新海誠監督が手がける劇場作品最新作「天気の子」は、2020年1月時点で興行収入140億円を突破し、動員観客数も1000万人をゆうに超えた。2016年に公開し、250億円を売り上げた前作「君の名は。」に続く超メガヒット作品を立て続けに生み出す新海監督作品は、今や国民的アニメになったと言っても過言ではないだろう。
しかし、リアルやネットにおけるさまざまなプロモーション活動がその大ヒットを後押ししたことも見逃してはならない。2019年6月30日、「君の名は。」の2回目の地上波放映で「天気の子」の冒頭シーンが初めて公にされたとき、提供クレジットが「入れ替わり」、「天気の子」の映像がふんだんに使われたCMが流れたのは記憶に新しいだろう。ネット上でも、「天気の子」本編に登場する多くの企業が連携するかのように、SNSで次々と関連する内容を投稿し、映画公開に向けての期待感を醸成した。
そのプロモーションを影で支えたのは、配給会社である東宝だ。「250億の次」の作品のプロモーションを展開するに当たっては相当なプレッシャーがあったはずだが、製作発表から公開、そして公開後まで、どのようなプロモーション戦略をとっていたのか。ウェブ、SNS上でのプロモーションを担当した同社宣伝部の帯田氏に話を伺った。
――「天気の子」の公開前からのプロモーション全体ではどういった戦略をとっていたのでしょうか。
僕は、2016年4月末から2018年3月まで宣伝部を離れていて、2016年公開の「君の名は。」が一番盛り上がっていた時期は端から見ていたんですけど、「君の名は。」のプロモーションでは数万人規模の試写会をやっていましたし、「新海監督がつくる作品はこんなに凄いんです!」ということを何とかして伝えて、いかに口コミを醸成するかを考えていたようです。
それを受けての「天気の子」では、新海監督の認知度は十二分にあるという前提で宣伝の軸を決めることにしました。結果的な部分もありますが、「君の名は。」とは対極的に「天気の子」では情報を制限したんです。作品の完成が公開ギリギリになってしまったので試写会は一度もしていませんし、ストーリーなど作品の情報を公開前に出さない宣伝方法にしました。
――それが期待感をうまく煽った。
宣伝チームとしても、そこが狙いの1つでもありました。それと、「天気の子」を見た後、お客様の感じ方がどんな風に分かれるか、主人公と同じ側に立つのか、それとは違う意見をもつのか、そこはお客様に委ねてみようという思いも当初からありました。公開前までの宣材物などに書いてあるようなストーリーやあらすじって、映画の開始から1時間もいかないくらいのところしか語っていないんですよね。映画を見た方の気持ちを大事にしたかったんです。
――たしかに公開後、SNSでもいろいろな意見が見られました。そういう議論を巻き起こしたのは宣伝側としては狙い通りだったと。
お客様の口コミとか感想を思うように誘導するなんて無理な話です。ただ、250億円という大ヒット作品の次回作の宣伝を任されている以上、もっと大ヒットをさせたいと思うのは当然のことで、それだけの大ヒットとなると上映期間も相当長くなる。ネガティブな意見ばかり表明されても困るので、コントロールできないまでも、うまくいい方向に進んで欲しいなと願っていましたね。
そんななかでありがたかったのが、新海監督の精力的な宣伝協力と、そこでの発信の仕方でした。7月19日公開なのに映画が完成したのが7月7日、完パケにするまでさらに数日かかりますので、あれは本当にギリギリだったんですよね。上映する各劇場に映画のデータを渡さなきゃいけないんですけど、物理的に運搬にかかる日数も考えると、本当にギリギリのタイミングだったんです。
終わったー!!完成です! pic.twitter.com/N7BAmgz00r
— 新海誠 (@shinkaimakoto) July 7, 2019
そうやって作品が完成して監督の大事なお仕事がひとつ終わったわけですけど、ホッと一息つきたいところだったと思うのですが、テレビや雑誌の取材など精力的に動いていただいた。監督の口からも「賛否やいろいろな意見が出る作品だと思う」といったことを広く発信してくれたおかげで、見る側も「『君の名は。』は好きだったけれど、じゃあ次はどうなんだろう」というような期待と構える気持ちが生まれ、それがうまく合わさっていい方向に流れたのかなと思います。
――映画完成を報告した新海監督のツイートもそうですが、ご自身が積極的に発信しています。
新海監督はまめにTwitterをやられている印象です。僕よりも全然お忙しいはずなのに、更新が早くて「あっ、監督の方が早い、ちょっと待って!」みたいに思ったこともありました(笑)。
監督にはいろいろな意見が直接届くでしょうし、視聴者の反応もよく見られていると思うんですよね。「君の名は。」のときも、超大ヒット作であるがゆえに否定的な意見はたくさんあったと思うので、それが今度は「天気の子」でどう受け止められるのか、というのは監督の期待する部分でもあったかと思います。
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