角川ドワンゴ学園 N高等学校(N高)とS高等学校(S高)は、JAXAとコルクの協力のもと実施している課題解決型学習「プロジェクトN」の最新プロジェクト「Project LoM! ~Live on the Moon!~」のオンライン発表会を6月28日に開催した。
プロジェクトNは、社会に出て活躍するための知識やスキルを身に付けるための課題解決型学習プログラムで、生徒たちは具体的な解決策を企画して制作物をアウトプットするところまでを経験する。今回のProject LoM!は、宇宙を題材にしながら地上の課題の解決策を考えるプロジェクト。人気漫画『宇宙兄弟』とコラボし、同作のエピソードをヒントに生徒たちは学習した。
3カ月間の成果発表の場となるオンライン発表会では、N高とS高の通学コースの全50チームから事前に選出された8チームが、月に移住したときの生活における健康を維持する技術アイデアと、そのアイデアを地球上の課題に転用するという2つの企画を考え、審査員たちにプレゼンテーションした。審査員は、宇宙アドバイザー協会理事の三枝博氏、JAXA 宇宙教育センターの鈴木圭子氏、『宇宙兄弟』の編集者である小室元気氏らが務めた。
それでは最終プレゼンまで残った8チームのアイデアを紹介しよう。まず、トップバッターの「代々木A」チームが発表したのは、「どこでも骨折治療機『G.I.P.S』」。月面に移住すると低重力によって骨粗しょう症のリスクがあがることに着目し、宇宙に専門医がいなくてもその場ですぐに治療できる機械を考案した。
具体的には、怪我人に適したサイズのギプスを数秒で印刷できるボリューメトリック積層造形(VAM)技術を搭載した3Dプリンターを作り、これをAEDのように月面基地内のいたるところに設置したいと考えているという。地上での転用については、減量やサプリメント使用によって骨粗しょう症になりやすかったり、疲労骨折しやすかったりする、マラソンランナーの応急処置に活用できるのではと展望を語った。
続いて発表した2チーム目の「御茶ノ水B」チームが考えたのは、「SR技術とバーチャル帰省」。月面で暮らす中で地球上に残してきた家族に会えない寂しさを埋めるための技術だ。仮想空間でありながら現実に限りなく近い「代替現実(SR)技術」を実現することで、地球と宇宙の距離を埋めるテレビ電話サービスになるという。
仕組みはこうだ。まず地球と月面に全く同じスタジオを用意し、それぞれの話者がスタジオに入る。続いて、VRヘッドセットを装着して、相手がいるスタジオのライブ映像を視聴しながら会話するというものだ。立体音響や家具からの反響なども利用することで、相手がバーチャル空間にいても、まるで同じ部屋で会話しているかのような感覚でバーチャル帰省ができるという。地上への転用については、ストレス障害を抱えた患者を対象にした心理療法に転用できるのではないかと説明した。
3チーム目となる「千葉A」チームが発表したのは、月面での「地球食レストラン」。3Dプリンターで食べ物を出力し、XR空間内で楽しむものだ。食事中の音や匂いをXRで再現することで、食事の楽しさを演出する。月面で栽培可能な米や大豆を使いつつ、足りない栄養素は粉状の素材で代用するため、必要な分しか作らず食品ロスも防げるとしている。
地上への転用のアイデアについては病院での活用を想定しているという。たとえば患者によっては1日に何錠も薬を飲むことが手間やストレスになる。そこで、効果を損なわない形で粉末状にした薬を材料に混ぜて、3Dプリンターでお菓子のような1口サイズの形状に変えるという。これにより薬への抵抗感を軽減できるのではないかと語った。
4チーム目の「京都C」チームは、ホログラムを活用したアニマルセラピーのアイデアを発表。月面生活での人間関係のストレスなどをホログラムの動物に癒してもらうものだ。網膜に直接映像を投影する技術や、匂いを再現するオプトジェネティクス技術、触覚を再現する手袋などを活用する。
また、AIを組み合わせることで本物の動物のような双方向性のあるコミュニケーションを可能にする。これにより、ペットを月に連れて行くことによるペットの健康への影響や、匂い、維持コストなどの問題も解決できると説明。地上でもペットを飼うのが大変な高齢者や、いろいろな条件で飼いたいけれど飼えない人のニーズを満たせると考えているという。
5チーム目となる「神戸A」チームは、月面での暮らしが当たり前になった世界を想像したうえでのアイデアを披露した。それは「月面での結婚式」だ。月面では非常に強い放射線を浴びるため、人々は地下で暮らしているものと仮定。それでも結婚式だけは月面で星を見上げながらできないかと考えたという。
そこで考案したのが、放射線をカットする月面ドーム内で実施する結婚式だ。そこでは放射線を防ぐ素材で作ったウェディングドレスを着るという。ユニークなのは、そのドレスが放射線によって”色が変わる”こと。放射線情報をうけとって素材に熱を送る仕組みによって実現するという。チームメンバーは、放射線をいくら削っても残る漠然とした不安をなくすために、あえて放射線をお洒落に活用したと語る。また、ドレスに使った温度センサーで体温を感知することで、地上では熱中症対策に使えるのではないかと説明した。
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