フレキシブルな対応がヒットを生んだ--バンナム「ゴッドイーター」シリーズ開発に聞く - (page 3)

ネットゲームと異なるパッケージ型の運営的なコミュニケーション

--ユーザーとのやりとりや、それを反映させていく姿勢というのは、オンラインゲームやソーシャルゲームの運営に近いようにも思えます。

吉村氏:オンラインゲームやソーシャルゲームの運営スタイルは、ユーザーの反応を見ながらさまざまな施策と提示を行うというのは当たり前の形になっていて、リアルタイム性も高いです。一方のパッケージは早くて1年、場合によっては数年に1回の周期でユーザーの皆さんにソフトを提供するという形ですが、数年に1回だからこそのコミュニケーションのあり方もあるんじゃないかなと思うんです。発売されるまでの間に期待を膨らませてもらったり考えることも多くあるでしょうし、出てくる情報が全て先行の話なので、プレミア感があるんだと思います。コミュニケーションは同じようにやっていくにしても、違う形のパッケージ型の運営的なコミュニケーションがあるのかなと。

富澤氏:似ているけれども少し違うスタンスがある感じですね。

吉村氏:例えるなら遠距離恋愛をしている彼氏彼女が年に一回会えるとして、その会える日に向けたメールと、普段から会っている恋人同士のメールは違うと思っていただけたら(笑)。もしくは、サンタクロースを待ちわびる子どもたちがドキドキしたりお願いをするような、そんな感覚です。

 「GE2」には引き継ぎ要素がありますが、こちらで引き継ぎチェッカーというものを用意したんです。装備や要素をどの程度引き継げるかは「GEB」をどのぐらい遊んでいるかという評価軸で増えていくようになってます。チェッカーを用意することで、改めて「GEB」を遊んでいただく動機作りになればと考えたんです。実際に「GE2」を心待ちにしてくれているユーザーが、その準備のために「GEB」を遊ぶという、ある意味ではイベントとして受け入れていただいたようです。ただただお待たせしたり、期待を膨らましてもらうだけではなく、新しい遊びのプロモーション施策として面白い試みになりましたし、今後もこういったことを仕掛けていきたいです。

富澤氏:興味や関心を維持していくことについては、日々の工夫が形になっていますし、このあたりはセオリーもないです。この先もその都度思いついたアイデアを、いろんな形にしていくと思います。そしてその全てを計画しているわけではなく、この先に向けて何が必要なのか、ユーザーさんの姿を日々ネットや直接の交流を含めてチェックをして、次につなげていくかを考えながら形を変えていくんだと思います。それを考えるとパッケージタイトルとしても、少し変わったタイトルとなっていますね。

--ユーザーとの距離感が近い中で、さまざまなな意見を聞いたり、コミュニケーションをするさじ加減は難しいと思いますが。

吉村氏:これは富澤と少し考え方やスタンスが異なるかと思いますが、僕の場合はあくまで物を作ってそれにメッセージを込める。そしてそれをお届けするという距離感です。なので基本的には、いただいた意見に対して、物で返すと。いろんな意見はあるなかで、その意見の裏にどのような気持ちがあるのかを考えていくということですね。ごくごく普通の商品開発におけるスタンスかと思いますけど。

富澤氏:一方で物が出る前のプロモーションにおいてはさまざまな意見に対して、いかにそれを受け止めていけるか、そしてどのようにして伝えていくかというのは難しいところがあります。言えないことも当然ありますし、言わなければいけないこともタイミングや言い方ひとつで反対の受け止められ方をされることもあります。全員への完全なる正解を提示できるとは思っていないので、発信することのリスクは情報発信そのものの敷居が下がっている昨今だからこそ、より高まっているとシビアに感じています。

吉村氏:基本的に物で語るプロジェクトなので、物の無い状態でのコミュニケーションは、かなり大変だと思います。

富澤氏:コミュニケーションの距離感やさじ加減は、プロモーション期間や物がない状態が長くなればなるほど難しいと実感しています。セオリーのない部分ですので、今でも日々模索しているとことです。

吉村氏:開発におけるユーザーの皆さんのご意見を受け止めるときの考え方のひとつとして、こういう意見があるからそうしようというのではなく、その意見が作り手の僕たちに共感できるかを大事にしています。とかく多数決みたいな発想も出てきがちなんですけど、意見の数ではなく、たったひとりであっても、その意見の思いに共感できたら、それは真なる意見をして等価に扱うスタンスですね。なので大量な意見があっても臆せず受け入れられます。

--体験会やイベントでは積極的に出向かれて、直接ユーザーに会って意見を聞く機会も多いように思われますが、直接会うからこその気づきは多いですか。

富澤氏:それはもちろんですね。「GE2」の体験版を出す前にSCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)さんの協力のもとで、プレコミュ会員向けの「GE2」の体験会&合同開発サミットというものをやりました。2日間で600人の方の意見を聞く会でした。

吉村氏:プレイ15分とトークセッション25分という形でやったんです。そのなかで「GE2」から入ったシステムで、ブラッドアーツと呼ばれる必殺技があるんです。それに対するネガティブな意見はなかったんですが、反応が「まぁ……、良かったです」みたいな感想なんですね。目がキラキラしていないと。必殺技と感覚が得られてないと気付いたので、あの体験会で出た意見でも優先度をかなり上げて対応しました。ここは実際に会ってお話しないとわからないことでしたね。ユーザーの皆様の言っている言葉だけではなく、言い方や目の輝き具合もちゃんとくみ取ることが大事だと感じています。言葉にできる不満の解消ももちろん大切ですが、言葉にならない「欲しいもの」 を捉えて、期待以上の製品を提供していきたいと日夜考えています。

ブラッドアーツ
改善を行った「GE2」のブラッドアーツ

富澤氏:頭が沸騰するぐらいでした。ただ、600人の意見の裁き方も単に数の大小では無く、フレキシブルに判断できたのも、これまでやってきた経験があるからこそなのかなと。実際にその意見で体験版の内容も思いっきり変わりました。

--ファンイベントとは違う、遊んだ感想を話す場というのも貴重に思います。

富澤氏:これだけのユーザーと直接お話するというのも、今までなかったです。そもそもなるべく多くの人に遊んでもらう場がほしい、さらにできたら意見を聞く場がほしいという要望をプロモーションチームに出しただけですが、結果的にこういうイベントになってしまったという感じです。なんでもやってみたら、いろんな効果が生まれるんだなと感じられるのはうれしいですね。

吉村氏:このときお話した25分というのは、ユーザーにとっても、貴重な体験として覚えていただけていると思っています。「GE2」発売日のイベントで、この体験会のことを興奮しながら話されていた方もいらっしゃいました。

富澤氏:参加者には『開発支援部隊証』というものもお渡しして、一緒にゲームを作っている感覚を共有していただけるように工夫しました。

--「GE2」ではPSP版とPS Vita版の同時発売という形になりました。

吉村氏:「GE2」にあたってはゲームのコンセプトを練り直した結果、期間も開いてしまったところでPS Vita向けにもリーチしたほうがいいだろうと。開発は本当に大変でした。

  • 別機種間におけるマルチプレイに対応。今後、PSVita版のインフラストラクチャーモードによるオンラインマルチプレイにも対応予定としている

    (C)NAMCO BANDAI Games Inc.

富澤氏:検討段階ではPS Vitaも発売した直後でメーカーとしても流通さんも数字が読みにくいリスクはありました。難しい判断でしたが、さすがにユーザーのみなさんにPS Vitaへ買い換えていただくわけにもいかず、やるのであればマルチ展開がベストだと判断しました。結果的にはPS Vita版の販売数は多いですが、かといってPSP版も無視できない一定の数字がありますので、今は最後の過渡期なのかなと感じています。

吉村氏:たしかにコンテンツの中身としては一緒ですけど、グラフィック面のクオリティが高いなど新ハードの機能をいかした、一段上の体験ができそうという期待感は、最近のゲーム機種に慣れ親しんでいる今のユーザーの皆さんであっても持っているのかなと。好きなアニメをいい画質で楽しみたいという気持ちと同じように、自分の好きなものは最もクオリティの高いもので楽しみたいという気持ちはあるんだと。熱量のあるコンテンツだからこその反応かもしれません。

富澤氏:多種多様なユーザーが存在しているということを忘れず、その上でどのようにタイトルとしての進化を提示していくか、を真剣に議論しなくてはいけないと考えます。

--今後ゴッドイーターをどのように展開していきたいと考えていますか。

吉村氏:なんとか「GE2」の発売までできたわけですが、ゴッドイーターシリーズとして提供している遊びの体験というのは成熟期に入っていると思います。今後として考えているのは、ゴッドイーターでできる遊びの体験を拡張していくことです。世界観なりアクションなり、同じ体験を発展させて精度を高めていくというのも大事ですけど、やはりユーザーの皆さんに対して新たな驚きを提供していくことに挑戦していきたいと。今はファンの方もまだ遊んでない方も含めて、とにかくお客様のご意見に飢えている状態です。

 またゲーム機の電源を付けて遊んで閉じるという遊び方だけにとどまらず、もっと生活に密着した遊び方ができるなど、より今のお客さんの遊び方にあわせた対応をしていきたいと考えています。

富澤氏:シリーズのプロデューサーの立場としては、開発のスタンスを受けて、この先に関して模索しているところをフォローしつつ、タイトル全体の拡大をしていきたいです。ユーザーさんの動向や考え方をチェックしながら、IPとしてのゴッドイーターを継続していくというのが課題ですね。

 4周年を迎えて、当然5周年やその先も続けていくためには、ゲームに限らずあらゆる方面の展開を考えますし、増えてきているユーザーが何を求めているか総合的に把握をして結びつけていきたいです。開発だけではない部署も含めて、それぞれがより多くの価値を提供するために考えていますし、その協力者も増えているからこそ、あらゆる可能性を求めていきたいです。

 好きになったらいろんな方向から楽しめるというのも、本来コンテンツとしてあるべき姿ですので、ゲームとしての真剣なスタンスとともにIPとしての拡大を目指す1年になるかと思います。どちらの方向でも、楽しみにしているユーザーに応えられるよう取り組んでいきます。

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