーヤーがコモディティ化すれば、結局は価格圧力にさらされるということだ。そうなれば、Appleの未来はこれまで通り、Macの行方に左右されることになる。20年後の2024年にも参加価値のあるMacworldを開催したいなら、Jobsはもっとましなネタをそろえておくべきだろう。
筆者略歴
Charles Cooper
CNET News.com解説記事担当編集責任者
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