JapanTaxi親会社の日本交通ホールディングス(日本交通)とディー・エヌ・エー(DeNA)は2月4日、タクシー配車アプリ関連事業の統合にあたり同日合意したと発表した。これにより、タクシー配車台数10万台、アプリダウンロード数1000万超という国内最大規模のモビリティ基盤が誕生するという。
事業を継承する新会社は、日本交通、DeNAともに38.17%の株式を保有する持株会社となる。新会社の会長職には日本交通ホールディングス代表取締役の川鍋一朗氏が、代表取締役社長にはディー・エヌ・エー常務執行役員で、MOVを率いてきたオートモーティブ事業本部長の中島宏氏が就任予定としている。
4月1日より新体制に移行するが、ブランドや社名については、どちらの名称を継承するのか、第3の新しい名称にするのかも含め、具体的なことは決まっていないとしている。なお、両氏ともに今回の事業統合は対等な関係で進めており、税制面などの関係からさまざまなスキームをとっているものの、あくまで事業統合と吸収との報道を強く否定している。
ユーザー向けアプリについては、今のところMOVとJapan Taxiの両方が使えるが、マーケティングコストなども鑑みて統一する方向になる一方、ドライバーアプリについては無理に統合しないとしている。
日本交通の代表取締役を務める川鍋一朗氏は、初乗り運賃の改訂、キャッシュレス対応、事前確定運賃のスタートなど「タクシー業界で進化を続けてきたつもりだが、知人などを含め周囲から『全然ダメだ』と声をもらう」と述べ、天候が優れない日など使いたいときに限ってタクシーが捕まらないなど、利便性に課題があることは事実と語る。
「タクシー会社からスタートして『Japan Taxi』として4年半やっているが、経営者の力量不足で思ったスピードよりも改革が進まない。さらにもっとやりたいことも出てきている」と自身を振り返る。「もっとタクシー業界を進化できるか日々考える中で横を見ると、MOVさんがいる」とし、「マーケティング的にもサービス的にも参考になる。ITメガベンチャーなので技術力もある。なによりも、タクシー業界とまっすぐ向き合って進化させることに全力で取り組んでいる」とDeNAを評価。
川鍋氏は、日本交通の前にマッキンゼー・アンド・カンパニーに在籍しており、当時の上司がDeNA創業者であり同社代表取締役会長の南場智子氏だという。OB会などで意見を交わすうちに、「もっとスピードアップするには力を合わせたほうがいいのでは」と考えるようになったという。なお、今の時期になったタイミングについて川鍋氏は、「ご縁があったため」と深くは語らなかったものの、先述の通り個人的に繋がりがあったこと、MOVローンチ前から中島氏と交流があり、5〜6年ほど同じ業界だったことも重なったとしている。
MOV側としても、先駆者ゆえに広いエリアをカバーしているJapan Taxiと組むことでサービスエリアを拡大できるほか、二重投資がなくなるため投資コストを効率化できるという。また、黒字化については、運賃から一定数の割合で手数料を回収するほかに、さまざまな収益ポイントがあると説明。今後、前向きに収益のアップサイドを狙えるのではと中島氏は説明した。
タクシー業界は、規制産業であることもあってかこれまでモビリティサービスが浸透しづらい背景があった。両社によると、他の事業者を含めた配車サービス利用率は、全国の月間乗車回数である1億回のうち2%にとどまっていると分析しており、中島氏は、グローバルで破竹の勢いを見せるモビリティサービスと比較し、「配車アプリ後進国」と日本市場を表現。
また、タクシー業界の課題として、乗務員の高齢化、それによる車両供給量の不足、乗務員の実労働時間の非効率性を挙げる。特に、仕事の非効率性については、実際にユーザーを乗せて走っている時間は2〜3割で、勤務時間に直すと2〜3時間が業界平均という。それに加え、タクシー会社における中小企業率は全体の99%(タクシー台数に換算すると86%)に達しており、改善への投資が進みづらい構造もあるという。
こうした課題に対し、ライドシェアの導入が解決するのではという声も一部である。しかし、これに対し中島氏は、「強盗・性犯罪、交通渋滞、ギグワーカーの労働問題などがグローバルで社会問題となっており、再規制の流れが出てきている」とし、「こうした動きを踏まえずに、いまさら周回遅れでライドシェアを解禁しても、今度は2周遅れで再規制になる流れが見えている」と指摘。また、ライドシェアのサービス設計は、ユーザー、ドライバーともにコンシューマーに向いており、特にドライバー側アプリの品質にも差があるとする。
「日本は世界で見てもまれな低価格で高品質な交通システムが発達している。世界で見ても最先端で、海外のスキームを日本に持ってきても無理が出てくる。日本のタクシーは品質が極めて高く、事故率や事件発生率は他国と比べて低い。海外ではこれらも優先度の高い課題となっているが、日本ではすでに解決されている」とし、既存産業をディスラプトするのではなく、完成された交通システムをスマート化することで、日本の強みであるホスピタリティを生かしたいと説く。
こうした既存の課題解決に対して有効なのが「アプリ化」であると中島氏は主張する。実際のサービスは検討段階ではあるものの、新体制では、相乗りサービス、定額運賃、配車予約、車種選択のほか、価格が変動するダイナミックプライジング、ユーザーとドライバーを相互に評価する機能を実装していく予定という。また、川鍋氏も第二種免許を持つ元ドライバーに特定の時間帯だけタクシーを走らせたり、マッチングの精度を高め、ユニバーサル対応が得意なドライバーと体の不自由なユーザーを結んで満足度を上げるなど、交通課題、ひいては社会課題の解決を目指す。中島氏は、「日本でリープフロッグを起こしたい」と決意を語った。
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