国連プロジェクトサービス機関「UNOPS(United Nations Office for Project Services:ユノップス)」は兵庫県と神戸市と連携し、グローバルなSDGs課題を解決するビジネスに挑むスタートアップや中小企業、いわゆるソーシャルアントレプレナーを支援する共創プログラム「SDGs CHALLENGE」を7月にスタートした。
UNOPSは、途上国におけるインフラ事業やヘルスケア事業、復興・人道支援、人材育成等を実施する国連機関。SDGs(持続可能な開発目標)達成に向けた民間との連携強化とイノベーション創出を目的に世界各地で事業を展開している。
2020年11月にはアジア初(世界で3拠点目)となる、SDGsビジネスのためのインキュベーション施設「UNOPS S3i Innovation Centre Japan」(以下、S3i)を神戸市内に開設。ソニーとの連携によるスタートアップ育成事業「Global Innovation Challenge」の実施や、神戸市とルワンダの経済交流がきっかけで生まれたスタートアップらの支援などを行っている。
今回新たにスタートしたSDGs CHALLENGEは、SDGsをテーマにしたグローバルなビジネスに挑むスタートアップや中小企業を対象にした育成プログラム「BizGlobeExpedition」と、連続セミナー「SDGs CHALLENGE Open Talk」で構成される。
BizGlobeExpeditionは、サポートプログラム、メンタリング、ネットワークの3つを通じてSDGSビジネスの事業成長や海外進出をサポートする。メンターによる個別面談、研修・ワークショップ、事業内容を発表するデモデイなどを通じ、ロールモデルの創出を目指す。
実施期間は10月1日から翌年2月28日までの5カ月間とし、S3iが入居するコワーキング施設「ひょうご起業プラザ」の無償利用や、海外実証や調査事業を実施する場合の費用を1社あたり約200万円、5社程度を負担する。募集テーマは重点課題と自由提案の2つがあり、採択社数は20社を予定。公式サイトより8月末まで受け付けている。
参加費は無料だが、週1回 S3iで開催されるレビュー・ミーティングに原則としてリアル参加することが条件付けられている。神戸市が運営している、世界からスタートアップがオンラインでフレキシブルに参加できる「500 KOBE」プログラムと比べて参加ハードルは高くなるが、将来を見据えて社会を変える意思を持ち続けなければならないソーシャルアントレプレナーは人と人のつながりが重要であり、SDGsビジネスに向けてともに高め合う仲間が集う場として認知させる狙いもある。
トークイベント「SDGs CHALLENGE Open Talk」は、SDGsビジネスやソーシャルアントレプレナーに関する情報を発信を通じ、知見共有や産学官連携を促進する。8月4日に開催された第1回目は「たくさんの『失敗』が未来を創る - SDGsに向けて失敗を語ろう」テーマに、マイクロソフト日本法人の初代代表取締役社長として知られ、2001年からSDGs活動「Think the Earth」に参加している古川亨氏と、神戸を拠点とする2名のソーシャルアントレプレナーが登壇した。
古川氏は自身の失敗談として、学生時代の留年やドロップアウトを経験しながらも、1986年にマイクロソフト日本法人の初代社長に就任したことを紹介。ビル・ゲイツ氏に裏切り者扱いされて本社があるシアトルに年間訪問できなかったり、業績は良かったのにWordの日本語化が遅れて激怒されたことなど、さまざまな失敗を重ねてきたことをオープンに語った。
「今まで失敗したことがないという人は、失敗に気づいていないか、人のせいにしているだけ。日本では失敗についてあまり語られないが、ピッチコンテストでは最大の失敗経験を聞かれるのはよくある。どんな失敗を体験したかが大事であり、失敗を雄弁に語れる人ほど成功する」(古川氏)
オンライン国際交流プログラムを提供する、With The World代表取締役社長の五十嵐駿太氏は、社会人時代に良いと思って取り入れた日本式のビジネスルールに、創業から一緒だった海外メンバーが馴染めないことに気づかず辞めてしまったことや、事業で同じ問題点を複数から指摘されてようやく気づいたことを紹介し、失敗で改善点が早く見えたとも話す。社会課題の解決には時間がかかり、マネタイズが難しいため精神的に苦しい面もあるが、「サービスを届けたい人がいるのなら失敗を恐れず進むべきだとアドバイスされ、今はそれが励みになっている」と語った。
ワーキングプアのいない社会に向けて無料でキャリア相談できるサービスを開発するCompass代表取締役CEOの大津愛氏からは、世の中に必要でいいねと評価されても、VCからはビジネス価値で評価されることから、上手くアピールできず資金調達に苦労したエピソードが紹介された。「自分では失敗と思っていても見方を変えればそうではないこともある」と話し、いろいろなアドバイスを聞いて自分にできるやり方を考えていきたいと語った。
五十嵐氏と大津氏のコメントからは、SDGsをビジネスにすることの難しさを感じたが、古川氏は「社会を変える課題に取り組むのであれば、NGOやNPOとして取り組めばいいと思われるかもしれないが、きちんと収益をあげて地球に還元するという考え方のほうが継続につながる」と言う。ビジネスにする方がハードルは高くなり失敗もするが、そうした経験を重ねることで目標が明確になり、解決方法も見えてくるのだろう。
海外では、スタートアップだけでなく、もともと関心の高いテクノロジー分野を中心に大手企業からもSDGsビジネスの参入が増えており、イベントの中でも複数事例が紹介された。SDGsがバズワードに終わることなく、新たなビジネステーマとして定着するのか、今後のUNOPSの動きに注目していきたい。
次回のトークイベントは「グリーン政策時代の読み解き方〜ゲームチェンジを味方にする経営〜」というテーマで8月26日に開催される。
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