導入フェーズに対してアプリケーション開発者が利用する機能として注目できるのは、AIを容易にAPI化する機能だ。これにより、多様な目的に応じて、企業独自のデータやノウハウを活用して作成した分析手順やモデルを容易に新たなAPIとして実装することが可能になる。アプリケーション開発者は、データサイエンティストが作成したNotebook(分析手順)をAACloud上に置くだけで、AIによる処理をAPIとして提供でき、また、アプリケーションに容易にも組み込むことが可能になる(図3)。
図3:API化によりAI機能を容易にアプリケーションに組み込み可能に
AACloudはNECのクラウド基盤サービス「NEC Cloud IaaS」で利用することができるが、お客様の要望に応じ、他クラウド環境やオンプレミス環境でも柔軟に利用することができる。「アプリケーション開発者は、個人情報保護やサイバーセキュリティ対策、社内ポリシーなどの規則やデータの保管場所に合わせて、最適な環境にソフトウェアを配置することができる」(菅野氏)
また、活用フェーズでユーザーや運用管理者が利用する機能として注目できるのが、ダッシュボード連携により予測モデルのパフォーマンスを確認できることだ。OSSベースのログデータ解析/可視化ツールや検索エンジン連携させることで、予測結果と予測モデルをわかりやすく可視化することができる。
なお、AACloudはコンテナ型仮想環境のDockerと分散処理フレームワークのApache Sparkを搭載しており、分析環境はユーザーごとにコンテナで起動し、処理が重くなったらノードを追加してスケールアウトすることが可能で、大規模データ処理にも対応している。また、独自に実装したアルゴリズムやOSSのライブラリをアドオンとして追加し、分析機能を拡張することもできる。
NECでは、AI活用を支援するサービス提供についても力を入れている。AI・アナリティクスの専門知識を立ち上げてから5年目に入り、多様なプロジェクトの経験を積んだデータサイエンティストやアプリケーション開発者を有している。
データサイエンティストやアプリケーション開発者の知見を活かし、お客様のチームの一員として協働することで、これまでに紹介してきた検証・導入・活用のフェーズだけでなく、その前段階にあたる調査・企画のフェーズも含むAI活用ライフサイクル全体をお客様内の導入目的や体制、その変化に合わせて、フレキシブルにサービスを選択、組み立てサポートすることができる。(図4)
図4:AI活用ライフサイクルとサービスメニュー
たとえば、AI活用仮説検証サービスでは、NECのデータサイエンティストが、導入に至る検証計画になるよう考慮した上で、AI活用の期待効果を明確化し報告書として提供する。これにより、お客様の意思決定のスピードを速め、シームレスに効果の高いAI導入を進めることができる。
AACloudは実際にどのような使われ方がされているのか。金融業向けの有望顧客の予測や、通信業向けの通信器の在庫最適化、製造業向けの品質予測、インフラ事業者向けの電力需要予測など多種多様な業種・業務で利用されているが、その中でも多く利用されているのが小売流通業向けの日配品需要予測である。日配品の事例を見ると、店舗の過去の販売実績、気象予報、カレンダー情報、イベント情報など多様なデータを解析することで、日配品の店舗/商品ごと販売数を高精度に予測、販売予測数と店舗の在庫数・納品予定数を基に適正な発注数を算出している。さらに実証ベースで廃棄の削減も効果を実証できているという。菅野氏によると、現段階では分析までNECが請け負う事例が多いが、分析をユーザー自身で行う事例も少しずつ増えつつあるという。
AACloudは、データサイエンティストを育成するためのプラットフォームとしても活用できる。NECグループ社員のうち約2,000名がAACloudを利用している。実践的なデータを使って、Jupyter NotebookやPython、scikit-learnの使い方をはじめ、コラボレーションのとり方や予測モデルの作り方などを学んでおり、データサイエンティストを育成するためのプラットフォームとしての有効性も確認しているという。
NECは今後、AACloudをどのような方向に進化させようとしているのか。菅野氏によると、AI活用の成功のカギは、全フェーズにわたって多様なプロフェッショナルが緊密にコラボレーションをとれるようにすることであり、今後もこうしたコラボレーション環境の拡張を進めていくという。「AACloudは現在、検証・導入・活用という3つのフェーズをターゲットにコラボレーションが可能な環境を提供しているが、今後は、この環境を前段階の調査・企画のフェーズにも拡張し、分析の手順やモデルの作り方、事例などを全フェーズで共有できるようにしていきたい」と、菅野氏は今後の方向性を語った。