米動画投稿・共有サイト「YouTube」に対し、日本放送協会(NHK)、民放キー局を含む著作権関連の23団体・事業者が約3万ファイルの動画削除を要請、同社によって受理された。
放送事業者の立場からすると、この行動は「当然」と言っていい。自分たちがお金をかけて制作した番組を勝手にネット上で再利用され、権利者から突き上げはくらうし、しかもそれに伴う視聴率の低下も懸念される。嫌なこと尽くめだからだ。
ただ、今回の一件だけに限って言えば、あたかも「訴訟団」の中心が音楽著作権協会(JASRAC)であったかのように感じさせるのは気になるところ。動画メインのYouTubeにおいて、「なぜJASRAC?」と首を傾げたくなるし、その後も各局がこの件に関する公式コメントを出さないあたりも不自然と言わざるを得まい。
デジタル放送時代突入を前に、「放送と通信の融合」を高らかにうたい、また複数の放送事業者がネットへの動画配信事業に着手し始めているこのご時勢。なぜ、“訴訟団”は派手なのか地味なのか分からないアクションを仕かけたのか――。「放送・通信融合」をキーワードにしながら、放送局とYouTubeの関係について考えてみようと思う。
まず、「なぜ、“訴訟団”の中心がJASRACだったのか」について。JASRACへの確認も含めた事実関係だけで説明すると、「多くの放送事業者などから個別に相談が寄せられ、一度まとめよう、ということになった。結果的に、当団体が全面に出るような形になった」とのこと。
無論、YouTubeにアップロードされた動画の多くには音楽著作権も絡んでいる。当然、JASRACが無関係ということはないが、今回の一件に関しては、「汚れ役にされた」感が強い。
アップロードされたファイルを強制的に削除すれば、多くのネットユーザーから反感を買う。その矛先をとりあえずJASRACに向けさせておけば、叩かれるのが嫌いな放送事業者としても被害が最小限で済む。実際、JASRAC側からは同時に、「叩かれるのは慣れているので」というコメントが飛び出している。
当事者として名を連ねる肝心の日本民間放送連盟(民放連)にも公式コメントを求めたが、「次の対応を協議中で、今のところ説明できる内容はない」と事実上のノーコメントだった。NHKや各キー局の一般紙向け会長会見レベルでも議題に上った形跡がなく(実際にはのぼっていて、ネット上にアップされていないだけの可能性もあるが)、よほど本件では表に立ちたくないという真意が読み取れる。
「放送・通信融合」のビジネスモデルについて、よく「プッシュ型とプル型の融合」という表現が用いられる。ユーザー側の嗜好に関係なく、情報を一斉に押し込んでくる放送は「プッシュ」。これに対して、ユーザーが能動的に動くことで情報を自ら掴んでくる通信が「プル」だ。
融合による具体的なビジネスモデルとしては、よく広告収入と商品販売のモデルが挙げられる。そして当然、これはコンテンツにおいても同じことが言える。
「チャンネル選択」という能動的な動きがあるとはいえ、テレビ放送は基本的に放送局が決めた時間編成を動かせない。これに対し、通信では自らが好む時間に、好むコンテンツを選んで見られる。両者のいいとこ取りをして新たなビジネスにしようというのが「放送・通信融合」であるが、実際問題として、理想的な形というのはなかなか見えてこない。
理想的な「融合」であるか否かはともかく、放送事業者の通信活用に向けた動きは活発だ。その最たる例が、日本テレビ放送網の「第2日本テレビ」に代表される放送事業者によるVOD(ビデオ・オン・デマンド)サービスだ。ここでは、放送事業者が持つ膨大なコンテンツを有効活用すべく、ネット上へ流す権利処理を済ませたコンテンツ(または、最初からネット配信目的で制作したコンテンツ)を次々と投入している。
ただし、これが「プル型コンテンツ」と言えるかどうか、微妙な点がある。
前述した通り、ネット配信するためには「流していいですよ」という権利処理を行う必要があり、過去に制作したコンテンツであれば何でもかんでも投入できるわけではない。言い方を変えると、配信できるコンテンツはあくまで放送事業者の意図と事情を多分に汲んだものしか用意されず、「時間」という枠が取っ払われたこと以外は、これまでの放送サービスと大差ないのだ。
ここでYouTubeの存在がクローズアップされる。日本国内において同社がここまで話題を集めた背景には、確実に放送コンテンツの存在があった。
具体的な話をしよう。国内でYouTubeに対して最も需要が高いと見られるコンテンツは、話題になったが見逃してしまった番組であり、もっと言えば、それは「見逃したハプニングシーン」だろう。YouTubeはその需要を余すところなく取り込んだため、国内でもこれほどの話題を集めたと考えられる。これぞ究極の「プル型」放送。
某お笑い芸人のスキャンダルに伴う相方の「涙のあいさつ」が3日間程度で300万ものページビューに達したことは、いかにこのサービスが「究極」であるかを物語っている。
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