天王洲をスタートアップが集う実験島に--寺田倉庫がビジネスイノベーションプロジェクトを行う狙い

 寺田倉庫は、東京都品川区にある天王洲エリアに、スタートアップやベンチャーを誘致し、ビジネスイノベーション拠点とするプロジェクト「Isle of Creation TENNOZ」を4月17日付けで発表した。

 倉庫をリノベーションしたインキュベーション施設を設け、スタートアップの成長を支援するインキュベーション事業「Creation Camp TENNOZ」や、スタートアップが成長する過程で必要となるオフィスや共有施設を提供するワークプレイス事業「Creation Hub TENNOZ」を展開する。

 プロジェクト第1弾として、Creation Camp TENNOZの1期生募集を開始。会社設立から2年以内のシード期のスタートアップが対象で、すべての産業や技術分野が対象となっている。選考を通じて最大10社を決定し、オフィスとしての施設利用料の2年間無償、寺田倉庫からコンバーティブル・エクイティによる1社1000万円の出資、勉強会の定期開催、投資家や事業会社のメンターなどのサポートを提供する。

 天王洲は、近年“水辺とアートの街”として芸術コンテンツの集積や文化の発信拠点として、地域のにぎわいや魅力を創出する取り組みを実施しているエリア。そしてこのプロジェクトは、天王洲がスタートアップの実験基地として、起業家やアーティスト、クリエーターなど多様な人々が交流し、街と企業が共創するエリアとなることを目指すもの。その背景や狙いを、寺田倉庫でプロジェクトを推進している執行役員CEO付ミライ創造室 室長の月森正憲氏ならびに、CEO付ミライ創造室 副室長の閑野高広氏に聞いた。

寺田倉庫 執行役員CEO付ミライ創造室 室長の月森正憲氏(左)、寺田倉庫 CEO付ミライ創造室 副室長の閑野高広氏(右)
寺田倉庫 執行役員CEO付ミライ創造室 室長の月森正憲氏(左)、寺田倉庫 CEO付ミライ創造室 副室長の閑野高広氏(右)
  1. 海外における“水辺とイノベーション拠点”と同じ特徴を持つ
  2. 天王洲は“環境がいい”“実験島になれる場所”
  3. スタートアップはどの場所で成長するかが求められる時代

海外における“水辺とイノベーション拠点”と同じ特徴を持つ

 天王洲は、一般的にイメージされる東京都心からは少し離れた地域となっているものの、新幹線が発着し大手企業が拠点を多く構える品川駅に近く、さらに羽田空港にもアクセスがよく、ビジネスとして都会の喧噪から離れて集中しやすい環境や、交通利便性がある地域と、2人は説明する。

天王洲の風景
天王洲の風景

 こと品川駅周辺エリアでは、高輪ゲートウェイ駅に隣接する「TAKANAWA GATEWAY CITY」(高輪ゲートウェイシティ)の建設や、創業支援に力を入れる大崎五反田エリアの「旧ゆうぽうと」跡地の「五反田JPビルディング」に「品川区立五反田産業文化施設 CITY HALL & GALLERY GOTANDA」が開業する中で、隣接エリアにあたる天王洲も水辺とアートの街を打ち出すだけでなく、ビジネスが融合することで、よりクリエイティブの街にできると考えているという。

 海外に目を向ければ、“水辺とイノベーション拠点”となる事例として、フランス・セーヌ河近くの「STATION F」など、古い建物をリノベーションしたビジネスイノベーション拠点があり、スタートアップのエコシステムに貢献しているという。海外では、水辺の地域に大きな工場が建設されていたり、ウォーターフロントとして発展するなかで、時代が進んだ先に、利活用としてスタートアップやものづくりに活用する事例もあり、同様の特徴を持つ天王洲は、その可能性を秘めていることも、取り組みの背景にある。

 「日本では、新築のビルや施設にスタートアップの育成機能を備える流れがある。一方で、欧米に目を向けると、インナーハーバー (内港部)問題とその解決として一気に再開発するような潮流があり、ビジネスイノベーションとなった場所では、水辺というだけではなく、もともとあった施設の機能をうまく活用して、スタートアップ向けに再利用するリノベーションも、大事な要素としてある。今回の取り組みはもともとあった施設を有効活用するというもので、海外での文脈に当てはまると考えており、ポテンシャルがあると感じている」(閑野氏)

 寺田倉庫では倉庫業のみならず、これまでも日本IBM主催の「Think Summit」や、ハッカソン「Junction Asia」、スタートアップカンファレンス「Takeoff Tokyo」をはじめとして、倉庫空間を活用したビジネスイベントを開催。ほかにもスタートアップに対して、事業会社として連携する形での立ち上げ支援を行ってきたという。また天王洲においては、スタートアップのLOMBYが、自動配送ロボットの走行実験を行っているほか、まちづくり団体が大学と連携し、運河沿いのボードウォークに、PCスタンドのモジュールを開発して手すりに設置するなど、水辺空間をビジネスイノベーションに活用する実証実験を実施している。

 こうしたまちづくりや事業会社としての価値創造、スタートアップ支援の経験を活かし、Isle of Creation TENNOZのプロジェクトを開始することにしたという。

寺田倉庫ではスタートアップカンファレンスも開催(2023年に開催された「Takeoff Tokyo」)
寺田倉庫ではスタートアップカンファレンスも開催(2023年に開催された「Takeoff Tokyo」)
自動配送ロボットの走行実験
自動配送ロボットの走行実験
水辺空間をビジネスイノベーションに活用する実証実験を実施
水辺空間をビジネスイノベーションに活用する実証実験を実施

 インキュベーション事業のCreation Camp TENNOZは、倉庫空間を活用した創造の場を提供するとともに、実現に向けた支援をスタートアップに提供するという取り組み。インキュベーションエリアとしては、保有倉庫にある約200坪のエリアをリノベーション。また寺田倉庫にはイベントエリアや多目的エリアもあることから、インキュベーションエリアだけではないところも含めて活用し、成長を支える仕掛けを作っていく。

 インキュベーションエリアは、スタートアップだけではなく事業会社やベンチャーキャピタル、メンターが在籍するような施設とし、横のつながりを感じられるような、コミュニケーションを活発にするような雰囲気にしていくという。サポート体制も構築中で、主役はスタートアップとしつつ、この先には事業会社も主役にしていきたいとし、プロジェクトの賛同企業である日本航空(JAL)をはじめ、天王洲や品川になじみのある企業を意識して、体制を整えていくとしている。

インキュベーション施設イメージ画像
インキュベーション施設イメージ画像

 その先にある展開としては、ワークプレイス事業のCreation Hub TENNOZも進行中。寺田倉庫も含めた天王洲エリア全体を活用して、スタートアップやベンチャーが集まるような事業を検討している。その背景として、天王洲エリアにおけるオフィスビルの空室率が一定あり、20%を超えているというビルも珍しくない現状があるという。

 2023年以降は都心部における新築オフィスビルの供給が増加しており、都心で人気のエリアでも苦戦している状況であるなか、天王洲はさらに厳しい状態と指摘。この課題に対する問題解決の策としてのワークプレイス事業であり、天王洲エリア全体でスタートアップやベンチャーが入居しやすい環境の構築に向け各方面に働きかけていくという。

 天王洲のメリットは、品川駅からの近隣としてはオフィスにおける坪単価が比較的安いこと、また前述のように羽田空港にアクセスしやすく、さらには新幹線をはじめ、将来的にはリニア中央新幹線も予定されていることを踏まえると、地方と東京をつなぐハブになりえるポテンシャルがあることを説明する。

 代表的な事例になりそうな動きとして、プロジェクト賛同企業で、北海道で多くのドラッグストア「サツドラ」を展開しているサツドラホールディングスは、札幌で運営しているコワーキングスペース「EZOHUB SAPPORO」に続き、リージョナルインキュベーションオフィス「EZOHUB TOKYO」を2024年5月に天王洲で開設予定。東京はもとより、国内各地と北海道をつなぐ拠点として展開するという。またJALについても天王洲に本社を構えているほか、寺田倉庫の1区画を活用したオープンイノベーションの拠点「JAL Innovation Lab」も構えている。他の会社の取り組みともうまく連携しながら、まちづくりを進めていきたいという。

天王洲は“環境がいい”“実験島になれる場所”

 天王洲については、“環境が良い”ことが一番の特徴と、2人は口をそろえる。新しいものづくりがしやすい空間、水辺といういろいろな想像がかき立てられるような雰囲気や、日常的にアートなどのカルチャーに触れられる環境など、新しい価値観を作り出す最適な環境が備わっていることを、天王洲の持つ力と語る。スタートアップやベンチャーが集まる地域として、東京都心では先行している地域がありつつも、高層ビルが建ち並ぶ都心の中心地などでは思いつかないアイデアも出てくる可能性は秘めているとともに、そのことを期待しているという。

 そう考えていることの背景として、寺田倉庫が1950年に天王洲で創業して以降、倉庫業だけにとどまらない、独自の発想でビジネスをしてきたのは、端っこであったり島と言えるような場所だからこそ、という実感もあるという。それゆえ、都心でも中心と言えるような場所で成功した人たちが集まるような場所で起こすゼロイチと、天王洲のような場所でおこすゼロイチは、性質が違うのではないか、そして集うベンチャーも違うタイプになるのではという仮説とともに、その感覚を若い方々にも体感してほしいと説明する。

 また、天王洲のボンドストリートは、倉庫街の雰囲気を残しつつ、魅力向上のためのプレイスメイキングの一環として自費で無電柱化を実現している。また、運河に浮かぶ水上レストラン「T.Y.HARBOR River Lounge」など東京では先駆けとなった事例を手がけてきたほか、東京初のプロジェクションマッピング活用地区に指定されたのも天王洲となっており、先鋭的な取り組みがしやすい地域でもあるという。

 「まさに実験島になれる場所。スタートアップのみなさんが、柔軟な発想で実施したい取り組みがあったとき、それをどうやったら叶えられるかを、我々も含めて地域ぐるみで調整をしていける場所。それを実施することで、さらに魅力が増し、幅を広げられる地域。切り離されている場所でもあるので、都心の中心部ではやりにくいこともできる可能性はある」(閑野氏)

 「最近では、企業が大都市圏の近隣地域にあるビルを活用してインキュベーションに取り組む事例もあるが、我々はそれらとも若干違う形。より小さなエリアで、寺田倉庫だけではなく賛同いただいた複数社で手を取り合って取り組み、一緒に作っていくもの。ある意味 “スタートアップ島”みたいな雰囲気にしていきたい」(月森氏)

 加えて、寺田倉庫ではアーティストの支援も行っており、「TERRADA ART COMPLEX」ではアートギャラリーはもとより、制作場所を必要とする作家のためのアーティストスタジオも併設。アーティストと起業家が同じ場所に集うことで、お互いに刺激を与えあいながら育つ場になれるとし、創造するクリエーターが集う場、創造があふれる街にしていくことも、目的としているという。

「Isle of Creation TENNOZ」全体像
「Isle of Creation TENNOZ」全体像
「Isle of Creation TENNOZ」支援企業
「Isle of Creation TENNOZ」支援企業

スタートアップはどの場所で成長するかが求められる時代

 月森氏は、今回のプロジェクト自体も実験としつつ、スタートアップの事業立ち上げの仕方にも変化が出てくる期待も寄せている。

 「今までは、漠然とスタートアップは東京の都心に行くというイメージがあったと思うが、果たして成功につながるかと言えば疑問もある。さらに今では首都圏以外の地域でもスタートアップが成長できるようなステージも整いつつある。そうしたなかで、これからのスタートアップやベンチャーはどの場所で成長するかという、目的を踏まえて考えなければいけないし、それが求められる時代になる。そうなったときに、漠然と都心に行くのではなく、あえて天王洲に行くと思ってもらえるように、こちらとしても来てもらえる意味を整える必要がある。そして、天王洲は東京のなかでもベンチャーに魅力ある場、優しい空間になれると思っている」(月森氏)

 プロジェクトとしても、かなりサポートは手厚いものにしているなかで、単に投資とリターンという考えだけではなく、天王洲という街に対してどう貢献するかを重視したものにしているという。それは寺田倉庫が天王洲に根ざしているからこその考え方でもあり、賛同した天王洲や品川などの企業も含めて、盛り上げていくことが大事であると説く。

 「天王洲は、約40年前に民間企業が集まって大規模開発が行われた際、テーマを『人間の知性と創造性に働きかける環境づくり』としており、今でも通用するようなテーマになっている。その結果、倉庫の場所だったところから、人が集まる場所に変わっている。小さな出島と言えるようなエリアで、ゆったりとして空気感と、ここに集まる人はひとつになれるという雰囲気は、他の場所にはない大きな価値。その環境の構築や価値を高めることで、創造する人たちが集まる街を目指したい」(月森氏)

Creation Camp TENNOZ公式サイト
プレスリリース

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