JTBと日本マイクロソフトの接点はプロジェクト開始当初からのものだったのですか。
吉永氏 プロジェクト開始当初は別のIT企業と組み、試作品も開発しました。しかしスピード感や実現イメージのすり合わせなどを含めてうまくいきませんでした。そこで日本マイクロソフトさんに相談したところから、JAPAN Trip Navigatorが始まりました。
高木氏 2016年11月ごろはAIブームで各社が学び始めた時期です。JTB様から「AIでどんなことができるか説明してほしい」と問われましたので、AIチャットボットの可能性を示しました。
印象的だったのは、添乗員の方が訪日外国人旅行者に写真を見せられて「場所は分からないがここに行きたい」と問われたというエピソードです。我々はAIチャットボットに写真を投げ込み、類似した場所を示すアプリをすぐに作りました。訪日外国旅行者の需要とJTB様の考える条件を踏まえて、アプリ開発が始まりました。
吉永氏 日本マイクロソフトさんが「作ってきます」と話し、4時間後に「こんな感じで作ってみました」と動画が送られてきました。テクノロジーに明るくないビジネスの人間に取って「動いているものが見られる」のは大きいですね。多くの課題に常日頃から接しているプレイヤーとしては、「このやり方がフィットする」と感じました。インバウンド需要の拡大を踏まえますと、外部環境も常に変化します。課題も同じく変化するため、「作ってリリースしてユーザーからフィードバックを得る」というリズム感をもたらしてくれたのは、日本マイクロソフトさんならではです。
サービスを開発するエンジニアをどのように調達したのでしょうか
吉永氏 観光情報は「るるぶ」を発行しているJTBパブリッシングから提供してもらい、AIチャットボットを活用したコミュニケーションを実現する事で訪日外国人旅行者に必要な情報を提供しましょう、と1つの方向性を見出しました。そこで、我々が実現したいことに類似したサービスを開発している企業として、2017年7月ナビタイムジャパンさんを高木さんに紹介してもらいました。
その後に日本マイクロソフトさんから、3社で試作品を短期で作成するのはどうかと提案があり、2017年10月にハッカソンイベントのHackfestを行い、JAPAN Trip Navigatorに関わるメンバーが参加し、わずか4日間でアプリのプロトタイプが完成しました。
Hackfest実施の翌週には日本マイクロソフトさんと共に、弊社役員へ試作品の報告を行い、あわせて2018年2月にリリースするための稟議を回しています。これまでのアプリ開発と異なり、プロトタイプ開発のスピード感が評価されたこと、またプロトタイプそのものの完成度も高かった為、役員側も完成像をイメージしやすく、無事稟議も通りました。
hackfestを終えてから本格的なアプリ開発が始まりました。JTBのような大企業では社内協力など多様な障壁があったと思います。
吉永氏 訪日インバウンドビジネスというのは、弊社内でもステークホルダーが複数部門に跨ることもあり、我々の部門だけで全てを決めると社内で軋轢が生まれる危険があります。その為、アイデア出しの部分を含めてプロジェクト化しました。私は訪日インバウンドビジネス推進部に所属していますが、プロジェクトには経営企画部門や、Web販売部門、さらに事業開発部門やグローバル戦略部門、IT企画部門など各方面の社員を巻き込みました。日本人向けのビジネスを担当としている部門にも参加してもらいました。組織横断型のプロジェクトとすることで社内連携や合意形成に多くの時間がかかる、といった問題を解決しました。また、プロセスを透明化することで、経費や進捗をつまびらかにしています。
日本マイクロソフトさんやナビタイムジャパンさんとの座組も功を奏しました。技術力はもちろんですが、ナビタイムジャパンさんはアプリ事業で成功モデルを持たれた企業です。JTBも数多くのアプリ開発に取り組んできましたが、成功体験を語れる人間がおりません。そこで彼らの事業ノウハウを教えていただき、ナビタイムジャパンさんがお持ちでない訪日外国旅行者への顧客接点や観光情報、観光自体の知見を提供しました。また、日本マイクロソフトはグローバル企業として広く海外の知見、ネットワークをお持ちです。JTB単独では本プロジェクトは成し得なかったでしょう。
開発からローンチまでの苦労はありましたか。
吉永氏 苦心したのは3社によるイメージのすり合わせですね。SharePointの活用など日本マイクロソフトさんがリードしてくれましたが、開発ミーティングを週1で実施し、ビジネス側で描いているものと試作品の差分を伝えました。
JAPAN Trip Navigatorの今後の展開をお聞かせ下さい。
高木氏 JAPAN Trip Navigatorは「永遠の未完成」です。JTB様はローンチ前から次のフェーズで実現したい事を常に考えています。我々は実現するために、技術支援とビジネス協業について、これからも取り組んでいきます。
吉永氏 これまで本アプリを通じた訪日外国人旅行者への価値提供について述べてきましたが、本プロジェクトが見据えるのはそれだけではありません。冒頭で述べた通り、日本には訪日外国人旅行者向けに優れたサービスを構築しているにも関わらず十分な顧客接点を有していない企業が多数存在します。そういった企業と連携し、最終的にはエコシステムのようなプラットフォームを目指しています。各企業と連携する上で重視しているのは、単に優れたサービスが並んだだけのプラットフォームとしないことです。サービスが優れているだけでは顧客からは選ばれません。それらのサービスが旅行客にとって適切なタイミングや場所で提案されることが重要です。例えば「タクシー配車」のサービスを帰国日の空港で提案されても選ぶ人は少ないでしょう。しかし手荷物の一時預かりサービスなら選ばれるかもしれません。そういった適切なタイミングや場所でサービスをチャットボットなどを使い提示できるようになれば、当初描いていたアプリとなります。また、訪日外国人の認知向上、誘客拡大を目指す自治体とも連携を拡大し地域誘客分野でも価値を提供したいと考えています。
JAPAN Trip Navigatorは一定の完成に至ったと思います。最後に実現できた理由をお聞かせください。
吉永氏 特技の異なるメンバーが集まり、同じ夢を見てくれることに価値があります。開発側がビジネスを理解しようと寄り添ってくれるため、我々ビジネス側も開発に寄り添えます。
高木氏 各フェーズにアイデアソンを設けており、多様な意見を否定せず次のアクションにつなげられないか取り組みました。結果として、エンジニアもアプリで実現したい機能や思いをつまびらかにし、皆が訪日外国人旅行者に対して「日本での旅行を楽しんでほしい」という気持ちを持ち続けられたことです。
吉永氏 日本マイクロソフトさんがハブとして参画していなかったら、存在していないプロジェクトだと感じています。