キアヌ・リーブス新作「A Scanner Darkly」--アニメと実写を融合した技法「ロトスコープ」とは - (page 2)

点をつなぐ

　Rotoshopは、他のロトプログラムが実装する一般的なスプライン指向の基本ロトスコープ機能に、描画ソフトウェア的なインターフェースを組み合わせたものだ。Rotoshopを使うことで、何時間にもわたって点を結ぶという単調な作業の代わりに、ポインティングデバイスをブラシのように動かすだけで明るさ、色合い、透明感を描き出すことができる。

　「Rotoshopは、数学的な精度という点では他のソフトウェアと同じレベルだが、長編映画全体をロトスコープで制作するにはこれしかない」とMuszalski氏は言う。

　Rotoshopを設計したのは、Bob Sabistonという人物だ。Sabiston氏はMITでビジュアル効果を専攻し、Rotoshopの所有権を持つ制作会社Flat Black Films（テキサス州オースチン）のオーナーかつ唯一の社員でもある。

　「元々は、すべての点を手でなぞるという発想だった」とSabiston氏は説明する。「私のアイデアは、人の顔の上をフリーハンドでなぞって、その人物の表情を捉えるというものだった。それを実現するソフトウェアを書く過程で、時間を節約できるツールを思いついた」（Sabiston氏）

　「カーズ」、「チキン・リトル」、「マダガスカル」、「コープス・ブライド」、「Mr.インクレディブル」といった映画のヒットで、ハリウッドではアニメーションが引き続き好調を維持しているが、CG、手書きアニメ、ストップモーションといった技法は、依然として専門家の領域だ。映画全編をアニメーションで作成するのは骨の折れる作業である。

　デジタルロトスコープ効果を作成するには、アニメーション作成者、つまりロトスコープモンキーが何時間も費やして、1つ1つのフレーム内で人物の輪郭を表す点を結ぶことでフィルム上に描画し、色付けする。通常は、リアルな動きを出したり、ビジュアル効果を強調したりすることが目的だ。

　Sabiston氏、Linklater氏、および「A Scanner Darkly」のプロデューサーTommy Pallotta氏が、Rotoshopを用いて、全編デジタルロトスコープでアニメーションを作成したのは、2001年に公開された「ウェイキング・ライフ」という作品が最初だった。この作品は高い評価を受けたが、興行的には成功とは言えなかった。

　同じ手法の2作目となる「A Scanner Darkly」で、Linklater氏とPallotta氏は「ウェイキング・ライフ」よりもリアルで統一されたイメージを出そうと考えた。「ウェイキング・ライフ」のときは、どこか幻覚のような現実感のないリアリティが、シーンごとに美しく変化する複数の短編で表現されていた。話によってはかなりアニメに近い場合あれば、実写に近い場合もあった。

　「A Scanner Darkly」では、そうしたバラツキをなくしたのだが、違いはそれだけではない。

　2004年春に撮影が始まると、Sabiston氏は、ぼかし、歪み、色の階調といったコミック本のような効果を出せるようにRotoshopを大幅に改良する作業を始めた。

　「スクランブルスーツ（おとり麻薬捜査官が着用するスーツ）特有の変化するレイヤなどを表現するため、このような特殊効果を多数追加した」とSabiston氏は説明する。「複雑な映画になることは分かっていた。そのためにどのような効果が必要になるのかも把握していた。だから、それらをすべて少しでも簡単に実現することに特化したソフトウェアを完成させた」（Sabiston氏）

　映画は全編ロトスコープで制作されたため、早朝から出演者のメークをしたり、細かいセットを作成したりといった作業は不要だった。撮影は6ヶ月で完了したが、アニメーションの作成に1年以上が費やされた。当初は2005年9月に公開を予定していたが、アニメーションの作成が思うように進まず6ヶ月の公開延期が2回繰り返された。大人も子供も同じように楽しめるアニメーション作品にすることが、芸術的な観点からの目標だった、とSabiston氏は語った。