シャープは、6月23日午前10時から、第128期定時株主総会を、大阪・堺のシャープ本社多目的ホールで開催した。2021年の株主総会の質問者数は1人で、過去最短の27分だったが、2022年は5人が質問。所要時間は1時間1分となった。
新型コロナウイルスの感染防止の観点から、株主に対しては、来場は見合わせるように呼びかけたが、出席者数は110人と、前年の63人から約1.8倍になった。
今回の株主総会で退任するシャープ 社長兼COOの野村勝明氏は、「6年間に渡る取り組みで、経営の安定化については土台ができた。そこで新たな経営陣にバトンを渡すことにした。2年間でキャッシュフローも改善し、財務基盤の安定化もできた」と総括。
さらに、堺ディスプレイプロダクト(SDP)の完全子会社化については、「買い戻しは、戴正呉会長からの提案である。米中貿易摩擦があったが、第10世代以上の液晶パネル工場は中国以外では、SDPだけである。亀山第2工場は拡大する余地がない段階にある。足元は厳しいかもしれないが、長期的に見て、SDPの活用とともに、シャープの技術力により、改善および成長させられる。テレビだけでなく、カテゴリーシフトや次世代技術の投入もできる。ディスプレイ産業全体は拡大している。将来に対応できる」などとした。
また、今後の製品戦略については、「ハードウェアだけでなく、ソフトウェア、ソリューションを一緒にしたモノづくりを行っていく」と述べた。
米州のテレビ事業については、2022年秋には新製品を投入する予定であり、海外事業の成長につなげる考えを明らかにした。
株主からは、シャープの創業者である早川徳次氏が打ち出した創業の原点に戻り、事業を進めてほしいとの意見もあった。
一方、株主総会後の午前11時20分から開催された経営説明会では、社長兼CEOに就任した呉柏勲氏が、シャープの事業戦略について説明した。ここでは、2023年度から社内の公用語を英語にする方針も示された。
呉社長兼CEOは、2016~2021年度までの取り組みを「将来に向けた基盤構築の時期」とし、ブランド事業を主軸とした事業構造の構築、8K+5G、AIoTで世界を変えることの具現化、財務基盤の強化や社債市場への復帰により、黒字化と安定的利益の創出を実現できたとする一方、今後は「ESGに重点を置いた経営が重要」だとし、健康関連事業(デジタルヘルス)のさらなる強化、カーボンニュートラルへの貢献、人(HITO)を活かす経営、真のグローバル企業へ取り組みを通じて、持続的成長を目指す姿勢を強調した。
とくに、デジタルヘルス事業の強化では、「未病の領域を中心に新たな商品やサービス、ソリューションを展開したい。白物家電、テレビ、モバイル端末などで利用しているセンシング機能の強化、健康関連センサーの開発、新たな健康関連機器の創出に取り組むとともに、他社との協業やM&Aにも積極的に取り組む。健康データを収集できる仕組みを構築し、蓄積したデータを分析することで、一人ひとりに最適化したソリューションを提供し、ユーザーが自然と健康になっていく暮らしを実現したい」とした。
また、カーボンニュートラルの取り組みでは、2050年までにCO2排出量実質ゼロを掲げ、2035年までに2021年度比で60%削減の目標を打ち出していること、エネルギーソリューション事業の変革を加速し、再生可能エネルギーの拡大に貢献する考えを示す一方、持続的成長に向けては、「HITO(ハイブリッド、イノベーション、タレント、オボチュニティ)」の観点から制度の設計や改革を推進し、「若手活用を後押しする信賞必罰人事制度の進化」、「人材獲得力のある勤務処遇制度」、「人材の成長を支援する仕組みの充実」、「組織の若返り/意思決定スピードの向上」の4点に取り組む考えを示した。
さらに、グローバル展開では、社員の英語力の大幅向上、海外における人材管理の強化および優秀人材の獲得、企業理念のグローバル浸透、本社部門の海外支援機能の強化、海外企業との協業およびM&A、国内外におけるコーポレートブランディングの強化、最先端技術を搭載した新製品のグローバル同時展開、各地域の生活に根づいた商品、サービスの開発強化を掲げた。「グローバル視点での経営改革を進め、海外でのブランド向上を図る」と述べた。
株主からは、これまでの戴正呉会長が日本語で説明していたのに対して、呉社長兼CEOの説明が終始、中国語で行っていたことに対して、「日本語をどの程度理解できているのか」という質問が飛んだ。これに対しては、「2012年6月に堺ディスプレイプロダクトに入社し、2017年2月にシャープに入社。その間、海外事業を担当してきたが、日本語を聞ける能力は持っている」と英語で説明。さらに、中国語で、「社内公用語を1年後に英語にする。これに基づいて海外事業を拡大していくことになる。社内のコミュニケーションを高めるためにも、私自身も日本語を勉強する」とした。
一方、ESGに重点を置いた経営の早期具現化に向けて、2021年7月に海外統括部を設置し、呉社長兼CEOが直接統括。4月に設立したデジタルヘルス事業推進室、7月に新設するESG推進室により、One SHARPでの事業成長に取り組む考えも示した。
堺ディスプレイプロダクト(SDP)を、6月27日付で完全子会社化することについても言及。その狙いについて、「テレビ事業や業務用ディスプレイ事業における高品位パネルの安定的で、優位性がある調達」、「ディスプレイデバイス事業のアプリケーションの拡大や生産能力向上と、将来の競争力強化」、「米中貿易摩擦を背景とした米州市場向けのパネル供給における優位性」をあげた。
さらに、SDPの事業の方向性として、PCや車載、VR向けパネルといった需要が旺盛な分野を中心に事業を拡大する考えも明らかにした。「高い技術力、コスト力、大型パネル生産における優勢性を活かして、需要変動が激しいテレビ向けパネルから、ゲーミングやPC向け、車載向けにシフトすることを考えている。これが業績の安定化につながる」とした。また、「パネル工場の収益で大切なのは稼働率である。新たなカテゴリーや新たな顧客の獲得により、3年以内に黒字化を目指すが、それをさらに前倒ししていく」とも述べた。
ディスプレイ事業は、マルチカテゴリーでの展開や、ハイエンド、ミドル、ローエンドの製品ラインアップを進め、車載では横1メートルのディスプレイや60型サイズまでの商談が始まっていること、メタバースについてもビジネスチャンスが大きいことなどを強調した。
2022年度の事業方針についても説明した。呉社長兼CEOは、2022年度の事業環境が、新型コロナウイルスの広がりや半導体不足、原材料や部材の価格高騰、物流の混乱に加えて、ウクライナ問題や急激な円安などによってインフレが加速。世界経済はますます不透明な状況になっていることを指摘しながら、「海外事業の強化」、「新規領域の拡大」、「リスクへの対応」の3点に取り組む考えを示した。
「海外事業の強化」では、米州、欧州、ASEAN/台湾が事業拡大を牽引。海外事業全体では、前年比15%増の売上拡大を目指す。2022年度のブランド事業における海外売上比率は47%(2021年度は45%)を計画している。
「米州、欧州では8Kエコシステム事業、ASEAN/台湾ではスマートライフ事業が牽引役になる」とした。
「新規領域の拡大」では、既存事業を維持、強化しながら、AIoT対応機器や『AQUOS XLED』などの「新製品やサービスの開発」、海外事業やeコマースなどの「新市場の開拓」、ソリューション事業や、異業種との協業によるB2B事業などの「新規事業の創出、売上拡大」に取り組むという。
「リスクへの対応」では、半導体不足および価格の高騰、原材料や部材の不足および価格高騰、物流の混乱をリスク要因にあげ、「サプライチェーンの混乱は、長く続くと想定している。これらのリスクの影響を最小化するための対策を推進していく」と述べた。
さらに、2022年度においては、「営業販売力」、「組織学習力」、「英語コミュニケーション力」、「水平統合力」、「執行力」の5つの能力の向上を図り、業績目標の達成に取り組むと述べ、「強い決心とスピードを持ち、日本中心のブランドから、世界のSHARPブランドに成長させたい。新しい時代に向けて変革のスピードを加速させ、シャープブランドをグローバルに輝かせたい」と語った。
現在、シャープでは、中期経営計画を発表していない。これに対して、呉社長兼CEOは、「3~5年間の中期経営計画は社内にはある。だが、まずは、世界情勢が厳しいなかで、2022年度の事業計画を達成することを目指す。中期経営計画は、タイミングを見て公表したい。2022年4月のCEO就任後に、シャープの拠点をまわり、たくさんの新製品や新技術があることを感じた。技術の変化や投資を踏まえ、さらに柔軟に計画を変更することも考えている。また、シャープディを開催して、シャープの製品や技術を多くの人に知ってもらう場を作りたいと考えている」とした。
円安の影響については、「対ドルでの体質改善を行っていくためにも、海外事業の拡大を進めていく。欧米での海外事業については私が先頭に立っていく」とした。また、有機ELパネルについては、「私は、営業出身であり、顧客の声を大切にしたい」としたほか、「デバイスの営業体制を再編し、ひとつの顧客に対して、ひとつの営業で対応するようにしている」などと述べた。
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