あらゆるマーケティング活動の最大のゴールは、経営や事業のマイルストーンを進めることです。そのため、時々の局面に応じて、マイルストーンを動かす上でのハードルに対して、継続か強化か予算削減か撤退かといった意思決定をする必要があります。決断をしないことは後世への罪にも値します。よって、どのようなデータがそろえば、マイルストーンを進める意思決定ができるのかを考えることが非常に重要になります。その際求められるのが、自身の組織や活動において、何が使えるスマートデータなのかを逆算する思考です。
もし仮に老舗ホテルのマーケティング担当者であった場合、今の常連客への待遇を手厚くするのか、もしくは若年層を中心とする新規顧客を取り込むのか、はたまた離反顧客のあふれ出る穴を埋めるのか、戦い方を選ばなければなりません。その際、改築費用が捻出できないといった制約条件を考慮して、常連客へのロイヤリティ施策を実施すると現実的に判断した場合でも、“常連客のクチコミ数が圧倒的に少ない”、“彼らのSNS上のクチコミが年々減っている”、“ネガティブなものが多い”などが確認されたならば、方針転換を考えざるを得ません。
一方、“常連客がアドボケーツとして推奨クチコミを積極的にしている”、“そのクチコミ経由だと過半数が代理店を挟まないご予約である”などが認められれば、意思決定は比較的容易なものになるでしょう。常に岐路に立っているというマインドセットで業務に臨むと、デジタルでリアルタイムに分かる多様なデータをうまく意思決定に活用できます。
読者の皆さんも、もしよければ一度考えてみてください。ご自身の組織や活動において、何が使えるスマートデータなのか。適当な指標や数値がなかなか思い当たらない場合、スマートデータを手にするためにマイルストーンからブレイクダウンした戦略設計を再度する必要があるかもしれません。
今後の課題について河尻氏は、「同じ物差しで、自治体間を比較できるデータが必要だと思います。例えば、今回の調査で実施した、まちの愛着度を全国で調べて、それをまちの魅力を表す新指標としてオープンにするとか。まちの魅力を現在表すデータは、都心へのアクセスや地価などではない他の第2指標が必要だと考えています」と答えてくださいました。
公開されれば力学を変えることにもなりかねず、「すこし怖い数値データ」とも仰っていましたが、まちの魅力について説得力をもって語る上では欠かせないと私も考えますし、流山市のマーケティングをさらに前進させるデータであることは間違いありません。現在、総務省が主催している「データ活用による都市の魅力発信プロジェクト」に参加して第2指標の検討をしているそうで、流山市の今後から目が離せません。
今回は、前後編にわけて、クチコミデータの有用性とそれを用いたデータドリブンマーケティングをご紹介しました。実際の進め方は多様で、広告表現のみならずPR活動やSNS、場合によっては商品開発にまで及ぶことがあります。ただ、今回のように推奨度と地域参画総量を通じて、まちの愛着度別のコミュニティにコミュニケーションを図ることは私の知る限りにおいては稀です。
それを実現し、形にしつつあるのは、私が今回流山市に取材しようと思った理由とも重なりますが、市民の皆さんに対する河尻氏始めマーケティング課の熱い眼差しです。あの熱さがなければ、メモリを細かくしたときに顕在化した課題を見過ごしてしまったかもしれませんし、たとえ見つけてもこれほど実行はできなかったと思います。
また、必ずしもビッグデータである必要はないともお話ししました。例えば、アンケートを通じてスマートデータを得ることもできます。マーケティング活動に使えるデータは何か、そのためにはどういう設問が必要かなど、 2~3の質問で現状が大いに整理されることでしょう。
今回着想した、効果指標のメモリを細かくするというのは1つの手法に過ぎませんが、もし試せるならばおすすめします。定期的にアンケートを実施している方ならば、必ず気づくポイントがあると思います。2015年秋よりTwitterがアンケート機能を実装しました。自身のフォロワーに対して2択の質問ができるといった簡単なものですが、フォロワーがいるのであれば彼らの協力意向の把握も含めて、使ってみるのはいいかもしれません。
次回、取材第2弾は、本来はBtoB業でありながら業界内では異端の事業を独走させている会社を取り上げます。イノベーターとも呼べる彼らが、ログデータから何を読み解き次の手を考案していくのかを追いかけます。
廣部 嘉祥
クチコミマーケティング協議会(WOMJ)メソッド委員会所属 個人会員
コンテキスト・エディター
2007年よりデジタルエージェンシーへ入社後、ファッション、ホテル、ITサービス、製薬等各種グローバル企業のデジタルマーケティングからPRプランニングまでを担当。2012年よりメソッド委員会に所属し、2015年夏より現職。
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