新たな価値を生み出すために進化した「働く場」と「コミュニケーション」--コクヨ 山下氏 - (page 2)

エースラッシュ2016年08月22日 13時30分

社員を「1カ所に集めただけ」のオフィスでは、まだ不十分

 ドワンゴもイノベーション型の働き方を目指して、本社移転を行った。変化が激しい事業環境のなか、着メロやニコニコ動画に続く、第三の成長軸を模索するためだ。そこで、従来は東京都中央区の明治座や他拠点にあったオフィスを、社員の住居エリアを変更せずにすむ歌舞伎座のオフィスビルに統合。コミュニケーションの機会を増やした。同時に配慮したポイントもある。

 「日本人の場合、欧米人などと比べて、一箇所に集めただけではコミュニケーションが生まれづらいものです。お互いに緊張して個性的な動きができない、委縮してしまうといった、日本人ならではの『同調圧力』をいかに排除できるかが重要」(山下氏)なのだ。

 それも踏まえ、ワークスタイルを職種ごとに細かく設計し、場所に関しても働き方に応じてフロア毎に変化させる方式とした。各フロアは内部階段でつながれ、全体の一体感にも配慮している。こうした空間設計は、人と人とのコミュニケーションを活性化する最大のツールとなりうる、重要なポイントだ。こうした例を参考に、オフィス内の階段の配置の工夫、あえて統一感を作らないことで緊張感を減らすコミュニケーションスペース、偶発性を意識した複雑な動線設計で視線が交錯するオフィスなど、発想は自在に可能だろう。

働き方の柔軟性を追求した「サステナビリティ型オフィス」

 一方で、労働力の安定的な確保を目的としたサステナビリティ型オフィスの事例としては、オーストラリア最大の銀行であるNAB(National Australia Bank)を挙げた。こちらはビジネスの変化に対応するための柔軟な働き方を重視しており、自分の固定席は一切用意されていない。それどころか、自宅やカフェなどで働いても構わない。

 「こうしたオフィスを構築する上で、現在もっとも注目を浴びているのが、働く時間と場所を自由に選択できる概念『ABW(Activity Based Working)』です。従来のフリーアドレスや、ノンテリトリアル・オフィス、アクティビティ・セッティングなどは、あくまでもオフィス環境に限定するものでした。しかしABWの場合、必要ならばオフィスに行けば良い、といった革新的な考え方です。企業側にとってスペース効率と人材確保の容易さが増すだけでなく、ワーカー側にも生活と仕事が両立できるというメリットがあります」と山下氏。

 ABWでは、各種ITツールを積極的に活用してビジネスを進めるため、現実空間は社会的なコミュニケーションを交わすソーシャルスペースとして使われる。また、生活と仕事を上手くつなぐ託児所などの設備を置く企業もある。実際に日本でも、リクルートやトヨタなどがABWの概念に基づくワークスタイルへと移行しているという。しかし一方で、日本企業が直面するいくつかの課題も、山下氏は指摘する。

 まず、社員が異なる場所で働く環境においては、プロセスを重視する従来型の評価制度がネックとなる。「プロセスではなく結果を重視する評価制度」への見直しが必要になるはずだ。また、ツール活用が基本となるためデジタルリテラシーの向上も求められる。

 さらに日本人の特性として「高コンテクスト・コミュニケーション」との折り合いも大きな問題になるという。日本式の職場では、同じ空間にいることを前提とした「空気を読む」「阿吽の呼吸」といった、暗黙のコミュニケーションに支えられる部分も大きい。しかし分散型のワークスタイルを確立するには、当然ながらしっかりとテキストや言葉で伝えなければならない。この高コンテクスト・コミュニケーション状態のまま分散してしまうと、コミュニケーションの崩壊やミスが多発する可能性が出てくるのだ。

 山下氏は、「現状の日本企業は、もし空気感や行間を伝えられるツールが出てくれば、それを利用する。もしくは組織文化自体を低コンテクスト・コミュニケーションに変えていくという、両極端の選択肢を迫られている状態」にあると来場者に呼びかけた。そのうえで、現状のコミュニケーション環境を再考していく重要性を訴え、講演を終えた。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]