古着アップサイクルの「2.5次流通」が衣服ロス問題を変える--FASHIONTECH PROJECTレポート

 廃棄せざるを得ない余剰食品が大量に発生するフードロスの問題は、すでに多くの人にとって身近な事柄として認識されているが、近年は衣料品の廃棄に関わるファッションロスの問題も取り沙汰されている。日本国内だけでも年間15億着が売れ残り、そのまま廃棄されているとも言われ、昨今のサステナビリティ・持続可能な社会を目指す流れのなかでは解決すべき課題の筆頭格であることは間違いない。

 そんなファッションロスの課題解決につながるユニークな取り組みを行っているのが、“一点物の既製服”がコンセプトのファッションブランド「SREU(スリュー)」だ。古着をリメイクして新たな商品に仕上げている同社は、一度は不要になってしまった衣料品を作り直して付加価値を高めることで、2次流通の枠を超えた「2.5次流通」の流れを作り出し、新時代のファッションのあり方を提案している。

「FASHIONTECH PROJECT」第1回は「アップサイクルとITビジネス」をテーマに議論
「FASHIONTECH PROJECT」第1回は「アップサイクルとITビジネス」をテーマに議論

 伊藤忠インタラクティブ(IIC)は、「FASHION TECH PROJECT『シリーズ2.5次流通 Vol.01 アップサイクルとITビジネス』」と題するオンラインセミナーを7月に開催した。SREU代表の米田年範氏をホストに、毎回ゲストを迎えながら、2.5次流通とECを始めとする各種テクノロジーとの連携や、新たなビジネスの可能性を探っていく、全3回のウェビナーとなる。

 初回では、長年米田氏との交流が深く、国内BtoC向けの次世代CRMサービスを展開するRepro代表取締役の平田祐介氏を迎え、アップサイクルや一点物を取り扱うITビジネスの可能性などについて語り合った。当日のモデレーターはCNET Japan編集長の藤井涼が務めた。

SREUが考える「アップサイクル」の定義

 従来の大量生産の既製品とは異なり、この世に1つしかないファッションアイテムを作り出して一般の流通に乗せて販売しているSREU。2016年に「FURUGI-NI-LACE」というブランドでスタートした後、2019年に現在のSREUにリブランディングし、同年秋に開催されたファッションショー「東京コレクション」にも参加して注目を集めた。

古着をリメイクした「一点物」を通常の流通に乗せて販売する事業をメインに展開
古着をリメイクした「一点物」を通常の流通に乗せて販売する事業をメインに展開

 ショップで売れ残り、本来なら廃棄されるか海外市場に流れる商品、あるいは衣料品メーカーが商品サンプルとして作ったもので販売できなかった古着。それらを単にリメイクするだけでなく、新たにデザインし直して価値を高める、いわゆる「アップサイクル」を施したファッションアイテムの企画・製造もしている。原価や製造の手間よりも、感覚的に「買いたくなる価格」を重視したマーケティング視点で値段設定しているのもユニークな特徴だ。

メジャーブランドの商品サンプルを素材にした商品も製作している
メジャーブランドの商品サンプルを素材にした商品も製作している
これまでは廃棄されていたアパレルメーカーの残反と2次流通の古着などを組み合わせた製品を今後本格展開していく
これまでは廃棄されていたアパレルメーカーの残反と2次流通の古着などを組み合わせた製品を今後本格展開していく

 そのようなアップサイクルに代表されるファッションの循環を、SREUでは「2.5次流通」と呼んでおり、製造後最初に流通し販売される「1次流通」や、一度消費者の手に渡った後、古着屋やオークションを通じて販売される「2次流通」とは区別している。「シミや穴があったりして2次流通にも乗らず、それをリデザインしてもう一度価値をつけて販売するもの」が2.5次流通、アップサイクルの商品であると米田氏は定義する。

2.5次流通は、2次流通品をリメイク、アップサイクルなどによって付加価値を与え新たな商品にしたもの
2.5次流通は、2次流通品をリメイク、アップサイクルなどによって付加価値を与え新たな商品にしたもの

 一方のReproは、2014年に創業。スマートフォンアプリやECサービスをはじめとするウェブサイトを利用するユーザーの行動・属性を収集し、それに基づいて個別のユーザーに対して最適なアクションを取れるようにする、BtoC向けマーケティングソリューションを企業に提供している。

BtoC向けマーケティングソリューションを提供しているRepro
BtoC向けマーケティングソリューションを提供しているRepro

 同社のソリューションを活用することで、メール配信やプッシュ通知、アプリやウェブ上でのポップアップ表示などを通じて、ユーザーに対するリコメンドやガイダンスが可能になる。現在はアパレル系企業のほか、EC、金融、人材、エンタメ系の大手企業にも導入が進んでおり、シンガポールにも子会社を設立してアジアやグローバルに向けたサービス展開も手がけ始めている。

ユーザーの属性・行動に合わせて、プッシュ通知やアプリ・Web上でのポップアップ表示などを行う
ユーザーの属性・行動に合わせて、プッシュ通知やアプリ・Web上でのポップアップ表示などを行う

企業の「CSR活動」とファッションは有望な組み合わせに

 SREUとReproのコラボレーションは、2019年10月に行われたファッションショー「東京コレクション」でのこと。それまでにもReproのオリジナルTシャツの製作をSREUが担当するなど、たびたび付き合いがあったそうで、東京コレクションで「普段と違う面白い取り組みができれば」と考えたSREUがReproに話を持ちかけたのがコラボレーションのきっかけだったという。

 古着を素材にしてリメイクするのがSREUの普段のスタイルだが、このときは過去に製作したReproの新品のスタッフTシャツが余っていることがわかり、それを原料にアップサイクルの形で生まれ変わらせ、新作として出展することにした。実際にファッションショーに登場したモデルが身に付けているベルトやハーフパンツ、トートバッグには「Repro」のロゴが見える。ロゴは斜めや逆さまになっているため、通常なら企業のブランドガイドラインに抵触するが、平田氏が特別に「無視」して実現させたという。

過去に製作したReproのTシャツを元にファッションショーへの出展作品を作り上げた
過去に製作したReproのTシャツを元にファッションショーへの出展作品を作り上げた
ベルトとハーフパンツに斜めや逆さまになった形でReproのロゴが見える
ベルトとハーフパンツに斜めや逆さまになった形でReproのロゴが見える

 こうした取り組みを通じて、アップサイクルが企業のCSR活動にも適していることに平田氏は気付いた。世界中で企業のCSR活動に注目が集まっており、「大企業ほど社会貢献が重要で、そうしないと人材が集まらないという流れもある」と同氏。そうした事情から、今回のようにファッションブランドが企業とタイアップし、企業の使わなくなったノベルティなどをサステナブルや2.5次流通の考え方で新しいファッションアイテムに変えていくのは、企業の新たなCSRとしても、あるいは今後のファッションの1つの潮流としても、有望な選択肢になりうると見ている。

 それに対して米田氏は「企業とのタイアップは面白いことになりそうなので、狙いたいところでもある」と応じた。「サステナブルは今は流行のような感じ」で先進的な企業が取り組み始めているところだが、「今後は誰もが普通に意識しなければいけないことになってくる」と断言する。そうなったときに初めてサステナブルを意識しても、大企業が自身のリソースだけでスピーディに取り組むのは難しい。しかし、SREUのようなファッションブランドがサポートすることで、大企業でもスムーズに取り組めるようになる可能性は高いだろう。

「大量の廃棄在庫」があることを企業がどう発信していくか

 アップサイクルや2.5次流通の動きは、サステナブルが重視される今後の社会で大きな役目を果たしていくことになるに違いない。そして、これにテクノロジーの力を組み合わせることで、生産者にとっても消費者にとっても、より効率的で有益なサービスに発展していくことも考えられる。

 たとえば、製品の企画・設計者と世界各地の生産工場をマッチングして、迅速に良質な製品を納品できるようにする「AnyFactory」というサービスや、動画内に表示されるアイテムなどにタグ付けし、ユーザーが好きなときにそれをタップするだけで詳細な情報を得られる「TIG」といったサービスは、2.5次流通における今後の課題解決や事業強化にも役立つだろう。また、自走可能なアバターを遠隔操作して、現地に行くことなく買い物などをできるようにするANAの「avatar-in」も、ファッション業界との親和性は高そうだ。

生産工場とのマッチングサービス「AnyFactory」
生産工場とのマッチングサービス「AnyFactory」
動画内の気になる箇所をタップすることで情報が得られる「TIG」
動画内の気になる箇所をタップすることで情報が得られる「TIG」
画面を備えた自走式のアバターを遠隔から操作することで、まるでその場にいるかのような雰囲気が生まれる「avatar-in」
画面を備えた自走式のアバターを遠隔から操作することで、まるでその場にいるかのような雰囲気が生まれる「avatar-in」

 平田氏は、FABRIC TOKYOの「STAMP」というブランドで実現している、無人店舗での完全オーダーメイドスーツの仕組みについて言及した。生産工場のオートメーション化はすでに想像以上に進んでおり、そこにITの力をさらに加えて活用していくことで、ファッション業界が今後も進化していく可能性は大きいと感じているようだ。

 しかし、同氏は「社会全体の今一番大きな課題は大量の廃棄在庫があること」だと改めて指摘した。これに対しては、機械学習で需要予測を高めることで廃棄在庫を最小限にすることは十分に可能になるだろうと見ているが、メジャーブランドのように規模が大きいと、どうしても「機会損失を考えて大量生産するので廃棄在庫がゼロになることはない」。したがって、その廃棄在庫を活用した商品展開をSREUのような新興ファッションブランドと共同で取り組むことが重要になると語った。

 これに対して米田氏は、メジャーブランドが「大量に在庫が余っていることを公にすることが難しい」状況にあることを理解したうえで、世間に対する発信の仕方を考え直す必要があると訴えた。たとえば、大量に製造することで消費者が安価に購入できるようになっていることから、それにより廃棄する商品も出てくるが、これからは廃棄するのではなく違った形で活かしていくといったアピールをすることで、「ネガティブな話をポジティブに変えていけるのでは」と提案する。

 2.5次流通の動きはまだ始まったばかりではあるものの、社会課題の直接的な解決策の1つになり得ること、技術的な側面からそれを支援可能なサービスが続々と登場してきていることから、これからますます注目されそうだ。大量生産、大量消費という従来のビジネスとは異なる視点からアプローチすることで、今後もファッション業界は拡大していく有望な市場として期待できるのではないか、と十分に感じられるセミナー内容となった。

 なお、SREUではマスクの型紙データとその作り方を公開している。また、シリーズ2.5次流通の第2回目となるオンラインセミナー「アップサイクルと知的財産権」は8月21日に開催予定だ。

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