アップル復活の秘密を明かそう

文:Charles Cooper(CNET News.com)
翻訳校正:坂和敏(編集部)
2006年03月31日 08時00分

 数年前、Microsoftのお偉いさんから1通のメールが届いた。そこには2000ワードを費やして、私がいかに馬鹿者かということが書かれていた。

 私はあるコラムの中で、Microsoftの大成功を支えているものは、高い技術力というより、ねばり強さだと指摘した。それが、この人物の逆鱗に触れたらしい。誰かの心情を傷つけるつもりはなかったが、Microsoftが何度も失敗をしたことは消しようのない事実だ。その後、Microsoftはユーザーの意見を取り入れ、ミスを修正すれば、いずれは問題を解決できることを証明した。しかし、Microsoftの新製品が理屈抜きにユーザーを夢中にさせたことが、過去に何度あっただろうか。Microsoftの製品は凡庸だったが、それでも同社は成功を収めたという言い方が的を射ているように思う。

 MicrosoftとApple Computerの明らかな違いを指摘してもいい。両社が設立された時期は1年も違わない。MicrosoftとAppleは常に比較される運命にある。いわば、テクノロジー業界のLarry BirdとMagic Johnsonだ(注:ともに1980年代を代表するNBAのスター選手)。しかし、「シズル(購買意欲をそそる要素)」に関する限り、MicrosoftがAppleを上回ったことはほとんどない。

 もちろん、シズルがあるかないかは主観的な問題だ。

 米国のPotter Stewart判事は、何がポルノかをどう定義するのかと問われて、「見れば一発で分かる」と答えた。この有名な言葉を、私も採用したいと思う。この定義に従えば、Appleは30年の歴史の大半を通して、シズルを生み出してきたといえる(CNETのApple30周年特集はこちら)。

 確かに、不毛な時代もあったが、創設者のひとりであるSteve Jobs氏が主導権を握っている間は、悪いときよりも、よい時の方が多かった。もちろん、特定の個人が会社に与える影響は限られているが、Appleの製品パイプラインが最も順調に流れていたのは、Jobs氏が主導権を握っていた時代である。

 IBMは1981年に、ビジネス用途のパーソナルコンピュータという概念を打ち立てた。Appleが「Apple II」を発売したのは、そのはるか前だ。Apple IIはPCの先駆けであると同時に、競合製品の中では、最もスマートな存在だった。Appleは1984年に「Macintosh」を投入し、ふたたび世界をあっと言わせた。初代Macには、いくつかの欠陥があった。たとえば、画面はカラーではなく、白黒だった。それでも、人々は熱狂した。昨年、Jobs氏はスタンフォード大学の卒業式で講演を行った際、初代Macを「美しいフォント機能を備えた世界初のコンピュータ」と表現した。これは誇張ではない。

 では、Appleの成功のどのくらいが、独善的な指導者と評されるJobs氏の力によるものだったのだろうか。飲み屋で話せば盛り上がりそうなテーマだが、Appleが1985年にJobs氏を解任した後、何が起きたかを考えてほしい。Jobs氏の跡を継いで、最高経営責任者(CEO)に就任したのはJohn Sculley氏だった。初めのうちは好調だったが、成功は長くは続かなかった。Sculley氏は有能な人物だが、あくまでもマーケッターであり、表面上、ITビジョナリーを装っていただけにすぎない。Sculley氏は企業の陰謀に翻弄され、携帯情報端末「Newtown」などの失敗作を生み出した後、Appleを追い出された。

 その後、Appleは不毛の時代を迎える。AppleはJobs氏を追い出したことで、自分たちがいかに大きなものを失ったかを、いやというほど思い知らされることになった。Appleは無能なCEOたちの失策によって、次第に凡庸な製品を産み落とすようになった。Appleの凋落がいつ始まったのかを特定することは難しいが、Apple製品からは次第に人々を感嘆させる要素が失われていった。市場シェアは下がり続け、このまま退屈な製品を作り続けていれば、未来はないと思われた。すぐに、投資家たちもAppleが消えるのは時間の問題と見なすようになった。

 ようやく復活の兆しが見えてきたのは、1997年にNextを買収し、Jobs氏がAppleに復帰してからだ。もちろん、一晩ですべてが変わったわけではない。しかし、Jobs氏は自身の知名度を最大限に利用した。この戦略は功を奏し、Appleの製品パイプラインはふたたび、eMac、iMac、Mac Mini、iPodsといった製品でにぎわうようになった。Appleは勢いを取り戻した。

 Jobs氏はさらに、業界の常識を無視して、賃料の高い都心の一等地に小売店を開いた。業界の訳知り顔な人々は、それを破滅的な行為と評した。1980年代と1990年代に、IBMやGatewayなどのPCメーカーが同じ戦略を取り、ひどい目に遭ったことを覚えていないのか。Jobsは何を考えているんだ・・・。ところが、いざ蓋を開けてみると、Jobs氏の直感の方が正しいことが分かった。今や、これらの小売店は大成功を収めている。Jobs氏はさらなる賭けに出た。それはAppleをふたたびエンターテインメント企業にするというものだった。Appleはデジタル音楽市場に参入し、エンターテインメント業界の企業に、インターネット上でも合法的に音楽を販売できることを証明した。現在ではビデオもオンラインで販売されている。

 こうした成功は偶然の産物ではない。Appleの小売店とオンラインのデジタル音楽ストアには、Appleが製品をデザインにする際に常に心がけてきたもの、つまりスタイルと細部への徹底したこだわりが反映されている。Appleの製品はデザインがいい。それは単なる美学上の問題ではなく、決して平坦ではなかった道のりを、Appleが生き抜くことを可能にした秘密の鍵でもある。

著者紹介
Charles Cooper
CNET News.com解説記事担当編集責任者

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