一方で、最終日のセッションでは、ハイエンドのアトリビューション専業ベンダーであるMarketShare社とAdobe社による次世代アトリビューションのセッションもあった。両社の視点だが、米国ではアトリビューションの取り組みは新しいレベルに突入している。以前はオンラインマーケティングのみで完結していたが、テレビなど、トラディショナルメディアの貢献度もすべて数学的モデルに当てはめて獲得、売上の予測解析、最適予算の算出を行うというものだ。米国の大手マーケティング先進企業はすでに取り入れ始めており、今後も利用は増えていくと思われる。いずれのレベルにおいてもまだ初期ステージだが、確実に今後成長する領域であるだろう。
今年のSESでは、従来のような「各個別の広告接触→コンバージョンを測定→改善」という文脈での話はあまりなく、どのようにマーケティング施策の相乗効果を発揮するか、という着眼点での話が多かった。
自社サイトやTwitter、Facebookなどのコンテンツ、そして広告接触と、多岐にわたる消費者とのタッチポイントをアトリビューションが測定できる解析ツールで分析していく、というのが今年以降、確実なトレンドになるだろう。そして、こういった考え方を総称して「ホリスティックアプローチ」という言葉で語ることができるが、これも多くのセッションで活用されていたキーワードだ。
ホリスティックとは「全体的」ないしは「総体的」という意味で訳されることが多い単語だ。つまり、各個別のメディアプランの立案や分析を行うのではなく、あらゆる広告やソーシャルメディアでの接触をデータ化し、消費者の行動を分析して数学的、科学的に処理をする。そうすることでメディアプランを再構築し、さらに一歩踏み込んでオンラインマーケティングに取り組む体制すら見直す機運が高まっている。
要するに、検索だけ、ディスプレイ広告だけ、ソーシャルだけ、というように縦割りでの取り組みではなく、全体を俯瞰しつつ統一感のもと、個別施策を緻密に連携させ、全体最適の下で統合的に取り組むことがいよいよ求められている、ということだ。
ソーシャルメディアによるタッチポイントの拡大。さらに、それに呼応するように複雑なデータを分析し、全体を最適にできるプロダクトや技術環境の整備。そして、それらをどのように運用し、運営していくかという組織作りも含めた新しい体制構築への準備段階というのが、2011年現在の米国のオンラインマーケティングの置かれた状況と言えるだろう。
今回は、「コンテンツ」「データフィード」「アトリビューション」そして「ホリスティック」という4つの切り口でレポートをお送りしたが、最後に明記しておきたいことがある。それはやはり、Ad Exchangeに代表される新しいディスプレイ広告とFacebook広告の存在だ。今回もいくつかのセッションでAd ExchangeやAudience Targeting、そしてFacebook広告が取り上げられていた。これらも上記の「ホリスティック」というキーワードで解釈することができる現象で、もはやオンラインマーケティングが投資として定着している米国市場の現状の縮図だともいえよう。
ただし、このコンテンツ、データフィード、アトリビューション、ホリスティックというキーワードはいくつかの重要な課題も示唆している。
まず、どういう形、どういう組織で取り組むのか、という問題だ。筆者の個人的な視点だが、日本においてはメディアごと、広告商材ごとに担当者が存在し、各々の担当者による各々の最適化をすすめるという、いわゆる「分業体制」ともいうべき形が(無論そうでない形もあるだろうが)現状では主流ではないかと考えている。
しかし、今後は消費者とのタッチポイントが多岐にわたるようになり、数学的、科学的な分析が必要となり、コンテンツの制作や測定技術、データ連携などで今までよりもさらに高度な技術への適応力が求められるようになる。その上、それらをホリスティック(統合的)に取り組む必要性が出てくるわけである。
そうなると、今までの「分業」体制ではなく、各分野のエキスパートによる「協業」体制の構築が必要になる。その協業は必ずしも社内リソースに限定しない形もあり得るだろう。SESのセッションでも、オンラインマーケティングの選択肢が広まり続け、一つ一つが複雑になっていく中、各分野を掘り下げるエキスパートは必要で、それを取りまとめるプランニング能力、プロジェクトマネジメント能力の高い人材が求められるとしていた。
上記にあるような新しい取り組み方、組織、ひょっとすると業態にまでどういう形で市場が変容するのか。逆に日本ではそういった現象は起こらないのか。米国でも、若干内容は異なるが、似たような問題はかなり強いレベルで認識されている。個人的な所感では、各社あるべき姿を模索している状況だ。
日本においてはどうなるのか、その点はまだ筆者自身でも答えが出ているわけではない。しばらく考えていくことになりそうだ。
もう1点、明記しておきたいポイントが消費者のプライバシーに関する問題だ。「消費者のタッチポイントの拡大」という表現は、「消費者のインターネットでの行動をどこまで捕捉するのか」と言い換えることもできる。そして、アトリビューションやリターゲティングなどの広告手法は、度が過ぎると「Creepy(気持ち悪い)」と消費者から受け止められかねない手法だ。
米国におけるNetwork Advertising Initiative(NAI)やDigital Advertising Alliance(DAA)のように、消費者が自身の判断で広告関連のCookieを一括でオプトアウトできる環境が、残念ながら日本では整備されていない。この点においては、業界をあげ早急に横断的に対処すべきだと個人的には考えている。
広告効果の最大化とマーケティング施策を成功させること。そして、消費者のプライバシーをどのレベルでバランスを取って市場形成していくのか。これらは業界全体で考えるべき問題である。
◇筆者
■治田耕太郎
株式会社クロスリスティング
ビジネスディベロップメントディレクター
ライコスジャパン、アイレップ、オーバーチュアを経て現職。SEMのみならずオンラインマーケティング全体を分析し、現在は検索ログを活用した新規事業開発を主に担当。代理店、メディアでの経験を活かし、多角的な視点で語られる自身のブログ「検索エンジンマーケティング考」も人気を博している。
■杉原剛
アタラ合同会社
代表取締役CEO
オーバーチュア、グーグルでの両検索エンジンの広告事業に携わる。現在はアタラ合同会社 代表取締役CEO。Web APIを活用したリスティング広告の自動化/効率化システム開発、リスティング広告体制構築のコンサルティングを行う。また、アトリビューションマネジメント手法によるマーケティング全体最適を提唱しており、欧米の事情にも詳しい。
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