Uber Eatsで処方薬を配達、安全性は大丈夫?--Uber Eatsとメドレーに聞く

 薬局まで直接出向く必要があるなど、何かと手間のかかる処方薬の受け取りが、オンライン服薬指導後、約30分を目安にUber Eatsがお届け――。そうしたサービスが4月からUber Eatsの配達ネットワークによってスタートした。これによって、病状などから外出しにくいためにオンライン診療を選択したにもかかわらず、すぐに必要な薬を受け取りにくかった、という患者にとっては朗報となる出来事だ。

Uber Eatsの配達ネットワークにより、処方薬の配達が可能に
Uber Eatsの配達ネットワークにより、処方薬の配達が可能に

 処方箋は原則、受診した医療機関が発行したことが明らかな紙の原本で調剤薬局とやりとりしなければならない、という法律上の制約がある。また、処方薬の配送には個人の医療情報なども絡んで多くの課題が立ち塞がる。そんな中でさまざまに検討を重ね、実現にこぎつけたようだ。

 今回のサービスは医療系DXソリューション開発などを手がける4社、およびUber Eatsの共同の取り組みだが、そのうちの1社であるメドレー 上級執行役員 医療プラットフォーム本部長の中村隆之氏ならびに、Uber Eats Japan 代表の中川晋太郎氏に、サービス実現に至った背景や狙い、安全性を確保するための仕組みなどについて話しを聞いた。

(左)Uber Eats Japan 代表の中川晋太郎氏、(右)メドレー 上級執行役員 医療プラットフォーム第一本部長 中村隆之氏
(左)Uber Eats Japan 代表の中川晋太郎氏、(右)メドレー 上級執行役員 医療プラットフォーム本部長 中村隆之氏
  1. 利便性向上とリスク防止を両立させる工夫
  2. 配達への「不安」、盗難リスクなどにはどう対処する?
  3. 配達サービス、医療のDXはさらに拡大できる

利便性向上とリスク防止を両立させる工夫

――Uber Eatsとメドレーの提携が実現した背景を教えてください。

中村氏:メドレーはこれまで「CLINICS」というプラットフォームで、医療機関と患者の両方に向けてオンライン診療サービスを提供してきました。オンライン診療はコロナ禍のなかで大きく普及し、利用された方の満足度も90%と高いのですが、そこから処方薬の受け取りまでをシームレスに接続するのは難しいという課題がありました。

 当社のシステムを導入いただいている薬局で以前から処方薬の配送を行っている店舗はありましたが、患者への薬の配送は当社ではなく、基本的には薬局ご自身が配送会社に依頼していたので、早くて当日発送の翌日到着になっていました。そこをどうにか縮められないかということで、Uber Eatsと一緒に検討していくことになりました。

 症状にもよりますが、薬ができるだけ早く欲しいという患者からのニーズは高いものがあります。しかし、処方薬の当日配送を普及させるためにはユーザー体験をどれだけスムーズにできるかが肝心です。もちろん法律面における制約などもありますので、そうした規制とリスクを適切に整理しながら、患者にとってより便利な体験にすることを目指し、今回のUber Eatsとの提携に至りました。

メドレー 上級執行役員 医療プラットフォーム第一本部長 中村隆之氏
「薬ができるだけ早く欲しいという患者からのニーズは高い」(中村氏)

中川氏:Uber Eatsの側では大きく分けて2つあります。1つは、Uber Eatsは飲食店の食事を運ぶサービスとして始まってはいるものの、最終的にはあらゆるものがオンデマンドで届くような社会を実現したいと考えていたからです。最初は飲食店の食事、2021年頃からはコンビニやスーパーの商品、ドラッグストアの市販薬にも幅を広げてきましたが、今回、そこからさらに調剤薬局の処方薬へと広げることになりました。

 もう1つは、Uber Eatsが拡大に寄与していると自負している「フレキシブルワーク」や「ギグワーク」と呼ばれる働き方のさらなる普及に向けた取り組みの一環です。シフトを約束する必要がなく、アプリをオンにすれば働けて、オフにしたらやめられる。そういう働き方を好んでいただいている全国約10万人の配達パートナー(※直近1カ月間に配達をした人)に向けて、できるだけ配達件数を増やして報酬獲得の機会を増やしていこうとしています。

 そうしたなかで、Uber Eatsの配達パートナーのネットワークを活用し、企業のあらゆるものを配達するところのラストワンマイルを担う「Uber Direct」というデリバリープラットフォームを2022年に開始していましたので、これがメドレー側のニーズにちょうどマッチするのではと思いました。そうした意味では、メドレーと当社、双方の実現したいことがうまくハマったように思います。

 そもそも、あらゆるものがオンデマンドで届くような社会を実現したいという観点では、何らかの規制があるような業界の商品にもチャレンジしていくべきですし、一歩踏み出さない限りは、規制に対応するために何をすればよいかといった知見も蓄積できません。そうやって新しいカテゴリーにもどんどんチャレンジしていくべきだと思っていたタイミングでもありました。

――サービス開発していくうえで難しかったところはありますか。

中村氏:医療以外の業界では、商品がウェブで買えるとか、当日に届くとかは当たり前になっていますが、医療業界は業務フローが特殊でさまざまな規制もあって、それがなかなか実現しにくい状況にありました。今回の処方薬の当日配送についても、医療機関と調剤薬局の2者が介在することから、オンライン診療をすでに実現している僕らとしてもシームレスに業務フローに流すのは難しかったですね。

 また、弊社、調剤薬局、Uber Eatsという三者の関係性のなかでの契約の建て付けにおいて、その整理や処方薬ならではのリスクのヘッジ方法などについて協議していくところでも時間がかかりました。ただ、メドレーでは内部のエンジニアで開発をすべてまかなっているので、仕様が固まれば開発にはそれほど時間はかかりません。サービスの実装は3カ月程度で終えています。

――リスクというのは具体的にはどういったものなのでしょうか。

中村氏:一番は誤配送です。患者が何の薬をもらっているかというのは非常に機微な情報で、誤配送でそれが他人に知られてしまうことをどう防ぐか、慎重に検討しなければいけませんでした。保険診療で薬が処方された場合、保険者の負担もあるため、診察を受けた患者が100%コストを支払っているわけではありません。間違えて届けてしまっても、もう一度送り直せばいい、といった論理が通用しないところが特に慎重になった理由でもあります。

中川氏:“物を届ける”ところを担う当社としては、誤配送の防止もそうですが、個人情報の保護や悪用の防止という観点でも課題やリスクがありました。今中村さんが話された誤配送については、その防止策として置き配には対応せず、対面の受け取りのみとして、必ず署名もいただく形にしています。

 薬を運ぶときに中身が外から見えてしまうのも問題です。それを防ぐために外からは薬が何であるかがわからないようにしています。ただし、万一配達できなかったときには薬局に戻さなければいけないので、アプリから配送元を確認できるだけでなく、外装からもわかるようにしています。これは他の商品の配送では行っていない、処方薬のみの対応となります。

 あとは今回の場合、特有の課題とも言えたのが、両者ともプラットフォーマーで、その先に調剤薬局や配達パートナーがいて初めて成り立つものである、ということでした。プラットフォーマー同士でどういう建て付けにするかという議論は、ビジネス的にはとてもユニークなやり取りだったかなと思います。

Uber Eats Japan 代表 中川晋太郎氏
「誤配送の防止策として、置き配には対応せず対面の受け取りのみとし、必ず署名もいただく形にしている」(中川氏)

――たしかに、たとえば食品なら誤配送があっても代わりのものがちゃんと届けばいいと思えますが、薬となるとそうはいかないと。

中村氏: でもその一方で、あまり決め事でガチガチにしてしまうと業務フロー的にもコスト的にも合わず普及しにくい。なのでそこのバランスの取り方は難しいところでした。本人確認を厳しくし過ぎると受け取る側の利便性も下がってしまいますし、もしかすると、ある程度誤配送のリスクがあっても置き配に対応していた方がいいという人もいるかもしれません。

 このあたりの、どうやって世の中に普及させるかというところと、間違いがあってはいけないというところのバランスを整える部分が一番難しかったなと思います。

配達への「不安」、盗難リスクなどにはどう対処する?

――配達パートナー側では、処方薬だと報酬が良くなる、といったような違いはあるのでしょうか。

中川氏:特にそういった差別化はしていません。Uber Eatsの強みは、約10万人の配達パートナーのネットワークを活用し、ダイナミックに需要と供給のバランスを整えながら、注文した方にほぼ100%お届けできているところです。報酬などの仕組みを変えてしまうとその需給バランスが崩れてしまいかねません。ですので、配達の時間や距離に応じて報酬が決まるところは同じにしています。

 ただ、配達の案件1つ1つについて受ける・受けないを決めていただく際に、事前に情報を開示することは重視しています。署名をもらわなければいけないこと、店舗に戻す返品プロセスが発生する可能性があること、といった点を明示しているので、それを見て判断していただきます。基本的には配達パートナーの方であれば、どなたでも処方薬の配達が可能です。

 ちなみに今回の連携では、あくまでもメドレーが提供する総合医療アプリのCLINICSから注文するような形になっていることもあり、患者側から配達パートナーにチップを渡すことはできません。

――サービス発表時に、ネット上での反応を見ると「Uber Eatsの配達員が配達するのが不安」というような声もありました。そういった不安を払拭する対策についてはいかがですか。

中川氏:そういったお声は、私も拝見しました。それは薬に限ったことではなく、われわれがプラットフォーマーとしてもっとブランドの信頼性、評判を高めていかなければいけないところだと思っています。一方で、Uber Eatsを利用されたことのある方は95%が満足されています。まだ利用されたことのない方が、不安を感じている形ですので、その意味では「まずは使ってみてください」ということをお伝えしたいです。

 あとは現実的にどう対策しているのか、という点ですが、先ほどお話ししたように受け取り時に署名を求めたうえで、薬の中身など機微な情報は見られないようにしています。また、仮に配達員が処方薬を横領したとしても、食品配達のときと同様のフローで届いていないことをサポートに連絡していただければ、すぐに調査して、必要に応じて警察へ通報するなどの対応をとらせていただきます。

Uber Eats Japan 代表 中川晋太郎氏
「もっとブランドの信頼性、評判を高めていかなければいけない」(中川氏)

中村氏:メドレーの側でも、あらかじめ調剤薬局にはチェックリストをお渡しして、発送前に注意事項を徹底的に確認していただきますし、配達パートナーに薬と一緒に渡す注意事項などの書類などもパッケージとして用意しています。医療機関と薬局、配達パートナーとの間でミスがないようにデータをやりとりするシステム側の工夫もありますが、物理的なオペレーション部分についてもきっちり準備しています。

 また、配達中の処方薬が今どこにあるかはCLINICSのアプリ上でリアルタイムに把握できますし、そもそも中身がわからない梱包になっているため特定の薬を狙って盗むことは難しいので、安心していただきたいです。

配達サービス、医療のDXはさらに拡大できる

――Uber Eatsでは自律走行ロボットによる配達もスタートしました。いずれは処方薬もロボットが配達する未来はありそうですか。

中川氏:かなり先の話になるかもしれませんが、可能性はあると思います。当社としては、最終的には過疎地も含めて日本全国どこでもUber Eatsが使える、という未来を目指したいと思っています。高齢化が進む地域の薬の需要は高いですし、過疎地ほど薬局までの距離も遠くなりがちでしょうから、ロボットなのか自動運転の車なのか、どちらになるかはわかりませんが、そこで非人間による配送ができるといいかもしれませんね。

――将来的に、よりハードルの高い商品の配達や医療系サービスに挑戦することは考えられそうでしょうか。たとえば輸血用の血液を運ぶ、というようなことはありますか。

中川氏:輸血のような緊急性を要するものの配達を当社が担えるようになるのは、まだ遠い将来の話かなとは思います。ですが、社会問題を解決する一助になりたいとは常日頃から思っていますので、特に人手不足が深刻化している領域にはどんどん入っていきたいですね。

 たとえばUber Directを利用していただければ、物理的なあらゆるものをオンデマンドで届けられます。固定費もかかりません。僕自身、いつも思っているのが洋服のクリーニングで、スーツやシャツをクリーニング店に持って行くのが面倒なのですが、そういうものが少しずつUber Directで解決していくと社会が前に動いている感じがしていいなあと思っています。

 あと、これは僕の勝手な夢みたいなものなのですが、災害時の支援ツールとしてUber Eatsを使っていただけるといいな、とも思っています。たとえば地震があって地域の方々が避難されたとき、Uber Eatsにユーザー登録していただければその人の避難場所がわかります。市役所が配達パートナー登録してそこに毛布や薬や水などを届けるようにすれば、孤立地域の支援がより効率的になるかもしれません。何年先になるのかわからないですけど、そこでメドレーとは医薬品絡みで一緒に何かができるといいですよね。

中村氏:今回はオンライン診療の後、薬をもらうまでのユーザー体験をよりシームレスにする、という取り組みの1つとしてUber Eatsの協力もいただきながら実現できました。ただ、患者の医療体験において、オンライン診療や処方薬の受け取りというのはごく一部です。

メドレー 上級執行役員 医療プラットフォーム第一本部長 中村隆之氏
「世の中これだけペーパーレスや電子化が進んでいるのに、医療周りは紙やアナログな業務がまだまだ多い」(中村氏)

 たとえば世の中これだけペーパーレスや電子化が進んでいるのに、医療周りは紙やアナログな業務がまだまだ多い。病院まで行って、受付で待って、紙の問診表に記入して、それをもとに病院のスタッフがカルテに入力する。診察後は処方箋を紙で受け取って、それを調剤薬局に提出する。

 その過程でDXできるポイントはあちこちにあって、もっと便利にできる予感があります。もちろんリスクや制約はあるので丁寧に進めなければけませんし、電子処方箋を普及させたり、処方箋の原本性を担保したり、といったいろいろな課題や制約もありますが、テクノロジーを活用することでできることはたくさんあるんですよね。

 僕らとしては、リスクや規制、ルールを踏まえて、その周りを整理しながらいかに利便性の高いサービスを作っていけるかが大事だと思っています。オンライン診療だけでなく、患者の医療体験、あるいは患者と医療機関との間にあるものをテクノロジーでスムーズにできたら、という思いでサービス開発していますし、そういう世界を実現できると信じています。

――最後に、読者に向けてメッセージをいただければ。

中村氏:今回の取り組みは、特に患者側では、特にオンライン診療の後に薬を受け取るところで飛躍的に良い体験になるものと思っています。Uber Eatsのサービスと同様、オンライン診療も一度利用すれば満足度高く感じてもらえるサービスですので、従来の対面診療とともにみなさんの生活シーンのなかで、うまく活用してほしいです。

 また、処方薬の当日配送サービスは、薬剤師など医療側の労働負担軽減が狙いの1つでもあります。今の薬局は、自分たちで自転車をこいで患者に薬を届けに行ったりしています。それをUber Eatsの配達パートナーに代わっていただくことで、医療機関側は患者と接する時間が増えます。つまり、医療の質向上に貢献することになるわけです。患者の利便性向上とあわせて、医療機関側のフォローや労働時間削減にもつなげていければと思っています。

中川氏:始まったばかりのサービスなので、まだサービスとして100%完璧ではないところもあるかもしれませんが、使っていただいてこそサービスの改善が進みますし、たくさん使っていただくことで知見の蓄積にもつながります。

 今回は処方薬ですが、Uber Directを活用することで、カテゴリーを問わずあらゆるモノをユーザーにお届けすることができます。企業様のなかで「この仕組みを応用したらビジネスが伸びるのでは」と感じた方がいらっしゃいましたら、ぜひともご連絡をお願いします。

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