欧州のハブ、オランダ進出のメリットを現地の老舗日系IT企業に聞く

 オランダは、法人税が20~25%と他の欧州の国々と比べて低く設定されていることなどから、欧州で事業を展開する際の足がかりとなる拠点国として、日本を含む外資系企業を惹きつけてきた。

 実際にオランダでIT関連の事業を起こすことのメリットとはいかなるものか。1990年に進出し、同国では老舗にあたる日系IT企業「SRAヨーロッパ」のCEOである平田淳史氏に聞いた。

SRAヨーロッパのCEO、平田淳史氏
SRAヨーロッパのCEO、平田淳史氏

オランダや欧州のIT市場とは

 親会社であるSRAは、日本のソフトウェア開発の草分け的存在。米国の先端技術を日本の業界に輸入する役割も果たしてきた。そこで培った海外とのネットワークを生かして、1980年代から日系企業の海外進出を支援。その欧州拠点としてSRAヨーロッパは設立された。

 そもそも、日本のIT企業からして縁遠い、オランダや欧州のIT市場とはどのようなものか。平田氏いわく、米国に対して強い対抗意識をもち、古くはオランダのBaanやフランスの4D、そして現在はフィンランドのLinuxやQt、ドイツのSAPなど、本域発の独自の取り組みもあることから、ソフトウェア開発力で米国に劣るわけではないという。

 IT業界で働く人、特にエンジニアのキャリアパスについて、日本はある特定の会社で縦割りの環境の中でキャリアアップを目指す人が多いのに対して、オランダではその他の欧米諸国と同様に、業界内で会社をホップ(転々と)して昇進を目指すスタイルが目立つ。

 こうした働き方やキャリアパスの違いは、IT業界に限らず、日本でいえば終身雇用など社会全体としてのバックグラウンドの違いから生まれるものであり、「日本のIT業界は製品だけでなく、人材もガラパゴスになりやすい構造だと感じている」(平田氏)という。

日系企業にとってのオランダの利点

 平田氏が日系企業にとってのオランダの利点として挙げたのは、「欧州の玄関口」であること。欧州で事業を展開したい企業、働きたい個人が、域内の足がかりとなる拠点を設けやすい点である。

 その理由が、まず「英語」。オランダは、欧州で教育水準に関わらず多くの人が英語を話せる数少ない国の1つ。ほとんどの国では、英語を話せるのは一定水準を超えた教育を受けた人にかぎられる。英語が話せれば、ある程度コミュニケーションは成り立つという。

 その他に玄関口の特徴として、法人税率、個人事業主の所得税率が欧州諸国と比べて高くないこと。首都アムステルダムに、ハブ空港であるスキポール国際空港があること。つまり、同国を拠点に欧州で事業を展開するというのは経営効率化の1つの手である。

 また、オランダは先進的な研究開発のための拠点を置く企業に対して、税制優遇の措置も用意している。SRAヨーロッパもこれを活用してウェアラブルデバイス向けの技術を開発し、欧州各国の主に日系メーカーに売り込んでいく考えだ。

 玄関口らしく、多様な人が集まることも魅力の1つ。印象的なエピソードとして、休憩時間になると国籍ごとに従業員が集まり、母国語で愚痴を言い合う。それを見て、英語しか話せないある英国人が「君たちは暗号で話せるからアンフェアだ」と言ったそうだ。

 オランダにおける日系企業のプレゼンスが最高潮に達したのは1980年代。日本が好景気に沸き、メーカー、銀行、証券会社などが盛んに進出した頃だった。その後、景気低迷期に撤退が相次いだが、こうしたメリットを受けてまた日本人が集まり始めている。欧州に進出済みの企業が、EU離脱の件もあり拠点を英国から移す動きも最近は見られるという。

 平田氏は、オランダだけではなく、欧州全体としての事業展開を計画し、その玄関口としてオランダを活用することを勧めている。

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