オンライン教育は“格差”を縮める--グロービス堀氏に聞く「オンラインMBA」の狙い - (page 2)

オンライン型と通学型、授業のクオリティに違いは?

――オンライン型と通学型で授業内容には違いがあるのでしょうか。

荒木氏 : グロービスはこれまで組織やビジネスを変革させる「創造と変革の志士を輩出する」ということを教育理念に、知識だけでなく、意思決定能力や人を巻き込む力を持った人材を養うことを目標に学びの場を提供してきました。オンラインでもその教育目標は変わりません。オンライン教育は教材を通じて“知識を身に付ける”という受け身なものになりがちですが、グロービスでは知識の吸収は自分自身で行い、授業は“知識の実践と議論の場”として緊張感を持って臨む場所にしていただきたい。オンラインでも、その点については絶対に外したくありませんでした。


グロービスオンラインMBA責任者の荒木博行氏

 ちなみに、“オンラインMBAは、受講生が好きな時に受けられる”という誤解を持たれる方もいるのですが、グロービスの場合は違います。グロービスのオンラインMBAはライブ参加型です。場所の制約を取り払った「どこでも受けられる講義」は実現しますが、「いつでも」というわけではありません。授業の時間割は通学型と同じように決められており、全ての授業が後戻りのできない“一発勝負”。オンラインでも通学型でも、受講生に求められているものは変わりません。

――教育の効果についてはオンライン型と通学型で違いはあるのでしょうか。

荒木氏 : 通学型とオンラインでは、全く同じリアルな授業を提供することができる一方で、期待できる教育効果には違いが生じるのではないかと考えています。鍛えられる能力がやや異なるのです。通学型授業のグループディスカッションでは、自分の意見をまとめ、異なる意見を集約していく力が鍛えられます。オンラインのディスカッションでは、予習してきた内容を元に個人で意見をまとめてプレゼンする力や、チャット形式で次々に表出されるクラスメイトの意見に対して自分の意見をまとめ、責任をもって発言する力が鍛えられます。

 大きな違いは、個人の力やアウトプットがはっきりと可視化されることです。短時間で端的に自分の意見をまとめ、参加者に伝えきらなければならないのです。個人の能力の底上げという意味では、むしろオンラインの方が高い効果が期待できるのではないかと考えています。

――オンライン型の授業を運営する上で、工夫していることはありますか。

荒木氏 : 受講生の皆さんに受講中に常に思考を続けてもらうための緊張感が重要だと考えています。教室では間近に講師や同級生が常にいますが、オンラインではたいてい部屋には自分一人なので注意力が散漫になりがちです。そのため、授業中は画面上で起きていること(映像、チャットなど)を追っておかないと授業についていけない状況をつくり、授業に対する緊張感を生み出していく工夫を加えます。受講生の皆さんには、90分間続く授業の緊張感に対して“望むところだ”と覚悟を決めて臨んでもらいたいと思います。

 授業を進める講師にも高い技術が求められます。受講生一人ひとりの顔をPC画面上で見て進めるオンライン授業では、講師は今まで以上に受講生に意識を向け、それぞれの受講生の意見や考えをより深く考察することが求められます。改めて、教育の専門家としての知見が問われているのです。加えてオンライン型の授業では、通学型の授業では不可能だった、授業中のインタラクションや授業内容に対する生徒の反応、他のクラスの状況との比較など、さまざまなデータの蓄積が可能になります。こういった定量分析によって、教育者にとっての課題発見や論点提起がなされ、学習効果の改善や教育のイノベーションが生まれるのではないかと期待しています。これまで、教育の評価は属人的で難しい部分がありましたが、その課題を克服できるかもしれません。

グロービスが目指すのは、“学びの民主化”

――最後に、グロービスではオンラインMBAだけでなく、情報サイト「GLOBIS知見録」をはじめデジタルコンテンツに力を入れているようですが、その意義と狙いを教えてください。

堀氏 : オンラインMBAが実現したことによって、グロービスで学びたいという方に対して新たな選択肢を提供できました。これまで苦労して通学をされていた方には、通学の手間、時間、コストの軽減が可能になり、通学に割いていた時間を学びの充実に使えるようになります。加えて、ネットを通じた教材の提供によって知識のインプットを効率化させ、ディスカッションや自分の意見をプレゼンするといったアウトプットにより多くの時間を振り向けられます。オンラインMBAは、教育格差を解消し、教育の利便性を大いに高めることができるソリューションなのです。


 インターネットの普及によって、これからは知恵を獲得する方法も変わるでしょう。従来は書籍で知恵を得ていたのに対して、デジタル化が進むと知識や情報に求められる即時性が高まり、移動しながらでも知識に触れられる「ストック型のメディア」が求められるようになっています。グロービスの教員やビジネスリーダーの知見を集めたデジタルコンテンツ「GLOBIS知見録」が誕生した背景にはこういった学びに対するニーズの変化があるのです。こうした知識に触れる機会を作ることで学ぶ意欲を高め、ビジネスパーソンの中にある「学びたい」という深層ニーズを呼び覚ましたいと考えています。

 グロービスが目指しているのは、学びの門戸を広げること、つまり「学びの民主化」です。限られた人だけが学べるという状況をテクノロジによって変革し、意欲のある人なら誰でも学べる環境を作りたい。経済的な制約は国の補助金制度などによって解消しつつありますが、地域、生活環境、職場環境など、学ぶ機会を制約する壁は数多くあるのです。オンラインMBAはそういった壁を越えるための大きな武器になると考えています。

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