オンラインでも相手の「胸に響く言葉」とは?--信頼関係を築くための会話術

浅川智仁(ライフデザインパートナーズ代表取締役)2021年09月08日 09時00分

 リモートワークへの転換に多くの企業が迫られた昨今、ほとんどの人がオンラインを通じて会話やコミュニケーションを行っている。それはもちろん、仕事だけではなく、遠く離れた家族間のコミュニケーションにも使われるようになった。

 昨年からのコロナ禍が出現していなければ、おそらくオンラインでのコミュニケーションスタイルはこれほど一般的にはなっていなかっただろう。ツールはあったにも関わらず、多くの人は変化を求めず、「今まで通り」の手法の中にしがみつきながら、意思の疎通を求め続けていたと思われる。

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デジタル進化にともない、抱く課題も進化している

 2020年4月の緊急事態宣言を機に、コミュニケーションの世界は目まぐるしく状況が一変し、一気にデジタルシフトが進んだ。これによって、物理的な距離を超えた人間関係の構築が今まで以上に容易になり、それは同時に私達の成長領域を一気に広げていったと言ってもいいだろう。

 一方で、広がっていく関係構築領域というポジティブ面を受け止めきれず、「変化」を脅威とみなし、歩みを止めかけてしまった人も多かった。それは、デジタル進化に対する“拒否反応”、言い換えれば、人間の根源的に持つ「変化」への不安が、根底に大きくあったと振り返る。

「何をしたらいいのかわからない」
「対面以外では思いは伝わらない」
「デジタル対応が苦手、できない」

 思い返せば、コロナ禍が始まった当初、多くの人が「進化」という課題をうすうす感じながらも、デジタル対応や過去への決別から目を背け、自らがコントロールできないことにフォーカスしていたように感じる。

 私が代表を務めるライフデザインパートナーズではあの時期、クライアント企業様からオーダーいただいた営業研修でスケジュール帳は真っ黒だった。それが、日に日に修正テープで消されていく。かかってくる電話や送られてくるメールは全て、キャンセルのご希望。または、いつ再開されるか分からない、約束の見えないリスケの連絡だった。

 修正テープで埋め尽くされているそのスケジュール帳。硬く、厚くなったそのページに触れると、今でもその当時のやり場のない悔しさを思い出す。多くの人が足を止めかけていた、あの日から1年半が経った。どうだろう。今でも、あの時と同じ課題を抱えているだろうか。

 もしくは、「進化」に対応するために、すでに新しい課題に直面している人も多いと思う。オンラインツールを使い、どこにいてもつながれる新しい時代。このツールを使って、どのように想いや熱を伝えられるのだろうか。弊社には、新しい進化ゆえの課題に直面している様々な業界の方からの、切実な質問が日々寄せられている。

「本当に伝わっているのだろうか」
「なんて言えば良いのだろうか」
「オンライン上でスムーズに進まない」

 文字通り、コミュニケーションの世界は、デジタル進化に対応していくことが不可避な時代になった。われわれは思う。こんなご時世だからこそ、改めて「言葉」とは何なのか?そして、どう伝えれば「言葉」は相手の胸に響くのか?その原理原則の一旦を、本日は伝えてみたいと思う。

ノーニーズ ノーセールス、ノーニーズ ノープレゼンテーション

 「営業」という言葉を聞くと、どんなイメージを持つだろうか?もしかしたら、多くの読者が、あまり良いイメージを持たれないかもしれない。

 営業研修を主幹事業とする弊社の代表である私(浅川智仁)は、今でこそ研修トレーニングという形で、セールスパーソンにオンライン会議でのセールストークや伝えるための具体的なノウハウを伝え続けているが、最初から「営業」をポジティブにとらえていた人間ではなかった。むしろ、営業を差別していた。

 幼い頃から、あらゆるメーカー(飲料や食品など)のセールスパーソンが営業に来ていたのを目の当たりにしていたこと。それが大きな理由だ。

「自社の商品を置いてください!」
「先日出た新商品です!いつもより棚を広めに使わせてください!」

 自分にとっては立派に見える大人が頭を下げて、社長である父にお願いしている姿を見ていたことで、営業に対してこんなネガティブなイメージを持ち続けていた。

「営業とは、頭を下げてお願いする仕事」
「営業とは、お願いしてお金をもらう仕事」
「モノ売り、押売りをする仕事」

 いかがだろうか。「営業」という職業に対して、このようなイメージを持つ人は少なくないかもしれない。当然だが、そのようなイメージを持つ人間が、営業職に就きたいと思うことは稀であろう。

 私自身、営業に対して「モノ売り」「押売り」と差別していたことには、理由がある。それは、その販売に至る思考のプロセスだ。目の前のお客様の「問題」や「願望」を知らずに、自分が売りたい商品やサービスの話ばかりをしていたら、当たり前だが、喜ばれることは一切ない。

 目の前のお客様が不必要としているものを「無理矢理、売ろうとしてくる」というのが営業。そんな感情を相手は抱いてしまう。当然であるが、これはデジタルが進化しようが変わることはない。相手が、感情を持った人間である以上、対面であろうが、オンラインであろうが、関係のないことだ。こうした感情を相手から抱かれた瞬間、「この人の話はもう聞きたくない」「この人から、購入したいと思わない」となり、「押し売り」になってしまうだろう。

 どんなにデジタルシフトに順応し、スペックの高いツールを使って話を進めていたとしても、相手は人間だ。むしろ、嫌われるスピードが速くなり、嫌われる領域が広くなるという危険性すら考えられる。

 そこでここからは、デジタルシフトへ進化していく中で、一体どんなコミュニケーションスタイルがわれわれには求められるのか?オンラインでこそ必要な“信頼関係”を築く会話術の一部をお伝えしようと思う。

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