ソフトバンクは5月11日、2020年3月期の決算を発表した。売上高は前年度比4.4%増の4兆8612億円、営業利益は前年度比11.4%増の9117億円と、増収増益の決算となった。
同日に実施されたオンラインでの決算説明会で、同社代表取締役社長執行役員兼CEOの宮内謙氏は、すべての事業で増益を達成したことが好調な業績につながっていると説明。2019年に連結化した、ヤフーを傘下にもつZホールディングスの連結影響を考慮しない場合、売上高と利益は前年度比でそれぞれ30%、27%の増加になるとしている。
主力の通信事業に関しては、2019年10月の電気通信事業法改正や消費増税の影響を受け減少している一方、モバイル・ブロードバンドの通信サービスは順調に伸びたとのこと。
特にコンシューマー向けのモバイル通信事業に関しては、「ソフトバンク」「ワイモバイル」「LINEモバイル」の3ブランド展開でそれぞれのマーケティングポジションを確立し、スマートフォンの累計契約数が前年度から205万件純増して2413万件となったほか、スマートフォン解約率も過去最低の0.7%に達するなど好調だとしている。
法人事業も、売上高が前年度比3%増の6389億円と順調に伸びており、特にクラウドやIoT、セキュリティなどを主体としたソリューションビジネスの売上が、前年度比17%増の1692億円と大きく拡大しているとのことだ。新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛要請でテレワーク需要が高まって以降は、ウェブ会議サービスの「Zoom」の新規申込ID数がひと月で10倍に急上昇するなど、関連するサービスが大きく伸びているという。
3月にサービスを開始した5Gに関しては、既存の23万基地局の活用や、4月にKDDIと合弁で「5G JAPAN」を設立、インフラシェアリングによる地方でのエリア展開を加速することなどにより、2020年度末には1万の5G基地局を設置して全国展開するとのこと。2021年度中にはスタンドアローンでの運用を開始し、2021年度末には5万局の基地局を設置して人口カバー率90%達成を目指すという。
ただ、5Gに関しては、新型コロナウイルスの影響で機器調達や工事が滞り、エリア整備に影響が出るのではと懸念されている。この点について、同社代表取締役副社長執行役員兼 CTOの宮川潤一氏は、ビルオーナーから工事の許可が出ない場合があるなど若干影響はあるというが、「当初計画より50%増しくらいでのオーダーをかけている」と、整備を大幅に前倒しで進めているため大きな影響は出ていないと説明。機器調達に関しても「今のところスケジュール通りの納品ができているので、大丈夫かと思う」と答えた。
連結化したZホールディングスのヤフー事業も、ZOZOの買収などによってEコマースを中心に売上が大きく伸びているだけでなく、ソフトバンクとの統合効果が出てきていると宮内氏は説明。ソフトバンクが持つ強力な法人営業などと、ヤフーの広告事業を連携することにより、2019年度下期には新規契約の獲得や広告出稿の増額などで、約44億円の効果を出すことができたとのことで、今後も一層の連携強化を図っていきたいとしている。
また、流通・その他事業についても、PCの買い替え需要の伸びや、決済代行事業を展開している子会社の「SBペイメントサービス」の拡大などによって増収増益を達成。特にSBペイメントサービスは、決済取扱高が約3.5兆円に伸びるなど大きな成長を遂げており、「将来有望」と宮内氏は話す。
一方、スマートフォン決済の「PayPay」など新領域の事業はまだ赤字が続いている状況だが、「近々黒字転換することで、大きな利益貢献をすると思っている」と宮内氏。今回の決算では、主な事業の黒字化に向けた取り組みについても説明した。
PayPayは積極的な投資によって登録ユーザー数が4月末時点で2800万に達し、累計決済回数も5月9日時点で10億回を超えるなど利用拡大が進んでいる。そこで、2020年度は獲得した顧客基盤を生かし、ローンや投資などの金融サービスに本格参入するとのこと。すでに「PayPayあと払い」や「ボーナス運用」などのサービスを開始しているが、金融サービスの拡大によって収益化を進め、黒字化を図っていくとのことだ。
日本での「WeWork」事業に関しても、米国でのトラブルを後目に日本では成長を続けているそうで、需要の大きい東京都心を中心にオフィス展開を拡大、高い稼働率を確保していく方針とのこと。最近では、働き方改革の影響でオフィスの分散化や縮小化が進むなど需要が多様化していることから、そうした需要を獲得することで2020年度中の単月黒字化を目指したいとしている。
一方で、契約に関するトラブルが相次いだ「OYO Hotels」に関しては、従来の戦略を見直しホテル数を大きく伸ばす戦略から、既存ホテルの地域に根差したブランド確立を図る戦略へと転換。新型コロナウイルスの影響を受け稼働率が落ちていることから、ホテルオーナーの運転資金の一部をサポートする取り組みなどを実施することで、今後の成長につなげたいとしている。
宮内氏は2020年度の連結業績予想についても言及。事業拡大のための取り組みとして、通信事業ではスマートフォン利用者拡大と5Gの積極化、企業のデジタルトランスフォーメーションの推進による法人事業の拡大などを進めていくという。
また、ヤフー事業に関しては、Eコマースや金融事業の拡大と、2020年10月を予定しているLINEとの経営統合が成長の柱になるとのこと。新領域に関してはPayPayやタクシー配車の「DiDi」など主要事業の黒字化、そしてさらなる新事業の創出に取り組むことで、業績を伸ばしていきたいとしている。
だがその足を引っ張るのは、やはり新型コロナウイルスの影響であるようだ。通信事業に関してはショップの営業時間短縮で来店者数が減り、新規契約数が減ることで売上が伸ばしづらくなる一方、テレワーク需要の増加などによりデータ通信の利用が増えることから影響は軽微だとしている。
ただ、ヤフー事業に関しては、Eコマースの利用が大きく伸びている一方で、観光・旅行関連を中心に広告出稿が落ち込んでおり、広告事業の先行きが不透明だという。そのため、ZホールディングスとLINEの経営統合影響を考慮する前の業績は、売上高が前年度比1%増の4.9兆円、営業利益が前年度比1%増の9200億円と微増になると予想。抑えめながらも増収増益は達成したい意向を示した。
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