スクエニがゲーム開発資料をサルベージする狙い--SFC「ワンダープロジェクトJ」開発秘話 - (page 3)

「ゲーム作りは効率だけではないのでは」

 開発が承認され、スケジュールを作成するなかで、当時は紙で手書きしていたという。開発会社からヒアリングした内容をもとに書くのだが、ゲームが完成するまでにどんな工程が必要なのかを、手書きをすることで学べたと振り返る。今はもらったデータを活用することで、内容を深く知らなくてもスケジュールは作成でき、効率が良くなった分、学べる機会は減ったところもあると指摘。ただ、スケジュールの変更により書き直す労力も大きく効率も悪かったこと、そのあとツールを導入して管理が楽になったことも付け加えた。

スケジュール表
スケジュール表

 資料では、一流のアニメクリエーターを起用したことにも触れつつ、作品の舞台となったコルロ島などのスケッチやキャラクターデザイン案なども披露。またキャラクターの動きも、従来のゲームであればキャラクターのドット絵を組み合わせて動きを表現するところ、前述のようにアニメーションを取り込み、走るというアクションだけでも6パターンほど作ることで、なめらかな動きを実現したという。

「ジェッペットの息子」資料より
「ジェッペットの息子」資料より

 開発では、進捗や問題点など確認する定例会議を毎週実施。その時間帯について、昼間は開発に専念するということで、19時30分から21時30分という夜の時間帯に設定していたという。現在ではライフワークバランスの観点からこの時間でのミーティングは難しいとしつつ、当時はその後も、企画の内容について喧々諤々と話し合うこともあったと振り返る。

打ち合わせ議事録
打ち合わせ議事録

 当時のデバッグシートとともに、デバックに関するエピソートも語られた。今でこそバグが発生した状況の確認については、映像をデジタルで録画しネットで送付ということもできるが、当時はビデオテープに録画し、それを宅急便やバイク便、あるいは自ら届けるという形で行われていた。さらにビデオテープは何回も録画するのだが、そのたびに画質が劣化してしまうため、どんなバグなのか確認できないといったトラブルもあったと振り返る。その観点でいえば、今は便利になったと付け加えた。

デバッグシート
デバッグシート

 FAXで送られてくるデバックシートには、デバッカーの方がバグの発生状況をよりわかりやすく伝えるため、丁寧に絵を描いてくれることがあったという。デバッガーはおもにアルバイトだったが、開発チームの一員であるという気持ち、そしてゲームを気に入ってくれていたこともあり、絵にも力が入っていたという。

絵が入ったデバッグシート
絵が入ったデバッグシート

 藤本氏は、絵を書いている時間があるなら、仕事をしたり新たなバグを発見する時間に使ってほしいという考え方もあるかもしれないが、開発陣が時間がないなかでデバックやバグの修正対応をしている大変な状況で、ある種追い詰められているところでもあるが、デバッガーによるゲームに対しての愛や熱心さを感じることで連帯感も生まれ、いい効果もあったという。実際、開発チームからデバッガーに向けて、手書きのメッセージをFAXで送られたこともあり、強い信頼関係を感じたという。そして「ゲーム作り、そしてクリエイティブに関しては効率だけではないのでは」と語った。

開発チームからの手書きFAX
開発チームからの手書きFAX

 さまざまな経緯を経て、ワンダープロジェクトJは完成し、無事に発売。今でも愛される作品になったと振り返る。藤本氏は「今も昔も面白いものを作りたいという、ゲームクリエーターの思いは変わらない」としつつも、昔よりもいろんなものが便利になり効率もよくなって、ゲーム制作がビジネスとして計算しやすくなったという。もちろんそれ自体が悪いことではないと前置きしつつ、不便だったからこそ工夫をしたこと、効率が悪いからこそ思いや行動でカバーしたこと、新しいものを作れば売れるという根拠のない自信があったこと、プレーヤーに楽しんでもらいたい一心で突っ走ったことは、今思うと当時良かったことだったとした。

 そして、今便利になり、効率化されたことで削減された余計な労力や生まれた時間を、より面白いゲームにすることや新しいものを考えることに使ってほしいとメッセージを送った。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]