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ライブ配信だけで生活する「ライバー」まで登場--若者たちの「投げ銭」事情 - (page 2)

「みんながしている」「一番になりたい」と思わせる仕組み

 ここで、代表的な投げ銭サービスを例に挙げて仕組みをご紹介しよう。YouTubeの人気のライブ配信において、「3000円」などの金額が表示されていることがある。その配信で視聴者が表示額の金額を支払ったという証であり、これを「ティッカー」と呼ぶ。アニメーション画像も送れるが、こちらは「スーパーステッカー」と呼ばれる。このような有料チャットを送る機能を「スーパーチャット」と呼ぶのだ。

 ライブ配信中にチャット部分の円マークをタップし、送るものを選択、購入して送信すれば送れる仕組みだ。送れる金額は最低100円から5万円まであり、1日の利用限度額はアカウント1つにつき5万円までとなっている。支払い方法はクレジットカード、PayPal、バンドルカードなど。バンドルカードを使えば、未成年でもスパチャを送ることは可能だ。

 ティッカーは、多く支払うほど長い文字数で長い時間表示されるようになっている。たとえば、200円未満では0文字、青色で表示固定はない。500円から1000円は150文字で緑色、2分間表示されるなどだ。最大は5万円の350文字、赤色で5時間表示となっている。

 配信者側から見れば、ティッカーの色と金額表示でその視聴者がどれくらい支援してくれているかがひと目でわかるようになっている。つまり多く支払うことで、配信者に対して存在感をアピールしたり、特別扱いしてもらえる可能性が高くなるというわけだ。実際、支援者のリクエストを聞くなどの例は少なくない。

 お笑い芸人である霜降り明星の粗品さんは1日で約180万円を集め、6月7日の日付別スパチャランキングで世界1位になったという。粗品さんは、1万円以上のスパチャくれた人を『太客』、それ以下のスパチャを『細客』、スパチャ投げない人を『カス』と呼び続けていたところ、これだけの収益につながったそうだ。視聴者が粗品さんのあけすけな呼び方を面白がった結果の収益と言えるだろう。

 ティッカーはとても目立つため、「多くの人が支払っている」という印象を受ける。カラフルなティッカーが次々と表示されることで、「人気の配信者」ということがわかり、次第にみんなが支払っているかのような錯覚を覚えてくる。

 これは他の投げ銭サービスでもほぼ同様だ。投げ銭はカラフルで目立つ動きがあるものが多い。つまり、「みんなが支援している、自分もしなければ」という気持ちになりやすい状況を作り上げているのだ。また、支援額によって支援者が目立つところに表示されたり、ランキングがつけられるなど、1位になりたいという気持ちを刺激する仕組みも整っている。

 「お金はないけれど、投げ銭をしたことはある。投げ銭をしてないのに名前を呼んでくれたり話を振ってくれたりいい扱いをしてくれたので、お礼の意味を込めて送った。他のみんなも送っているし、感謝も伝えたいと思ったから」と先程の大学生は教えてくれた。

 コロナ禍で新しい出会いやリアルコミュニケーションが減っている。そんな中、ライブ配信によるコミュニケーションに惹かれ、ハマり込む若者もいる。あくまで楽しみの範囲で使うのであればいいが、中には学費を使い込んだり、借金をしたり、親のカードを使い込んでいる若者もいる状態だ。保護者は周囲の若者が投げ銭にハマり生活が苦しくなることなどがないよう、見守ってあげてほしい。

高橋暁子

ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNS、10代のネット利用、情報モラルリテラシーが専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育に詳しい。執筆・講演・メディア出演・監修などを手掛ける。教育出版中学国語教科書にコラム 掲載中。元小学校教員。

公式サイト:https://www.akiakatsuki.com/

Twitter:@akiakatsuki

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