デザインから見るデジタルプロダクツ--第7回:NTTドコモ「P703iμ」(パナソニック) - (page 5)

インタビュー・文:木村早苗2007年05月17日 12時44分

プリインストールコンテンツは「TOMATO」!中身までこだわる


--携帯電話としての使いやすさ、見やすさという点でもデザインの力が発揮されていますね。

リー ええ。いくらかっこよくても使いにくかったら、意味がないですからね。特にボタン部分はもっとも使用頻度の高いところですから、ボタンが押しやすいよう工夫を2つ施しています。

 キーボードは1枚のシートに印刷を施したシートキーを採用しているのですが、1つは印刷で立体感を出し、キーにクリック感を感じられるようにしています。もう1つは、キーのレイアウトを調整し、指の動きに合わせて中列を少し上にずらしているんです。

 また、バックライトには均一に光り、暗い場所でも視認性の高い有機ELを採用しています。通常濃いブルーのライトなのですが、ボディデザインとイメージが違ったので、淡くて白っぽいブルーになるように技術の方にお願いしました。

シートキー 1枚のシートに印刷されたキーボタン部。中列のみを少し上にずらして配置することで、無理のない動きでプッシュできる

--プリインストールコンテンツをロンドンのクリエイター集団「TOMATO」が作られていますが選ばれた経緯は?

リー 「スタイリッシュ」「上質」というイメージを伝えていたコンテンツ担当から、内側にもこだわるべきだという提案があったんです。それでコラボレーションが決まった。コンテンツには「深み」が必要だということで、携帯電話は薄いけど中を見ると奥行き・空間が感じられる、そんなグラフィックにしてもらいました。

 お客様にイメージのコンフリクトを起こさせるという感じですね。開いた時のイメージを裏切ることで、楽しさを感じてもらいたかったので、いかに喜んでいただけるかを考えました。

 黒はスタイリッシュ、シルバーは金属と自然、赤は和風で洒落たイメージなど、デフォルトの待ち受けやメニュー画面も変えています。

コンテンツ プリインストールコンテンツは、ロンドンのクリエイター集団「TOMATO」により制作されたもの。全体的に奥行き感、空間を感じられるグラフィックが採用されている

技術の限界を理解した上でデザインする


--販売状況も好調なようですが、店頭で完成品をご覧になられていかがですか?

リー 厳しい制約の中で、よくここまでまとめられたなと思います。あと少し細かい処理ができればとは思いますが、物づくりの面で言えばこれが限界なので。

 デザイナーはアーティストではないですから、物づくりについても理解しなければならないんです。そこを理解した上でいかにベストなデザインを出すか、それが我々の仕事だと思っています。技術の限界をきちんと知っていないと、単に「こういう風にしたい」では通じないですから。

 その辺りの意識が、インハウスデザイナーと事務所デザイナーとの大きな差だと思います。

--ご自身では「P703iμ」のクロムシルバーをお持ちですね。

リー 3色とも持っていますが、一番実現が難しかっただけにクロムシルバーには特に思い入れがあるんです。私はジッポを服で拭く癖があるんですが(笑)、この携帯電話もそんな風に大切に使ってもらえたらという思いも込めて。愛着を持っていただけたら物としての存在価値も上がるし、携帯電話が消耗品ではなくなるはずですから。

 ベンツはあえてキーチェーンを重くすることで高級感を出すんですよ。時計の重みもそう、高級さや上質感を表現するためなんです。そういう感覚も含めて、この携帯電話は料理みたいに丁寧に1品ずつ仕上げたものです。それぞれに味がある。人もそれぞれ違いますから、ぜひ自分に一番相応しい種類を選んでいただきたいですね。3色ではなくて3種類、質感で目移りできるようなデザインにしてあります。

--「P703iμ」では、今までの携帯電話には薄さと質感を実現されましたが、今後、どんなデザインにチャレンジしてみたいですか?

リー うーん、僕にとっては「携帯電話をデザインする」のではなくて、携帯電話というツールを使って「人間のコミュニケーションをどうデザインするか」なんですね。

 例えば、メールや携帯電話でしかコミュニケーションが取れないのは、本当のコミュニケーションなんだろうかと思ってしまう。でも例えば、この携帯電話がきっかけで「あの人の携帯電話かっこいいな」と目を合わせることになったら、それはひとつのコミュニケーションになるでしょう。だから、そんな風なツールをデザインしていけたらと思います。もしかしたら形は全然違うかも知れないけど(笑)。

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