NTTグループの総務・人事部長らが語った「越境活動の意義と期待」

 NTTグループの有志団体「O-Den」は4月16日、「【本業 × 複業】新たな働き方とキャリア形成 ~NTTグループ経営層と越境実践者が語る パラレルワーク最前線~」と題したオンラインイベントを開催した。同日は、1000名以上のNTTグループの社員が参加する大規模な横断イベントとなり、冒頭にはNTT東日本代表取締役社長の矢野信二氏が挨拶したほか、NTTグループ各社の人事・総務責任者などが、組織の垣根を超えて副業・複業について語り合った。

 ここでは、「越境の意義と期待すること」と題する経営層パネルディスカッションの模様をお伝えする。O-Denは、NTTグループの若手から中堅社員やマネージャ層も巻き込み活動している団体だ。そこで、今回のパネルディスカッションは、普段、自社以外の社員があまり接することのないNTTグループの3社から経営層を招いて、越境に関する思いを聞き、自分の行動につなげるという主旨で実施された。

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 パネルディスカッションの登壇者はNTTデータ 執行役員 総務部長の冨岡洋子氏、NTT Com ヒューマンリソース部長の山本恭子氏、NTT西日本 取締役 人事部長の炭谷正樹氏。モデレーターはNTT西日本 ビジネスデザイン部の及部一堯氏が務めた。

 モデレーターの及部氏は、NTT西日本でスマートフード領域のビジネス創出を担当している。複業ではタスクールNext、パラレルパートナーズの2社で代表取締役を勤めるかたわら、総合エンターテイナーやレクリエーション介護士としても活動している。冒頭の挨拶で及部氏は、「一番のポイントはできることではなく、やりたいことをやる。この積み重ねが人生を変えていくと伝えたい」と語った。

キャリア開発に早期に取り組んだNTTデータ

 続いて、登壇者たちが自己紹介をした。NTTデータ 執行役員 総務部長の冨岡洋子氏は、1989年にNTTデータに入社。専門領域は広報と人材育成だ。最初は組織の中でキャリアカウンセラーやPRプランナーの資格を取得し、組織の枠を超えてPR協会ボランティア、日本PR協会理事、PMI日本支部理事と活動と経験の場を広げていった。

 「NTTデータは人を資源としている会社。そのためキャリア開発の取り組みは早かった」と冨岡氏は振り返る。2003年に整備された「プロフェッショナルCDP(Professional Career Development Program)」は、社員一人ひとりが専門性を向上するための仕組みだ。会社の中でどういったキャリアがあるのかを明確にし、社内で認定していく。認定の機会は年に2回あり、面談などを通じて行われる。

 「社員としては自分がどういうキャリアを歩むことができるのかが見えるのと同時に、社内でどういう仕事の機会が得られるのかが分かる。越境は社外だけでなく、社内にもある」(冨岡氏)

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「プロフェッショナルCDP(Professional Career Development Program)」

 社内公募制度も充実しており、NTTグループ、NTTデータグループ内でのチャレンジができる。さらに経験者採用にも力を入れており「今、数百人単位で経験者採用を進めている。卒業した人たちとも、非常に良いアルムナイネットワークができている」と冨岡氏は話す。

 社員が自分を磨く制度もある。2019年から開始した全組織共通のKPI「セルフイノベーションタイム」では、業務時間の一部を自分磨きに使える。2019年度は全社一人当たり平均59時間の実績となった。兼業制度については、30年前からあるという。最近では、ベンチャーへの参画、中小企業診断士、執筆活動などが行われているとのこと。

 また、社員のプロボノ活動も応援している。NTTデータは一般社団法人Code for Japan、NPO法人ETIC.、NPO法人 日本NPOセンターの3団体が運営する「STO(ソーシャルテクノロジーオフィサー)創出プロジェクト」を、プログラミングやプロジェクトマネジメント、デザインシンキングの面で支援している。「普段の仕事が活かせるだけでなく、その事業を経験する良い機会になるので、興味がある人はぜひ手を挙げていただきたい」(冨岡氏)

組織を超えた多様な越境プロジェクトを走らせるNTT Com

 NTTコミュニケーションズ ヒューマンリソース部長の山本恭子氏は、1992年入社。電話のオペレーターからキャリアをスタートした。東日本大震災が発生した際にはNTTコミュニケーションズの東北支店長だったこともあり、震災の復興に向けて震災復興ボランティアや仙台フィル応援などの越境活動を行った。その後、ロンドンのビジネススクールで1年3カ月学び、修士を取得。2017年より現職を務めている。

 NTTコミュニケーションズ(NTT Com)は、20周年を機に「企業理念検討プロジェクト」を立ち上げた。社内公募で集まった約100名ものプロジェクトメンバーで、会社の未来づくりの指針となる企業理念を検討するものだ。社内に閉じたプロジェクトではあるが、組織を超えた越境活動と言える。このほか、新規事業創出コンテスト「DigiCom(デジコン)」も2016年度から毎年開催している。

「企業理念検討プロジェクト」
「企業理念検討プロジェクト」

 越境活動は他にもある。2019年には社内セキュリティコンテスト「ComCTF」を開催。社外の強豪チームを招き、5日間に渡るオンライン予選、上位12チームによる決勝戦を繰り広げた。2020年はオンラインで開催している。また、グローバルのCSR活動も行っている。フィリピンで学校に通えない生徒のために自治体とNPO、そしてNTTコミュニケーションズが協力して教育を届けるプロジェクトで、社内で有志が集まり、実際に現地に入って活動をしている。

 このほか、社内起業から出向起業となった事例もある。「ビジネスコンテストから起業したものの、社内だと窮屈で、スピードや人材が追いつかない。ということで、社外に出て出向起業という形で、経産省のサポートをいただきながら、代表取締役CEOをやっている社員もいる」(山本氏)。また、社内のトップエンジニアをHR部に配属するといった越境人事も行っている。

 社内では組織横断の有志で始めた「輪読会」で、プロダクトマネジメントやアジャイル開発、ソフトウェア開発などのテーマを決めて学んでいる。「社員の皆さんの越境をしたい気持ちや、社外に出なくても社内で組織を超え、既存の人脈を超えてつながる活動を、ヒューマンリソース部としてサポートしていきたい」と山本氏は思いを語った。

大企業への出向や社内ダブルワークを進めるNTT西日本

 NTT西日本 取締役 人事部長の炭谷正樹氏は、1982年に日本電信電話公社(NTT)に入社。2001年にNTTコミュニケーションズに転籍し、ヒューマンリソース部に入った。その後、2010年に西日本電信電話会社(NTT西日本)の中国事業本部総務部長など、さまざまな役職を経て現職に至る。

 NTT西日本グループは越境への取り組みを2015年から開始した。サントリーや大阪ガス、ダイキンなどの大企業へ出向した社員はこれまで14名いる。2017年にはベンチャー出向をスタート、ベンチャー経営者の間近で経営全般を学べる機会を設けている。

 本業を継続しつつ、新たなフィールドへチャレンジできる社内ダブルワークは、この1年余りで約200名が参加。社外副業に関しても、講師やコンサルティング、太陽光発電の設置などさまざまな業種に広がっているという。

2021年度の越境へのチャレンジ
2021年度の越境へのチャレンジ

 「2021年度は自らのキャリアや経験を開拓してほしい。その社員がやりたいということを叶える機会を作りたい」と炭谷氏は言う。そこで、自ら挑戦したいポストに直接アプローチする「手挙げ制ダブルワーク」と、地元やゆかりある地域の活性化に貢献する「ふるさとダブルワーク」の2つを計画しているという。

NTTグループ社員たちからの「越境活動への質問」

 ここからは、NTTグループ社員たちから登壇者たちに寄せられた質問とその回答を紹介していく。

及部氏 : 参加者から、会社として複業はOKなのかという質問がきています。

NTTデータ冨岡氏 : OKですね。仕組みも用意されています。ご本人がいかに自分の時間をちゃんとマネジメントできるかというところ、あと複業で何を獲得したいかを考えることがポイントだと思います。

NTT Com山本氏 : OKです。ただし、きちんとセルフマネジメントできることと、会社の競合関係にならないことが大前提です。外から会社のことをもう一度見つめ直す機会になりますし、今の仕事もより充実するのであればなお良いと思います。

NTT西日本 炭谷氏 : OKです。私もマネジメントが大事だと思います。客観的にNTT各社を見てもらう視点は非常に重要です。新規ビジネスを作ろうと思ったら、外の経験というのは本当に大事だと思っています。

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及部氏 : 経営層の皆さんにはOKと言っていただきましたが、実際には複業を止める課長や部長、部門長がいる。私たちはそうした問題にどう取り組んだらいいのかという悩みの声も挙がっています。

NTTデータ冨岡氏 : 自分のやりたいことをする時に、ステークホルダーをどう巻き込んでいくのかということは、実はとても大切なスキルです。性善説ですが、人が成長することを妨げたいという人はいないはずです。合意が形成されない場合には、タイミングが違うなど、何か理由がある。NTTグループは良いカルチャーを持っているので、悪意で阻害することはないと思います。周りを味方にすることです。そのために、自分の努力や希望を普段から周囲に伝え、フィードバックしていくことが大切です。

及部氏 : これも質問の上位にあるのですが、複業で登壇するときなどに社名を出していいのか、広報に確認すべきかという悩みも来ています。

NTT西日本 炭谷氏 : 会社に申請をして許可を取っているという前提であればまったく問題はないと思います。

及部氏 : 私は登壇するときには、毎回広報と自部署の部長に伝えています。先ほどのセルフマネジメントや周囲への認知という観点で考えたとき、内容など会社として問題が発生する場合もありますので、そうならない環境を事前に作ることが大切だと考えているからです。

NTT Com山本氏 : 会社名を語ってもらった方がいいこともあります。会社のプレゼンス向上にもなる場合がありますので。一方で、レピュテーションリスクにつながってしまうこともあります。こういう世の中なので、どこで炎上するかわかりません。事前に確認してもらった方がお互いに安心です。

及部氏 : 最後に参加されている皆さんにメッセージをお願いします。

NTTデータ冨岡氏 : 今回登壇された皆さんのピッチを聞いて、NTTグループには本当に多くの素晴らしい人材がいることをしみじみ感じました。こちらが沢山のパワーをもらった気持ちです。小さいことでも一歩踏み出して、それをやり遂げる経験は、人が成長する上でとても大事なことだと思います。その経験を積み重ねていくと、自分ができることが増えていきますし、周りも巻き込んでいけるようになります。今日の参加者が同じ思いを持てば、世界を変えられます。一緒に頑張りましょう。

NTT Com山本氏 : 皆さんのチャレンジを理解して驚くと同時に、私はそれをちゃんと応援していかなければと自覚しました。これから雇用のあり方とかキャリアに対する考え方はすごく変わってくるし、多様化していくと思います。越境することによって違うものに触れると、自分の良いところ、悪いところに気づく機会も増えると思います。だからこそ、自分のバリューをもう一度再認識し、自分のバリューは自分で上げていくという意識を持つことが大事です。皆さんのバリューが上がっていくと、会社としてもパワーにもなるので、私はそれを全力で応援したいと思っています。

NTT西日本 炭谷氏 : これからニューノーマルの時代になっていきます。多様な方々が活躍をし、多様な働き方をしていくために、社員の方々自らが自分のキャリアを描いて、自己実現につなげていく。そのために、いろいろな仕事にチャレンジをしていくことが大事だと思っています。越境へのチャレンジは視野の拡大やスキルの向上、人脈形成につながります。会社としても、皆さんに機会を与えられる仕組みを考えていきますので、一歩踏み出していただきたいと思います。皆さんと一緒にワクワクする未来を作っていければと思います。

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