日立製作所がオンラインで開催した「Hitachi Social Innovation Forum 2021 JAPAN(HSIF2021 JAPAN)」において、家電事業を担う日立グローバルライフソリューションズ(日立GLS)常務取締役兼COOの伊藤芳子氏が、「新たな生活スタイルに即したライフソリューションの創出に向けて」と題した講演を行い、「これまでの『日立=伝統的』というイメージから脱し、新たなソリューションビジネスに取り組んでいる会社というイメージを持ってもらいたい」と述べた。また、別のセッションでは、同社が3月に発売したコネクテッド家電「スマートストッカー」の最新状況などについて説明。家庭での利用提案だけでなく、オフィスや工場などを対象にしたビジネス向けソリューション展開に乗り出す姿勢を示した。
伊藤氏は、外資系コンサルティングを経て、HOYAのアイケア事業部長、コニカミノルタ マーケティングサービスでGlobal COOなどを歴任。2020年7月に日立GLSに入社し、4月から現職に就いた。現在、国内家電事業全般の統括と、トルコのアルチェリクとの海外家電の推進などに取り組んでいる。
「日立のブランド認知度は100%に近い。伝統的で、技術力があるというイメージも強い。日本全国の地域に密着したアフターサービス網を持っており、これからも、暮らしを支えるパートナーとしての基盤を確立し、成長の礎にしたい」とする一方、「単によい製品を売る、あるいは届けるという仕組みから、生活に貢献できるソリューション化を目指している。これまでの『日立=伝統的』というイメージから脱し、今後は、『新たなソリューションビジネスに取り組んでいる会社』というイメージを持ってもらいたいと考えている」と述べた。
日立グループでは、「社会イノベーション事業を推進し、持続的な成長と収益を確保すること」を目指しており、日立GLSは、そのなかで、ライフソリューション事業の拡大という観点から、事業貢献していることを示しながら、「日立グループのなかで、お客様のライフデータを得られる重要なコンタクトポイントに位置づけられているのが日立GLSである。家電、空調をネットワーク化し、生活に新たな価値を創出することで、日立グループが推進するLumada事業への貢献も目指している」と述べた。
また、社会的価値につながる自社の存在意義の明確化を目指す「パーパス起点の経営」、価値創造につながるモノづくり、サービスを、デジタル活用のもとで行う「お客様価値中心」、多様なステークホルダーとのつながりからオープンなエコシステムを構築する「社会的インパクトの創出」を、新たな提供価値を生み出す3つの源泉と位置づけた。
新たなライフソリューション創出の事例についても示した。同社では、オープンなエコシステムを推進。ルーティン家事をサポートするコネクテッド家電を通じた「暮らし」、生き生きとした日常、心身の健康をサポートする家族型ロボットによる「ウェネルス」、再生医療の導入を容易にするクリームルーム総合ソリューションによる「ヘルスケア」、持続可能な社会のために低環境負荷空調ソリューションによる「環境」を4つの柱とし、グローバルアライアンスの強化によって推進するという。
「2015年10月のジョンソンコントロールズとの合弁、2021年7月のアルチェリクとの合弁により、日立ブランドの製品だけでなく、ソリューション事業の海外展開を加速していく」と述べた。
「暮らし」においては、スマートストッカーの事例を紹介し、重量センサーとスマホとの連携により、日常的に必要な飲料、食料を切らすことなく管理でき、無駄な買い物から解放できると説明。飲料メーカーや食品メーカーとの連携により、自動発注の仕組みが構築でき、メーカーにとっては安定した販売収入が確保できるとした。「メーカーだけでなく、小売り業との協創も検討している」という。
「ウェネルス」では、家族型ロボットの「LOVOT」を開発、販売しているGROOVE Xと資本提携を行っており、日立の家電の製造で培ったデジタル技術や、コネクテッド家電から得られるデータを活用。「今後は、生活者のマインド面を含めたクオリティ・オブ・ライフの実現に向けて、どんな価値を創出できるのかを検討していくことになる」と述べた。
また、BtoB領域となる「ヘルスケア」では、CPC(細胞培養加工施設)ソリューションを提供し、再生医療に貢献。高度な空気質管理を実現しているほか、「環境」では、病院や食品加工現場、小売店など、空調が停止することが大きな損失につながる企業向けのソリューションを提供。AIを活用した予兆診断により、修理を促すほか、遠隔監視サービスにより、保守作業の負担も低減できるという。解析したデータをもとに、フロン排出抑制法への対応も可能になるとした。
伊藤氏は、「新型コロナウイルス感染症の広がりにより、生活スタイルが大きく変化。ECが伸長したり、おうち時間が増加したりといった動きが見られるほか、環境を意識したエシカル消費が増加し、日立GLSに求められる提供価値が変化している」としながら、「日立GLSは、プロダクト×デジタルを基軸に、環境配慮型ソリューションを提供し、オープンなエコシステムを推進すべく、事業展開を進めていく。これにより社会価値創出に貢献していく」と述べた。
一方、「コネクテッド家電『スマートストッカー』~在庫管理がスマートに、暮らし・ビジネスをサポート」と題したセッションでは、3月に発売したスマートストッカーについて説明を行った。
スマートストッカーは、冷蔵庫や冷凍庫として使用できる家電で、常にストックしたい食品を登録すると、庫内の2段目と5段目に搭載した重量センサーが、保存している食品や飲料品の重さを元に、ストック状況をスマホアプリ「日立冷蔵庫コンシェルジュアプリ」に表示。在庫が少なくなってきたら、スマホの画面に通知して購入を促す。外出先でもストック状況を確認して購入できるほか、事前によく使用するECサイトを登録しておけば、アプリの「購入する」ボタンを押すだけでECサイトから購入ができる。
これまでの家庭用冷蔵庫は、鮮度保持や使い勝手向上などの基本性能を高めることが提供価値の中心であったが、生活スタイルの変化に伴い、新たに求められているのが、ルーティン家事の負担軽減だという。
いつも購入する定番の食材の場合、買い忘れや、二重購入を防ぐために、頻繁にストック状況を確認しているケースが多い。知らず知らずに負担をかけているルーティン家事のひとつだ。こうしたルーティン家事を、デジタル技術を活用した製品、サービスによりサポートし、新たな提供価値を提供するのが、スマートストッカーを商品化する上でのベースとなった。繰り返し購入する食材のストック管理の負担に着目して開発したものだ。
健康のために常備しておきたい野菜ジュース、リモートワークのランチに手軽に使えて便利な弁当のストック、切らすと困ってしまう米や、まとめて購入することが多い水など、常にストックしておきたい食材の管理に活用できる。さらに、残量管理から購入までを、スマホで管理できるため、ストック管理や買い物の負担を軽減しつつ、ストック切れがない毎日を実現することができる。これまで、買い物にかかっていたちょっとした手間や負担を減らすことができるというわけだ。
今回のセッションでは、この仕組みが、家庭だけでなく、ビジネスの現場でも活用できることを、具体的な事例をもとに新たに示してみせた。
1つ目は、オフィス向け食材ソリューションである。スマートストッカーをオフィスや工場などに配置し、リモートからの在庫状況や供給状況を検知し、適量を補充できるもので、給食委託会社などに提案していくという。
社員の勤務形態が変化し、オフィスの食堂利用者が減少しているなか、給食委託会社は、ストック切れの心配がなくなり、コロナ禍での新たな食事提供を行えるという。
2つ目は、健康飲料メーカーとの連携ソリューションだ。健康飲料メーカーが独自に持つ健康測定情報を活用して、健康飲食を促す提案を行うもので、工場やオフィスで勤務する人たちの健康測定情報と、スマートトスッカーが提供する健康飲食情報を組み合わせて、従業員の健康促進を支援することができるという。
さらに、日立GLSでは、ソリューションの実現に向けて、パートナーとともに、日立GLS社内で、8月23日からPoCを実施していることも明らかにした。社内に3台のスマートストッカーを配置し、冷凍食品や健康飲料を入れ、使用量を検知。ログ情報を蓄積し、これをビジネスソリューションの開発における問題点の抽出、効果検証につなげている。
当初は家庭での利用を想定していたスマートストッカーは、発売から半年を経過し、ビジネス領域での展開が視野に入ってきた。同社では、食や健康分野のビジネスソリューションの展開に向けて、パートナーとの協創を拡大していく姿勢を示している。コネクテッド家電の新たな提案が始まろうとしている。
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