「戦争の最初の犠牲者は真実」といったのが誰であれ、この言葉がシステムベンダーの論争に引用されるとは思いもよらなかったにちがいない。しかし、今の状況をあらわすのにこれほどぴったりくる言葉はないのだ。
SCO GroupがIBMを相手に起こした訴訟は、いまや舌戦にもつれこみ、さまざまな誤解と混乱を招いている。意図したわけではないにせよ、この訴訟が不安や不確実性、また不信感を生みだしたことは間違いない。
今回の騒動にはThe Open Groupも心穏やかではない。というのも、多くの組織はThe Open Groupが認定したUnix製品は統一Unix仕様に準拠しており、そうでない場合はベンダーが無償で修正してくれると信じてUnixシステムを導入しているからである。
標準規格の認定制度は市場の効率化に欠かせない要件だ。特に政府は認定制度の整備に余念がない。規格製品というふれこみで買い込んだ武器が、前線に到着したあとで使えないとわかっても遅いからだ。こうした事態を避けるためにも、準拠の認定は中立の第三者機関に委託することが望ましい。
Unix商標と統一Unix仕様は、業界の意向でThe Open Groupが所有・管理している。この事実はあまり報道されていないが、SCOの製品やウェブサイトにもしっかりと記載されているはずだ。
1994年、Novellはネットワーキング事業に専念するため、AT&Tから引き継いだUnix事業を放棄することを決意した。ただし、すべてを1社に丸投げしたわけではなく、Unixの商標と仕様(統一Unix仕様の前身)はThe Open Group(当時のX/Open Co.)に譲渡し、Unix System Vのソースコードとその製品実装であるUnixwareはSCOに売却したのである。
Unix商標を譲り受けたThe Open Groupは、Unix商標を実際のコードから分離し、複数の実装を可能にした。統一Unix仕様が完成してからは、この統一仕様がUnixシステムを定義する唯一の合意された公開仕様となっている。このほか、認定製品であることを示す商標(ブランド)も提供されている。
Unixを名乗る製品は、ベンダーがThe Open Groupのメンバーかどうかを問わず、The Open Groupが運営するUnix認定プログラムの認定を受けている。SCOのUnix製品も例外ではない。The Open Groupは独立団体であり、SCO対IBM訴訟に対しても中立の立場をとっている。真実の判断は裁判所とメディアにゆだねたい。
むしろわれわれが懸念しているのは、Unix商標に信頼感を抱いている顧客やユーザーのことである。
The Open Groupは、相手が誰であろうとUnix商標の濫用には徹底的に立ち向かうつもりだ。もちろん、まずは啓蒙活動や地道な説得を通して、Unix商標の適切な利用と帰属の明記を求めていくが、あらゆる手を尽くしても問題が解決しない場合は法的手段をとることもありうる。
実際、われわれは現在訴訟のまっただ中にある。相手はApple Computerだ。AppleはOS Xとその関連製品においてUnix商標を使用しているが、OS XはThe Open GroupのUnix認定を受けていない。この状態でUnix商標を用いることは商標の侵害行為にあたる。いうまでもないが、AppleはThe Open Groupの大切なメンバーなので、われわれは和解を目指してさまざまな提案を行ってきた。しかし、いまのところAppleはそのすべてを拒否している。Unix商標の所有者として、顧客と業界から託された責任を果たすためには法的手段に訴えるほかなかった。
The Open Groupの立場からすると、SCOとIBMはどちらも認定されたUnix製品を扱っているという意味では変わらない。Unix商標がThe Open Groupに帰属することを明記する限り、どちらもUnixの商標を利用する権利を持っている。
売り手にとっても買い手にとっても、これはそれほど難しい話ではない。買い手にとって重要なのは、公正かつ正確な表現で製品を宣伝しているベンダーから、カタログ通りの機能を備えた製品を購入することだ。買い物上手は自分のためになるだけでなく、事実とカタログに忠実なベンダーに代金を支払うことで、このようなベンダーに報酬を与えることにもなる。
一方売り手のベンダーは、事実を底上げしてもモノは売れないことを肝に銘じるべきだ。あいまいな言葉は市場に混乱をもたらす。「オープン」「標準」「準拠」「認定」といった言葉でカタログを飾る前に、その言葉に責任を持つことができるのかを考えてもらいたい。誤解をまねく表現を避け、真実のみを語ること。ユーザーの利益もベンダーの利益も、すべてはここにかかっている。
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