ソフトバンクは2月3日、2023年3月期第3四半期決算を発表。売上高は前年同期比4.1%増の4兆3455億円、営業利益は前年同期比21.7%増の9820億円と、増収増益の決算となった。
同日に実施された決算説明会に登壇した、代表取締役社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏によると、増益の要因は前四半期に続いてPayPayの子会社化によるところが大きく、2948億円の再測定益が計上されたことで利益を大きく伸ばしている。2022年度の営業利益1兆円達成に向けて順調に進捗していることから、宮川氏は目標達成に自信を見せている。
モバイルを中心とした主力のコンシューマ事業は、政府主導による通信料金引き下げの影響が続き営業利益は前年同期比で17%の減益となるが、通期での利益予想に対しては順調に推移しているとのこと。スマートフォンの契約数も順調に増加しており、番号ポータビリティによる転入についても「各キャリアに対して全てプラスで終わることができた」と話すなど、契約獲得も好調だという。
通信料金引き下げの影響で2022年度通期で900億円のマイナス影響を見込むというが、今四半期だけを見ればマイナスの影響は220億円にまで縮小しているとのこと。来年度の影響はさらに500億円にまで縮小すると予測しており、宮川氏は「3年間の氷河期がようやく見えてきた」と話している。
なお決算発表の前日となる2月2日、ソフトバンクはKDDIと、デュアルSIMの仕組みを活用して通信障害時などに他社回線を利用できるサービスの提供を発表している。同日に実施されたKDDIの決算会見で、その概要や経緯についてある程度明らかにされているが、宮川氏はソフトバンク側からの提供に至る経緯について説明した。
宮川氏は2022年7月にKDDIが通信障害を発生させた際、対岸の火事ではなく「転ばぬ先の杖ではないが、対策はあらゆる角度で取り組みたい」と話していた。そこでKDDIの代表取締役社長である高橋誠氏からデュアルSIMのサービス提供の話を持ち掛けられた際、高橋氏から「本気でやるかどうか」と問われ「ぜひ」と宮川氏が答えたことで、スピード感を持って議論が進み、急ピッチでのサービス実現に至ったとのことだ。
このサービスは保険の意味合いが強いものであることから、宮川氏は多くの人に利用してもらえるよう、料金については「数百円のできるだけ下の方」にしたいと回答。3月下旬の開始に向け、両社でできるだけ速やかに調整を進めたいとしている。
ただKDDIは月額0円から利用できる「povo 2.0」を提供しており、非常時のKDDI回線を持つのに毎月数百円がかかるとなるとメリットが薄いと感じる人も多いように思える。だが宮川氏は、ソフトバンクショップで販売することに大きな意味があるとしており、povo 2.0とは違った顧客に向けて提供するものになると見ているようだ。
なおNTTドコモや楽天モバイルとの協議については、「回答しないでくれと言われている」として具体的な回答を控えている。ただ「条件が揃い次第、どのキャリアとも(デュアルSIMのサービスを)やるつもり。両方ともやるべきだと考えている」と宮川氏は回答、将来的には全社の回線を活用したサービスを提供したい意向を示している。
宮川氏はさらに、5Gのエリア展開についても言及。同社では面展開を重視して700MHzを中心に活用した基地局展開を進めてきたが、2021年度末に人口カバー率90%を達成。今年度も基地局の追加を進めており、「2年間で集中投資したことで、だんだん5Gレディになってきていると思う」と宮川氏は説明する。
一方で、より高速通信ができる「サブ6」の周波数帯の基地局整備に関しては、従来衛星通信との干渉で思うようにエリアを広げることができなかったが、ルールが緩和され拡大が容易になったことから東名阪を中心に通信容量を増やすために整備を始めているとのこと。それより高い周波数の「ミリ波」に関してはまだ活用が進んでいないが、サブ6の整備が進んだ後に屋内対策を中心に活用していきたいとしている。
またKDDIと地方でのインフラシェアリングを進めるべく設立した「5G JAPAN」の取り組みについて問われた宮川氏は、「実は2022年度末で1万2000局くらい、KDDIの鉄塔に(自社の基地局を)乗せてきた」と話し、現在では2万局程度はKDDIとのインフラシェアリングが進んでいると説明。電源や伝送路、光ファイバーなどの設備を2社分同時に工事することで整備コストを半分以下に引き下げられることから、「体力がなくなりかけているキャリア同士が手を組むと基地局の増設をよりたくさんできるんじゃないかと思い始めている」と、引き続き5G JAPANの枠組みを活用しての整備を推進する姿勢を示している。
金融事業に関しては、PayPayの子会社化で売上高が大幅に伸びる一方、子会社化の影響に加えPayPayカードの顧客拡大に向けた戦略的投資によって、営業利益は減益となっている。だがPayPayのユーザー数は5400万人に達し、決済取扱高も5.7兆円にまで伸びるなど好調が続いていることから、PayPay単体での黒字化まで「もう少しというところ」と宮川氏は評価している。
法人事業はソリューションを中心に伸びを見せており、一時的な特殊要因を除けばビジネスは好調とのこと。一方でZホールディングス(ZHD)が展開するヤフー・LINE事業については、売上高はコマース事業が伸びて増収となる一方、営業利益は人員拡大のためコストが増え、17%の減益であるという。
そのヤフー・LINE事業に関しても、前日の2月2日に大きな動きがあり、ZHDと傘下のヤフー、LINEの3社を中心に合併すると発表。ヤフー出身の川邊健太郎氏とLINE出身の出澤剛氏が代表取締役社長Co-CEOを務める体制を改め、川邊氏が代表取締役会長、出澤氏が代表取締役社長となり、新たに取締役GCPOの慎ジュンホ氏が代表権を持つことが明らかにされている。
ソフトバンクはZHDの親会社の1つで、宮川氏は2021年にZHDとLINEが経営統合した際「わくわくしていた。期待が大きかった」と話す。だが実際にはこの2年間、「Yahoo! Japan」と「LINE」のID連携が進まず、注目を集める新しいプロダクトが生まれてこないなど不満を募らせることが多かったようだ。
そうしたことから宮川氏は「もう少しスピードを上げてくれないかと常々思っていた」と話し、意思決定のスピードアップやサービスの取捨選択、ID連携をはじめとしたシナジー早期創出など、ZHD側にさまざまな要求をしてきたとのこと。もう一方の親会社となるネイバーとも「このままではいけない」と議論をしてきたほか、2023年に入ってからは川邊氏とも直接ミーティングを重ねてきたそうで、その結果ZHDの経営陣から提案されたのが今回の合併案であったという。
宮川氏は提案された案に関して、方向性は正しいと感じたことから「即答で賛成した」とのこと。「自分の中でのもやもや感はこれで吹っ切れたと思う。今後に期待したい」と期待を述べている。
一方で今回の合併によって、出澤氏に加えLINEの生みの親とされる慎氏が代表権を持つことから、LINEの色が強くなりヤフーの存在感が薄れるようにも見える。この点について宮川氏は「(経営陣の)個別の能力はみな高く、頭もいいと認識している。その中で誰がやってもいいかなと思っていた。それよりも組織構造として能力を最大限に発揮できる構造になっていなかった」と、バランスよりも組織構造の問題解消が重要との認識を示している。
また宮川氏は、ZHDの中で今後期待しているサービスについても言及。「AIを使ったサービスが、非常に深い所まで作り込んでいるものがいくつかある」と話し、驚きを与えるサービスの商品化をいち早く進めることに期待しているとのことだ。
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