ウェブサイトの制作にあたっては、「犯罪者に関連したコンテンツなので、デザイン上怖く見えすぎないように気を付けながら、デジタル感があって見た人に気にしてもらえるようにする。そのあたりの怖さと先進性のバランスにこだわった」と森氏。
プロジェクト名の「TEHAI」についても、「たった5文字で何のことかがすぐにわかり、誰かに話したくなるようなものにした。“AI”の文字が入ったプロジェクト名も、デザイン、コピーライティング含め、細部まで突き詰めた」と話す。
秦氏は「広告を好かれ者にしたいという観点から、情報をただ提供するのではなく、動きを加えて、新鮮な視点で見てもらえるように」という工夫を盛り込んだとし、中村氏は「アップデート感を意識した」と付け加える。
「指名手配写真が全国の交番に貼られているが、そういうものにテクノロジーが入った感じがあるとドキッとする。瞬時に何のことだかわかるようにする、というのは広告ではいつもやっていることだが、TEHAIもそれを意識してアートディレクションしている」(中村氏)。
取材当日はリリースから1カ月余りとまだ間もないタイミングだったこともあり、TEHAIがどれだけ指名手配被疑者の捜査に有効な情報を集められているかは明らかではない。それでも、高橋氏によれば「テレビで紹介されたときは私の身近な人たちから多くの反響があった。また、他の県警からTEHAIについて多くの問い合わせを受け、関心の高さがうかがわれた」とのこと。工夫を凝らして逮捕・検挙率を上げていこうという前向きな意志が一段と感じられるようになってきているという。
たとえ直接逮捕に結び付くような情報が多く得られなかったとしても、TEHAIには他の役割もあると中村氏は考えている。「(他の広告と同じように)想起させることが大事。もしかして、と思い返したり、ちょっと気をつけてみよう、と思ってもらえるようにする。実際の顔と似ているかどうかは誰も保証できない。正確性を求めるというより、このアクション自体が世の中の話題になって、メディアなどで再想起させる・再認識させるツールにするのがプロジェクトの目的の1つでもある」と語る。
今後、警察庁としてはTEHAIによる成果を見極めていく考えだと高橋氏。「1件でも多く国民の皆様から指名手配被疑者の情報がいただけるように、いろいろなツールを活用したい」と、テクノロジーを活用した捜査の効率化に期待をかける。
一方、3社は指名手配被疑者とは別に、行方不明者の捜索や、特殊詐欺被害の防止などでも同じようにAIを活用していけるのではないかと見ている。
また現在、警察への通報はメールやSNSも利用できるものの主に電話で行われているが、「デジタル化して、もっと手間なく通報できる環境も作れるはず。検挙率、通報率を上げるような協力の仕方もあるのでは」と秦氏。中村氏も「単純に画像をたくさん生成すれば検挙率が上がるというものでもない。(通報しやすくなるメッセージ機能のような)ベース部分の仕組みをつくることも考えた方がいいのかもしれない」と秦氏の考えに同意する。
「テクノロジーで犯罪を防いだり、救えなかったはずの人の命を救ったり、寿命を伸ばしたりできれば……というのがプロジェクトなどを通じてチームがすごく思っていること」としつつも「防犯カメラを増やして1億総監視社会みたいにするのは、日本の文化・慣習にはそぐわない」と中村氏。
最後に同氏は「人々が日常で使うツールでお互いに支え合って犯罪率を減らしていくような仕組みや、犯罪に巻き込まれないように裏側で勝手に学習してくれる仕組みなど、新しいテクノロジーが裏に走っているけれど、ユーザーがそれを意識しなくても済むようなものがいい。窮屈な、一方的な監視にならないようにして、テクノロジーの力で世の中を良くできたら」と思いを語った。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
OMO戦略や小売DXの実現へ
顧客満足度を高めるデータ活用5つの打ち手
企業や自治体、教育機関で再び注目を集める
身近なメタバース活用を実現する
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス