福岡市は、11カ国の地域で15拠点におよぶスタートアップ支援ネットワークを活用した国際交流オンラインイベント「ASCENSION 2020」を11月27日に開催した。
「Beyond Coronavirus(=コロナを乗り越える)」をテーマに、国内外の起業家らによる多数のセッションが開催された中から、ここでは福岡市長・高島宗一郎氏と台湾・デジタル担当大臣のオードリー・タン(唐鳳)氏による対談の内容を紹介する。
福岡市長の高島氏は2010年に福岡市長としては史上最年少の36歳で当選。2012年にスタートアップの創業支援に関する指針を示す「スタートアップ都市ふくおか宣言」を発表して注目を集めた。具体的な活動として、世界15拠点とスタートアップ支援のMOU(Memorandum of Understanding:行政機関などの組織間の合意事項を記した文書)を結び、台北市とは2017年2月にスタートアップの海外展開支援に関する覚書を締結している。
その台湾で、タン氏は2016年に台湾史上最年少の35歳という若さで行政院に入閣し、デジタル大臣としてコロナ感染を抑える活動を進め、時の人となっている。2人の対談はコロナウイルスの感染状況に関する話題からスタートした。
高島氏:台湾は日本と比べてコロナの感染者数を抑え込めているのはなぜでしょうか?
タン氏:1つはマスクです。感染を防ぐという点ではワクチン同様の効果があると考えています。台湾では感染が広がった時にマスクを買う長い列に並ばなくてもいいように、LINEでマスクが購入できるシステムを作りました。購入にはIC付健康保険証カードを使います。カードは生後まもない子どもから移民労働者まで国民の99%が所持し、公共サービスのみに使われるので信頼されています。
高島氏:日本のマイナンバーカードも同じく公共でしか利用しませんが、政府に個人情報を知られたくないのか持ってる人は少ない。台湾ではなぜ抵抗がないのでしょうか。
タン氏:理由は2003年に遡ります。当時、SARS 1.0の感染が拡大した時に中央政府はクラスターが発生した病院をいきなりロックダウンしてパニックを起こしてしまいました。その反省を生かして新しい法律を作り、疫病対応センターも設置して毎年訓練もしてきました。ですので武漢でSARSが発症した時も13歳以上は訓練の経験があるのですぐに対応できました。
高島氏:システムを使うとなった時にスマホやアプリが苦手な高齢者は問題にならなかったのでしょうか?
タン氏:台湾では高齢者が子どもよりもLINEをよく使います。ブロードバンドもどこでも使えてアップロード速度も早い。料金は4Gで月1800円ぐらいなので、高齢者も家族とつながるためにネットを活用する。90歳になる私の祖母はLINEもVRも使っていますが、もし使えない人がいても身近な人が手助けしてくれるでしょう。政府もネットを活用していて毎月ライブストリームのホットラインを設けています。
高島氏:台湾はスマホが生活に浸透していて、市民の情報リテラシーも高いように感じます。ネットと新聞やテレビではどちらが情報として信頼が高いというのはありますか。
タン氏:人は誰でも信頼する人の言葉に耳を傾けるものです。スマホが対面の代わりになるのでなく、日々のやりとりが強化されればネットでもメディアでも間違った情報が流しにくくなり、情報の信頼性が担保されると考えています。
高島氏:タン氏は民間人からいきなり入閣し、大臣としていろいろな市民サービスを提案していますが、それらはストレスなく行政や他の官僚たちに受け入れられて実現できているのでしょうか?
タン氏:私は2016年にデジタル大臣に就任した時、自分をパブリックサービスの公僕であると位置付けました。そして新しいイノベーティブなことを試せる場を作り、いろいろな省庁の関係者をはじめ、公共政策や教育の専門家がオフィスに来て手伝ってくれています。ですがそうしたことをやりたくない人たちはそもそも私のオフィスには来ません。
高島氏:日本はダイバーシティと言いつつ意思決定層に若い人が足りないと感じています。若い人が若い発想でサービスをアップデートできる政府というのは素晴らしいと思います。
タン氏:台湾にはリバースメンターという若い人が入閣して年配の官僚に逆メンタリングするシステムがあり、私も2014年にメンターをしていました。システムが始まったのも2014年で、公民活動をする学生たちが20の市民団体とともに政府へ意見を届けようと3週間議会を占拠したサンフラワー運動がきっかけです。多くの人がオンラインでも参加し、最終的に声は受け入れられた。そこからリバースメンターやリアルタイムで政治家とインタラクションできる仕組みができたのです。
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