ACSL、マレーシアでのドローン試験飛行1000時間達成--鷲谷社長「レベル4実運用シーンを想定」 - (page 2)

コロナ禍の完全遠隔で新手法確立

 本試験はもともと、日本から指導員を派遣する予定だったが、コロナ禍のため、ドローンを海外輸送し、試験の準備から現地スタッフのトレーニングまで、フルリモートで対応した。「完全遠隔は相当難しかった」(鷲谷氏)というが、ASEAN諸国やインドをはじめとする海外展開を見据える同社にとって、この経験は大きな糧になったようだ。

 試験内容や要件を細かく決めていく準備段階では、言葉の壁以上に、「1つの単語をみたときに、連想しているものが全然違う」という発見があった。たとえば「高高度」といえば、日本では150mを基準に考えがちだが、マレーシアでは「4000mの山を登ればいいよね」という感覚。「長距離」にしても、日本だとせいぜい5〜10kmを想定するが、あちらでは「40〜50km飛ばせるけど?」という感じで、スケールが全く違っていたという。

 「最初は、あまりに感覚が違いすぎて、笑うしかない状況だった。抽象的な単語から、具体的な目的や数値に落とし込んで共通化する、すり合わせを繰り返す中で、いい学びになったのは、日本人は無意識に保守的になっているということだ。こんなもんだろうと思わず、リミットがない発想でやってやろうと気概を持つ大切さを、彼らから学ぶことができた」(鷲谷氏)

遠隔でのトレーニングの様子 ※マレーシアにおける活動制限令(MCO)ではない期間に撮影
遠隔でのトレーニングの様子 ※マレーシアにおける活動制限令(MCO)ではない期間に撮影
実技トレーニングの様子 ※マレーシアにおける活動制限令(MCO)ではない期間に撮影
実技トレーニングの様子 ※マレーシアにおける活動制限令(MCO)ではない期間に撮影

 また、遠隔でトレーニングするという講習モデルを確立できたことは、海外展開も含めて今後の布石となりそうだ。独自に設計、開発したエミュレーターが、遠隔でのトレーニングに転用できたのだ。このエミュレーターは、もともとは新機能を開発したときに、実際にフィールドで飛行試験する前のバグ出しなどに使っていた、開発サイド向けのシステムで、本体と全く同じ制御プログラムが組み込まれている。インターフェースも同様だ。このため、操縦桿をどれくらい倒すとどれくらい進むのかといった機体の癖や各種初期設定値などが、しっかりと再現されている。

 「私の知っている限りでは、自社機体用のエミュレーターを、ここまで作り込んでいるドローンメーカーはほかにない。僕らの開発用のエミュレーターが教育ツールとしても使える、というのは大きな発見だった。安全飛行に必要な、機体の特徴や仕様への理解を、実機ではなく完全に再現されたデジタル空間でやっていただけたので、我々にとってもやりやすかったし、エアロダイン側にとっても、仕様の背景にある思想まで確認しながら安全運航に備えられるというメリットがあった。その結果、完全遠隔かつ無事故で試験を終えることができた」(鷲谷氏)

エミュレーターの画面
エミュレーターの画面

レベル4に向けて今後の展開

 実際の飛行試験は約4カ月、ほとんど毎日実施したという。鷲谷氏は、「レベル4の実運用を想定した」と強調した。たとえば、市街地での物流を想定すると、離着陸時のホバリング(定位置保持)は、風速や高度などさまざまな環境条件が考えられる。また、雨の日でも暑い日でも、一定の高速度で飛行しているはず。このように、実運用シーンから逆算して、試験の要件を現地と相談しながら決めていったという。

 この結果、システム全体としての性能を評価することができ、現行の機体をベースに開発してよいか、ゼロから作り直すべきかなどの部品レベルでの判断基準や、保守修繕の閾値も把握できたという。

 「もちろん、従来も部品ごとの試験は行っているが、これは理論値だ。たとえば、熱を40度にした環境でモーターの回転数を上げる耐久性能試験を行って、何時間で交換が必要だと決めていても、リアルで飛行させると実はモーターが上下に微振動しているなど、本当の性能は理論値とは異なる。実際リアルな環境で長時間飛行させて、ドローンをシステム全体として評価するからこそ、取得できるデータを得られた意義はとても大きい」(鷲谷氏)

試験飛行中の機体
試験飛行中の機体

 今後は、レベル4の法改正と同時に、第1種機体認証を取得した量産機を販売開始できるよう、国とも連携しながら開発を進めていく予定だ。鷲谷氏は、「販売先としてまずは、資本・業務提携先である日本郵便様にご活用いただきたい」と話した。海外展開としては、ASEAN諸国とインドに注力する。ASEAN諸国は、本試験のパートナーであるエアロダインをはじめ、ローカルパートナーと協業する座組みで販促を狙う。インドは、2021年9月に設立した合弁会社ACSL Indiaを通じて、現地で製造と販売を進めていく構えだ。

 「今回の累計1000時間の試験飛行で自信を持てた点は2つある。1つは現行機種がいずれも破壊値には至らず、機体としての作り込みがしっかりできていると確認できたこと。もう1つは、他社製品を使い慣れているプロパイロットが3〜4日の完全遠隔指導で我々の機体も難なく飛ばせるくらい、操作性がシンプルに仕上がっていると確認できたことだ。今後もコアな開発と試験は日本で続ける横で並行して、さらなる耐久性能試験を海外で積み上げて、その結果を日本にフィードバックするという開発手法を活用し、確実かつ安全にレベル4を実現していくことで、社会課題の解決に寄与していきたい」(鷲谷氏)

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