そのなかで資料にストーリー性を持たせる。大野氏が心がけているのは、「起承転結で資料を作成すること」だという。ここで登場するのが、資料作りのための「勝ちパターンフレームワーク」だ。「起」は「はじまり」で、マーケットデータや統計データを使う。他社がどんなサービスを提供していて、類似するものは何か。潜在的な市場、まだないのであればどれだけ伸びる可能性があるのか、もう伸びているものがあれば具体的な数字などを用意する。市場があるのに課題を抱えている場合、その課題は何かを挙げる。
「承」は、必要性を受けて「どんなサービス」にするのかということがメイン。サービスの概要、特徴はどういうものか。他社と比較するとどうなのか、販売・普及させるためにはどんな方法が必要かを考える。「転」では、このサービスを作ると「どんなことが起こるのか」を説明する。これだけの数字が出て(事業計画)、こういうKPIが達成でき、それを実行するためにはこのような運用体制で、このようなスケジュールで進める、というもの。リスク管理で重要なのが「撤退基準」で、いくつかのフェーズに分けてその目標が達成できていないのであれば撤退することも考えておく。
「結」はサービスを作って実行して、売り上げのほかにも「どんな世界が待っているのか」を示す部分。世の中にどのような影響を与えるのか、どうサービスを拡張できるのか、どんな新しいビジネスに繋がっていくのかというような、役員に読ませるため、夢を与えるための資料だ。プレゼン資料は多くても16ページにまとめて、あとはAppendix(付録)で対応すべきだとした。
このフレームを用意するといろいろな形で使える。たとえば、役員との打ち合わせが5分しかない場合には“短縮版”にする。時間があるときはフルパッケージで伝えればいいが、まったく時間がないときはサービス概要とフロー図の2枚で対応するなど、1度ベースを作ると状況に合わせて対処できるようになるという。
大野氏がプレゼンで良く使う手法は、メインページで詳細は語らず、核心部分はAppendixに隠すというもの。役員は資料に突っ込むことが仕事なので、あえて突っ込まれそうな“隙間”を用意し、対策用として用意してある資料で説明する。「質問に完璧に答え続けられれば安心感を与えられる。承認を得られる可能性が上がる」(大野氏)というわけだ。
その際に、役員から聞かれる4項目は、「儲かる?」「市場ある?」「どうやって獲得するの?」「なぜ他社がやらないの?なぜうちだけできるの?」というもの。特に最後の質問に答えられないと失敗する可能性があるという。「他社ができないのは技術的な問題なのか、時期的なタイミング、ビジネスモデル、リソース的な問題なのか、過去失敗した理由は何か、そこまで突き詰める必要性がある」(大野氏)が、逆に言うとこれを考えれば役員を説得できるとした。
最後に強靭な精神力について。新しいことすると文句ばかり言われ、失敗したらいつまでも批判されるが、そんな時の対処方法は、建設的な意見には耳を傾けるが、感情的な意見は「すべて無視する」(大野氏)ことだという。「社内で孤立するのも新規事業の性。嫌味も言われるが耐えるしかない。今は辛くとも、必ずその経験が役に立つ時が来るし誰か見てくれている人もいる。資料を作ったり調べたりしたのも自分の糧になる。すべてつながっている」(大野氏)。
大野氏は、「これらに1つ追加すると、承認される確率が上がるものがある」という。それは「情熱」だ。「どんなに完璧な資料を作っても、最終的に役員の人たちはどこを見ているかというと、『こいつに任せていいのか』という部分。こいつにだったら賭けていいと思ってもらえるくらいの情熱を持つことが大事」と説く。
大野氏は、ソフトバンクでiPhone担当だった時、App Storeに日本語に対応するアプリがほとんどなかったため、人気ゲーム「メタルギアソリッド」のアプリ化に関する条件を社内承認をとる前にまとめコナミとまとめ、やるしかない状態、まさに背水の陣で挑み「今日は承認するまで会議室から出しません」と本部長らに伝え、プレゼンして通したという。ほかにも各テレビ局のプロデューサーを回り、着ぐるみを着てテレビに出たこともあったそうだ。そこまでやれたのは圧倒的な情熱があったからだそうだ。
資料作りは完璧にできているが会社が通してくれないというケースはどうすれば良いか。部下の言うことを全く信用せず、第三者やメディアが言わないと信じない役員も実際にいる。その時は、外堀を埋めていく方法を大野氏は勧める。部下を信じない上司がいる場合は新聞やテレビなどのメディアや大野氏のような第三者を活用して会社をコントロールしていくのが効果的だという。
講演の最後に大野氏は、「新規事業にかかわる人は社会課題解決を考えながらサービスを作ってほしい」とメッセージを送った。「人や社会が抱えている課題を根本的に解決するのであれば、永続的に成長し続けるサービスになる可能性が高い。一時の流行とか、市場の大きさだけで判定しているサービスはいずれ淘汰される。新規事業開発で多くの壁に当たる中で、頑張れる原動力にもなる。そのためにみなさんの力を使ってほしい」(大野氏)。
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